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本に宿る温かさ

本とコーヒーを取り扱うお店をはじめて、数ヶ月が経過した。お店といってもまだオンライン販売のみで、たまにイベントなどで出店する程度のもの。特に大きな活動はしていないが、それでもたくさんの方に購入して頂けてとても嬉しかった。

実店舗は自分の暮らしを大切にできる、自然豊かな場所に作ろうと考えている。来年には城崎を出て新たな地域へ移住をするので、そこでいい場所を見つけられたらいいな。

生産背景を大切にしたコーヒー、日常に添う本たちと、季節の焼き菓子のお店。すべて自分の手の届く範囲で、大きくすることもなく、最低限の暮らしができたらそれでいい。

ちいさな畑を持って、自分の食べていけるだけの作物を育ててみたいと考えている。お店で出たコーヒーは全て畑のコンポストに使用し、もっと地に足の着いた生活を実践してみたい。

研究ではコーヒーの出がらしは、肥料としては一年目はコーヒーの残留物であるカフェインなどの影響から、作物に悪影響を及ぼしてしまうそうだ。実験では一年目の収穫量は、コーヒーをコンポストに使わなかった場合より収量が半減してしまったとの結果がある。

しかしながら二年目以降になると、その収量は大きく変化し、コーヒーを肥料に使わなかった場合よりも倍以上の成長を促せるようになるらしい。これはカフェインなどは全て一年目に分解され、コーヒーが多孔質である影響から、微生物や水素分子がその空洞内に滞在することでより良い結果を生み出すことに繋がっているとのこと。

本当かどうかはわからないが、実際に自分で試してみたいと思う。良い結果であれ悪い結果であれ、どれも人生において大切な工程なのだと思うから、やりたいと思ったことは全部やってみたい。

来年になるか、再来年になるかわからないけれど、いつかみんなを招待できるようなお店にできれば何よりだ。ゆっくりでも、いいお店を作りたい。



本が旅立っていく喜びは、取り扱ってみてはじめて実感することができた。自分で選書をする難しさ、在庫を抱えてしまうもどかしさ、何より収益として食べていくことの大変さも同時に理解することができた。

そして当たり前ではあるが、本が売れるということは、新しい本が仕入れられるということ。当然のことがこんなにも嬉しいことなのだと気づけたことが大きな収穫だった。

オンラインでの販売では、お店に立ち寄ったときのような偶発的な出会いが少ないように思う。そして何より手に取ることのできない体験の薄さと、情報量の少なさが課題になると考えていた。

欲しい本があれば、正直に言えばアマゾンで買ってしまう方が送料もかからずに購入することができるし、本をオンライン上で販売する意義がどこにあるのか、ということをずっと模索しながら行っている。

また出版されてからかなりの年月が経過したものは、中古であれば安く手に取ることができるので、新品のものをオンライン上に取り扱ったとしても売れることはないだろう。

そして、価格の高いものは同様に、実際に手に取ることのできない情報量の少なさから、購入までのハードルが高いように思う。自分だったら、本屋で立ち読みをしてから決めるか、図書館で借りるかのどちらかを行うはず。

だからこそ、オンライン上で本を選ぶというのはとても難しい。手頃な価格で、中古があまりに安価過ぎず、どこでも手に取れるような本でないこと。そして勿論忘れてはならないのは、ずっと大切にしておきたい、日常に添う本たちであるということだ。

“日常に添う本”というのを言葉にすることは難しいけれど、お店のなかでぼんやりと明文化している箇所がある。

大切な本は「本」として手元に置いておきたい。
そう感じるようになったのはなぜだろうかと、ふと思いました。
読み返すかどうかに関わらず、ただ物理的に”ある”ということが大切なのでしょう。

家のどこかに”ある”だけで得られる安堵の気持ち。家を掃除したとき、久しぶりに再会する懐かしい喜び。自分の感性の変化とともに、読み返すたびに見つける新しい発見に、つい嬉しくなって笑みが溢れることも。

本には、不思議な温かい力が宿っているのです。
本と出会ったときの記憶や、読んでいた当時の感情とともに、その思い出は大切な時間となって蓄積されていく。
家に眠れば眠るほど、読み返せば読み返すほど、その蓄積は温かい力に変わっていくように感じます。だからこそ、私は本を「本」として手元に置いておきたい。

そんな風に、暮らしに温かな時間を与えてくれる本たちを、ずっと手元に残しておきたいと思える本たちを、皆さんにもお届けできれば嬉しいです。


本やコーヒーを通して、そのモノを楽しむ以上に、そこに伴う温かな時間や体験価値を大切にして貰えたら嬉しいと考えている。

本を読む、コーヒーを淹れる。何かをするという行動のなかからは情緒が生まれる。本来の役割以上に、そこに潜む温かさ、品性、そして柔らかな優しさは人の手によって生まれるものだ。

そして、その体験から私たちの心は整い、日々の暮らしをより豊かにするきっかけに結びついていると思う。



夏の暑さを迎えるころ、本を買ってくださった方が、自分が読み終わってから娘に渡してあげたいとコメントをしてくださったことがあった。その言葉を聞いて、とても温かい気持ちになったことを覚えている。

自分も友人の誕生日には本をプレゼントするようにしていて、将来子どもができたら、本の交換をすることを夢のように楽しみにしている。本という媒体を介して、その人の大切にしている価値観が見えるような気がして、言葉で会話をする以上に豊かなコミュニケーションを図ることができると信じているからだ。

そして本を選んでもらうという体験も、必ずそこには理由が存在するからこそ、その本が自分にとって大切な記憶の一部になってくれるはず。またいつかその本を手に取ったとき、当時の記憶とともに、そこにある風景や感情までも思い出せたらいいなと思う。

先日、またその方が私たちのコーヒーを買ってくださったとき、娘がその本を夏休みの読書感想文として使ってくれたとコメントをくださった。

『何を書いたのかは教えてくれませんでしたが、何か娘の心に残るものがあったなら嬉しいです。』

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その知らせを聞いて、なんとも言葉にできない感情が生まれてきた。素性の知らない方と、オンラインでの販売をするやりとりをしているだけなのに、こんなにも温かな気持ちになることがあるとは思わなかったからだ。

ぼくも必ずお手紙を添えて届けることにしていて、何となくその人を知らなかったとしても、信頼のできる関係性を築いていけたら何より嬉しいことだと思う。ちいさいお店であったとしても、確かな関係を少しずつ紡いでいけるといい。

単にモノを売る・買うといった消費行動以上に、私たちの何かを満たすことのできる温かいやりとりを、これからも続けていきたい。そして、いつかきっとお店ができたとき、みんなと会ってお話ができるように。

まだ間もないけれど、お店をはじめて良かったと思います。
心からありがとう。

sieca / シエカ
Instagram : @sieca.jp
Web : https://sieca.jp/

ここまで読んでくださってありがとうございます。 楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。