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J3 第27節 レビュー 【アスルクラロ沼津 vs 鹿児島ユナイテッドFC】準備の質

2020.11.15 J3 第27節
アスルクラロ沼津 vs 鹿児島ユナイテッドFC

悄然。

熊本戦の勝利から一変、失意の敗戦でした。

2位長野との勝ち点差は9。
残り試合数は7。厳しい。

金監督もHTのコメントで、「逆転出来なければ今シーズンは終わる。それくらいの気持ちで闘おう」と檄を飛ばした今節を落としたショックは大きいです。

そんな今節ですが、「鹿児島の狙い」、「曖昧なプレス基準」、「沼津の対応」、「FWの交代」の4点について私見を述べようと思います。

ご笑覧ください。

0.スターティングメンバー

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まずは沼津。
前節からは、CBの一角が7番谷口から22番徳武に替わっています。

また前節のアップ中にアクシデントがあった29番今村は今節もお休み。前節同様35番渡邊りょうがスタメンに名を連ねました。

続いて鹿児島。
なんといっても水本がスタメン復帰しましたね。

まだまだ体が重そうというか、トップコンディションには持って来れていないかなというのが率直な感想ではありますが、持ち前のインテリジェンスを発揮した場面も大いにありました。

このようなスカッドで始まったゲーム。
まずは鹿児島のボール保持での狙いから触れていきます。

1.鹿児島の狙い

試合開始から読み取れたボール保持時の狙いは主に2点。
いずれも沼津の特徴を抑えて、いかに優位に立つか考えられた策でした。

密集の裏返し

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一方のサイドに誘導すると、逆サイドのSHまで中央で位置取り、ボール奪取を試みる沼津。
当然、逆サイドが空きます。取り上げるのは1:30〜のシーン。

酒本が落ちてくることで沼津のプレスの「誰が・どこまで(どの高さまで)行くのか?」という基準が曖昧になったことも幸いしました。

プレスが甘くなったところを精度の高いキックでサイドチェンジのボールを田中へ送った酒本。

擬似カウンターに移行し、中原のファーストシュートに持ち込むことが出来ました。

ここまで技術的にも盤面的にもハマった場面はなかなかありませんでしたが、狙いの一つとして共有していたことが窺えるシーンは散見されました。

大外を制する

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ボール保持での沼津はSHが中央に絞り、SBが大外レーンを滑走することで幅を確保します。

前述の守備におけるサイド密集も、この構造の中でSHがボール保持時から中央寄りに位置出来ることで、スムーズに移行出来ているというわけです。

そして、田中・砂森とJ3屈指の質を持ったSBを擁する鹿児島としても、大外で優位を得たいところ。

そのため今節は、ハーフスペースに位置したSHへのボール供給を意識的に行なっていました。

抜粋するのは、7:40〜のシーン。水本→米澤の楔が通ったシーンです。

まず、中原は8番普光院を中央にピン留め。
SH-DH間を締めさせないポジショニングをしています。

さらに、楔を受けた米澤の位置は沼津2ndラインのすぐ後ろ。沼津DFラインが迎撃出来ない位置でボールを受けます。

反転して前進を始める米澤。
沼津ブロックを圧縮&後退させつつ大外の田中に出します。SB同士の質的優位なら得られる田中。このような形から幾度となくチャンスを演出しました。

米澤の一連のプレーは、ハーフスペースで受ければ万事OKなのではなく、ハーフスペースを活用した結果、どうすれば時間とスペースの貯金を維持したまま前進出来るか?というお題に対するセオリー通りな回答ですね。お見事でした。

大枠では、以上の2点のような観点から何度か決定機を作った前半。
正直、一つくらい入ってもいいだろ!と思います。

2.曖昧なプレス基準

一方で守備面。
こちらは準備の観点から怪しそうな点がちらほら。

2失点目はセットプレーの流れからDFのプレスが届かない所からクロスを放られたところから。

その後は、親の顔より見たダイアゴナル&ボールウォッチャーのコンボによるので、あえて言及しません。

それは失望というより、同じ悩みを抱える他チームを見ていても、外から見えるほど簡単に修正出来る類の話ではないと思っているからです。

ただ、1失点目は沼津SBの前進を妨げる所作を早めに共有出来れば防げた可能性が高かったと思っています。

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12:54のシーンを取り上げます。
場面は、沼津右サイドがSH・SB共に上がり、サイド密集していたところから裏返され、8番普光院にボールが渡ったところから。

