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interview11/ここ「ふるさと」かもしれない

金子さん(よさこいチーム代表 兼 ディレクター)

3年前、友達に誘われて
よさこいの社会人サークルに参加しました。
よさこいとは、
チーム皆で趣向を凝らした和装を身にまとい、
「鳴子」というカスタネットみたいな楽器を手※に、
和と現代音楽とが融合した曲にのって町を踊り歩く
日本のダンスの一つです。
戦後の貧しく暗い時代、高知県の商店街の人々が
町を活気づけるために始まったと言われています。
(※違う小道具を持つこともあります)

サークルの代表、金子さんは
その団体と別にもう一団体を運営している人で
自分の時間をほぼ2チームの練習や準備に費やし、
お祭りの日には両方のパフォーマンスに出るために
せわしなく衣装を変え、舞台に立ち続けるものすごくタフな方です。
お祭り会場では他団体の踊り子や運営の方など、
いろんな人に声をかけられており、
業界でかなり顔のきく方なのだと驚きました。

よさこいで生活してるのか?と思ってしまうほど
よさこいに捧げている人、というイメージ。
「金子さんは何者ですか?
普通に働いてるんですか?」
というおかしな質問から聞かせていただきました。

そして今カナダでこれを書きながら、
よさこいしたいな……と思っています。
(取材:2022年1月)


普通に、サラリーマンです。

ーー金子さんは何者ですか?というところから聞いていいでしょうか。


金子さん

変な人に見えるでしょうよ。普通なんだけどね。
社会人をやりつつ、「なるたか」と「れとろっく」というよさこい2チームの運営をやってます。「なるたか」は社会人なりたての20代が多いチームで、「れとろっく」は30歳以上のパパさんママさんが多いチーム。それぞれ活動方針を決めて、実際に回していく感じ。

――よさこいって夏がお祭りシーズンですが、曲作りとか練習期間を考えると、金子さんご自身は通年で活動されてるのでしょうか。

金子さん
そうね。7~11月がお祭り期間で、11~2月が次の年の準備期間。準備期間に次の年の曲・衣装・振りを作って、3~4月は新年度スタートのためにメンバーの募集、4~7月が練習期間。で、7~11月がお祭り。その繰り返しを毎年。

――途切れることなく新年度がくるんですね。1団体運営するだけでも大変そう…ええと、普段は、働いているんですか?

金子さん
そうだよ当たり前じゃん(笑)! サラリーマンですから。

――あ、そうなんですね。あまりに忙しそうなのでよさこいで生計を立てているのかと……。どんなお仕事をされているんですか?

金子さん
印刷会社なんだけど、俺が所属してるのはちょっと特殊な企画の部署。会社で運営している商業施設で、アニメとか漫画とかコンテンツを広く発信するためのイベントを企画・運営するのが仕事です。入社した時から企画職で、これまで食品メーカーとか医療とかアパレルブランドとかコンビニとか、BtoCのキャンペーン企画に携わってきて、今はアニメと漫画を担当してる感じです。

――ほおお企画業務って、結構自分の時間を取られるイメージです。そんな中2団体を運営されているのはすごい……。自分の時間、なくなりそう。

金子さん
そうかな。よさこいは、自分の生活の一部みたいになってるから、嫌だと思ったことはほとんどないよ。「ご飯食べるのやめたい」「服着るのやめたい」って、あまり思わないじゃん。それと同じ。むしろ自分の時間は全部よさこいにあてたいと思ってるから平気。

――ええすごい。「衣食住+よさこい」って感じなんですね。例えばサークルのメンバーの一人としてよさこいに関わる、という選択もあると思うのですが、そうではなく団体の中心で運営をしているのはなぜですか?

