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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 25

 先輩は一応は抑え役に回ったし三島さんもそれに反対しなかった。
だけど、ふたりとも敵対的なモードを隠しもしないことには恐れ入るよ。
殲滅戦をことも無げに口にする。
とりま、そんな橘さんをこの場では制止してみせた。
けれど、それはあくまで一時的な保留だと脅しをかけたのだからね。
先輩ってばやっぱり大したお嬢だよ。

 「何度でも主の聖名にかけてお誓いします。
これから機会あるたびに誓います。
OFUと桜楓会はあなた方に敵対することはありません、というより不可能です。
秋吉さんまでスタンバってそんな嬉しそうなお顔でこちらを見ないで下さいまし。
そもそも秋吉さん!
あなたの能力はドナム保持者には効果が無いのでは?
・・・アッそうですか。
そういうことですか・・・」
シスター藤原は何かに気付き、エウレカ顔をして掌を拳でポンと叩く。
「・・・話を元に戻します。
毛利さんが亡くなっていた時間線で、疾病も加齢もそれによる死もあったのは当然です。
毛利さんの死で円君からセントラルドナムの半分が失われたのですから。
毛利さんが亡くなってからは三島さんの能力も使えなくなっていたはずです」
橘さんは表情こそ変えなかったが目を少し見開いた。
「なんといっても“マドカズエンジェルズ”のドナムは、完全なる、全き加納円の為にあるのですから。
あなた方は全体が揃って初めて稼働できる。
システム加納円といっても差し支えない共同体なのでしょう。
例えて言えば、あなた方の実態は仲良しの集まりと言うより。
それぞれを欠くことのできない集合知なのです。
秋吉さん。
あなたのドナム、洗脳は“マドカズエンジェルズ”以外のドナム保持者には効果があるのですね?」
秋吉は妖精のような透明な笑みを浮かべる。
「そう、もうお試しになってみたと・・・。
・・・何をどう試したのかは問いますまい。
考えてみれば当たり前ですよね。
自分のドナムで自分を洗脳だなんて無意味ですからね。
集合知の全体である“マドカズエンジェルズ”の皆さんと円君を、集合知の部分である秋吉さんが洗脳できるわけがありません。
何というか“マドカズエンジェルズ”による円君の自己防衛システムは完璧ですよ?
皆さんは円君を守るために存在していて、円君が皆さんを守ることは自分を守ることでもある。
One for all, all for one .と言うことですね。
だから、橘さんがいるのですね。
・・・今わかりました!
おそらく円君の無意識は“マドカズエンジェルズ”の誰かが欠けた時に死を自覚するのでしょう。
だから“マドカズエンジェルズ”を含めた自分の全てを守るために、橘さんなるリセットボタンを用意したのです。
『“マドカズエンジェルズ”を守れなかったのなら最初から全部やり直してしまえ!』と言うことですよ。
多分。
一人は皆の為皆は一人の為とはよく言ったものです。
それにしても円君の自我はなんて我儘なんでしょう。
・・・円君のドナムの半分が毛利さんに託された瞬間からこっち。
この世界は。
この時間線は加納円の為だけに存在するようになったも同然なのですよ・・・」
 シスター藤原は思いつくまま分析を進めて突拍子もない結論に辿り着き、それを口にしてしまった。
そのことについてシスターは、怒っているようにも、酷く怯えているようにも見える。
顔色の白さが更に進んで唇までが白っぽく変わり、身体が小刻みに震えだしたのだから笑っちゃう。
 僕にはシスター藤原の分析?
いやいや惚けた与太話が、とんでもない言いがかりにしか聞こえなかった。
世界は僕のためにある?
バカバカし過ぎて真面目に取り合う気すらおきなかった。
想像力があり過ぎると言うよりは妄想が突飛過ぎる。
シスター藤原のお歳を考えれば『こりゃ一種の認知障害かも』などと失礼な事にさえ思いが至る。
 僕たちの事をシスター藤原にとっての理屈が通るように解釈し。
そこから整合性のとれるストーリーをでっち上げたのだろう。
けれどもここまでくると荒唐無稽を通り越して、最早シスターの正気を疑うレベルだよね?
 お祈りの姿勢で跪(ひざまず)いたままシスター藤原はちょっと逝っちゃった目でぶつぶつ呟いている。
さすがにまずいと思ったのか萩原さんが声を掛けヒッピー梶原が背中をどやしつける。
シスター藤原は大きな目をぱちくりするとこっちの世界に戻ってきた。


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