このような形で沼津DHが一枚浮いて、SHと対峙する場面が多く見られました。このような場面は、上記のように沼津がボールサイドを変えて、組み立て直した時や、単にFWのチェックが弱い時に起こっていたように思います。

そして、その後8番普光院と米澤の対峙。

米澤としては、普光院を潰すのか、SBの24番深井を追って5バック化してでも追うのか、パスコースを消すのか、など選択肢が考えられますが、いずれも中途半端な対応になってしまっていました。

SBに渡ってしまうと、SHの機動力や最終ラインに吸収され、解決することもあったのですが、1失点目に繋がる沼津の前進はこのプレスの曖昧さから起こっています。

明らかに問題になっていたので、解決策を生み出したかったパターンでした。

3.沼津の対応

沼津も第1項で言及した鹿児島の狙いに対応してきます。第2Qの出来事です。

①SHへの楔を断絶

SHへの楔については、シンプルに選手間の距離を狭める・SH-DH間を通させない意識を高めることで対応しています。

その分、DHが中央にスペースを空けることにもなるので、沼津FWのCBに対するチェックは中切り中心。とにかく中央のコースを消していました。

②展開させないコース切り

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サイドチェンジ対策は33:50〜のシーンを抜粋します。ベンチからの「内側締めろ!」という声を聞いても意図を持って行っていました。

ゾーン2にて4-4ブロックを組み、田中対応で20番佐藤が一人はみ出した状態の沼津。35番渡邊と6番鈴木がビルドアップを規制します。

まず岡本がボールを持った場面。
水本に展開しようとしますが、35番渡邊がコースを切り断念。中原も前方にいたので、CB前に降りていた八反田に預けます。

このタイミングで中原も下がって受けに来ますが、「内側締めろ!」のコーチングのより6番鈴木が中原へのコースを背中で消します。

これにより、逆サイドへの活路が断たれた八反田。
仕方がないので同サイドで前進を始めます。
こうして、サイドでの圧縮が完成しました。

もっともこのシーンでは、八反田がバックパスで作り直します。八反田→岡本→水本と逆サイドに展開しますが、陣形が整っている沼津にとってこのスライドは難しいものではなく、対応が出来ていました。

このような対応をすることで、鹿児島が用意したプランAは徐々に閉塞感が生じていきます。

4.FWの交代

そんな中で、1つのターニングポイントになったのが54分。
馬場・酒本に替えて、薗田・萱沼を投入しました。

恐らく予定調和のプランBだったと思います。
前述のプランAに対し、前線まで上がる沼津SB裏を活用したトランジションゲームの決行です。

主に萱沼をターゲットとしてロングボールを送り、SHやDHが前向きで受けられることで、米澤や牛之濱の特長を出せる機会が多くなりました。

得点もトランジションの意識が高まったところから。
沼津の混乱もあったでしょうが、あのシーンで刺し切れたのは采配が功を奏したと言って良いのではないでしょうか。

しかし得点後、1点リードを守り抜く方向にシフトした沼津は自ゴール前に人を固める傾向が強くなります。

相変わらずトランジションを優位に進められたシーンではチャンスも作れましたが、一度遅らされると沼津は5バックや6バック化も厭わなくなりました。

金監督のコメントにもあったように、SBの位置をさらに高め、サイドの1on1で質的優位を取れるシーンも何度かありましたが、クロスを上げても如何せんゴール前の人数が多い。

また5〜6バック化するので、バイタルが空き、マイナスへの落としが有効にもなりましたが、如何せんゴール前の人数が多い。

大事なことなので2回繰り返しました。
気付けば、点が取れない時の"いつもの"パターンに持ちこまれていたように感じます。

そして今治戦もそうでしたが、理を持って得点するには心許ない戦術でもありました。

状況を打開するには最適ではあるのだろうけども、カオスを扱わざるを得ない戦術。難しいです。

ゴールが近いようで遠い。
そんな時間を過ごし、遂に同点・逆転弾を挙げることなく試合終了の笛が鳴りました。

5.あとがき

沼津戦を振り返りました。

試合中の采配には納得も出来ますが、試合前の守備における準備で、もっと出来たことも無かったかなぁと無念な思いで見ました。

勝ち点計算上、本当に厳しいです。
J3昇格争いの記事を開いても、鹿児島の文字が無くなってきているように感じます。

ここから先、どう考え何を感じるかは個人の自由ですが、チームの決断は尊重してリスペクトを持って共に闘おうと思います。

ただただ、最後まで昇格を目指す前提の闘いを期待しています。チームとして、企業として、当然ではありますけどね。

昇格へ、一縷の望みを託して。

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