金子さん
実は大学を卒業した後、違う社会人チームに入ってたんだけど、だんだん自分の手でチームをつくりたいって思うようになって。それで2014年、25歳の時に「なるたか」を大学の仲間と創設して、その5年後の2019年に「れとろっく」を創設した感じ。

――社会人になって働くことだけでも十分忙しいのに、タフな道を選ぶのはすごいです……。

金子さん
俺はその、踊ることはもちろん好きなんだけど、ただ踊ってるだけじゃ満足できないんだよね。それはなんでかって言えば、チーム運営の大変さと達成感を知っているから。全部自分でやりたくて、だからつくったって感じかな。

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――そもそもの、よさこいとの出会いを聞いてもいいですか?

金子さん
もちろんです。大学に入学した時、友達をたくさん作って大学生っぽいことをしたいなってサークルを探したのね。俺の中で“大学生っぽいこと”っていうのが「旅行」で。運動もしたいと思ってたから、運動系のサークルと旅行系のサークルの2つに入ろうとしてたの。そしたらサークル紹介の冊子で「よさこい」っていうカテゴリーをたまたま見つけて。その中のひとつのサークルのうたい文句が「北は北海道から南は高知まで、全国各地で踊りに行くサークルです」で。それを見た時に、このサークルに入ったら、踊りっていう運動と、旅行が一緒にできて、しかも規模も大きいから友達もできそうじゃんって思って。それでサークルの見学に行って、初めてよさこいを見た。

――おお~。そのパフォーマンスで心が動いたというわけですね。

金子さん
うーんなんというか、パフォーマンスに圧倒されたっていうんじゃなかった。すごい上手な人もいたんだけど、そうでもない先輩もいて。俺はダンスの経験がなかったから、これなら初心者の自分にもできそうだなって。あと、これ踊って北海道とか高知とか行けるのは楽しそうだなって。単純な理由です。

――なるほど。実際にやりたいことはできました?

金子さん
できたよ。サークルというより部活っぽい団体で、ほぼ毎日練習があったから、同期はもちろん先輩とも後輩とも仲良くなれて、交友関係が広がった。しかも1年生の時から北海道、高知、大阪とかいろんなところに行けて、ただの観光じゃなくて踊りに行くっていうのが、すごく新鮮だった。

よさこいに本格的にはまったのは大学2年生の時。俺、高知のお祭りの担当になったのね。担当っていうのは、お祭りの説明会に参加したり、当日のスケジュールを練ったりする、まあ遠足の班長みたいな役割。

――あれ、よさこいって高知県が発祥でしたよね。

金子さん
そうそう。戦後、町おこしのために高知の地元の人たちが始めたのがよさこい。多くの人が参加できるように、条件は曲の中によさこい節を入れることだけ。曲調、ダンスの種類、格好は自由。

――なるほど、それがよさこい。じゃあ大学2年生の時に発祥の地での大役を任されたわけですね。

金子さん
そう。高知のお祭りって他の地域とは全然規模が違って、商店街とか通りとか、町中の数十か所が舞台になるのね。しかも各舞台のタイムスケジュールが一切ないんだよ。踊り子が実際に踊りたい場所に行って、エントリーして、順番を待って踊るって感じ。

――なんて流動的な……。

金子さん
そうなんだよね。昔からの名残でそういう形式で。
だから高知のよさこい祭りは、チームがどれだけ回数多く踊れて、どれだけ目立てたかが大事なのね。中心地は観客が多い分目立てるから人気なんだけど、長い時間待たなきゃいけないから、その分踊れる回数が減っちゃう。だからといって中心地から離れたところばかり回っても、チームが目立ちにくい。

――なるほど。どこをどう回れば多く踊れるか、目立てるかを戦略的に自分たちで考えなきゃいけないと。

金子さん
そう。しかも当日の商店街の混雑状況とか、市内の交通事情とか休憩場所の大きさとかも踏まえて導線を考えなきゃいけない。異動距離が長ければバスを手配したりね。だから本番の1か月前に、当日の流れを細かく考えるんだけど、そうなると、お祭りのことや土地のことをよく知ってる人の知恵が必要でしょ。それで、昔からサークルの面倒をみてくれてた現地のおじさんに、手取り足取り教えてもらったんだよね。

その人はよさこい祭り運営側の偉い人なんだけど、地理的なことだけじゃなくて、よさこいの歴史からおすすめ飲み屋さんまで、高知に関するいろんなことを教えてもらって。その人を通して高知を知って、町の人とふれあって、そうして本番を迎えたら、なんかびびっときた。

――踊りながら達成感を実感した、みたいなものでしょうか。

金子さん
うーん、担当って基本皆のお世話係だからほとんど踊らないんだよ。心が動いたのは、自分が用意した舞台で、チームメイトが照明浴びて踊っている姿を見た時。高知で踊ることって特別だな、毎年高知に帰りたいなって思うようになった。それでなんか、はまっちゃったんだよね。
俺は東京の人間で、郷土愛とかは薄い方。でもその人をきっかけに、別に高知出身ってわけじゃないのに、なんだかそこが自分の「第二の故郷」みたいに思えて。

――素敵。その人がいなかったら、金子さんはここまでよさこいにはまらなかったかもしれない。

金子さん
そうだね。はまるきっかけをくれたのはその人だな。今でも、よさこい以外の話もするほど仲がいいし、自分が運営してる2チームでもお世話になってるよ。

俺はもともと人ごみが苦手で、めちゃくちゃ人見知りで出不精だから、よさこいをやってなかったら家から出ないタイプのままだったと思う。まあ今もおうちで一人でアニメ見たりゲームしたりするのが好きだけど。
人見知りの部分はまだ残ってるかも。あははは。人柱を立てて陰でこそこそ仕事する、みたいな、誰かの補佐的なポジションでいることが今でも多いから。率先して前に出るのはやっぱちょっと苦手なんで。

ーーなんでもできる方!と思っていたんですが、なんだか人間らしいところもあるんだなと思いました…(笑)

金子さん
そんな、普通だよ(笑)。そういうわけで、その高知の経験で「よさこいの活動をやるなら、全部自分でやりたい」って思うようになったわけです。

今は「教える楽しさ」。

――なるほど。大学時代からよさこいを続けて、変化を感じたことってありますか?

金子さん
よさこいはトータル15年くらいやってるんだけど、自分が楽しいって思えるポイントがどんどん変わってるんだよね。最初は、自分がうまく踊れるようになることが楽しかった。
でもそのあとは自分というよりはチームが周りからどう見られるかとか、参加してくれてるメンバーが楽しんでくれてるかとかが大事になってきて。
それでここ3,4年くらいは、後輩を育てることに楽しさを見出してる。若い子やよさこいを知らない人にその楽しさを伝えるとか、踊りの技術を伝えるとか。自分が教えたことでその人の踊り方が変わったり、その人のチーム内での存在感とか。人の成長や変化を見るのがすごく楽しい。

ーー楽しさが変わっていくって素敵です。今後の目標はなんですか?

よさこいにどっぷりハマってる自分だからこそ思うんだろうけど、教えてる子たちの中に「よっしゃ自分のチームつくるぞ」って子がでてきてくれたらいいな~って思ってるかな。下の子をどれだけよさこいにはまってもらえるかが、目標というか、これからの楽しみ。

――今日の話聞いて、ちょっと本場のよさこいが見てみたくなりました。

金子さん
ぜひぜひ。そう思ってもらえるのはうれしいです。 町全体がお祭りをやってて楽しいよ。

――説得力があるなあ……。ちなみに先ほど、インドア派でゲームが好きと言っていましたが、たしかポケモンがお好きでしたっけ。

金子さん
ああ、うん。20年くらいずっと好きですね。ははは。ゲームシリーズは全部やってきたし、グッズとかカードももうずっと集めてて。ここまで来たらあとにひけなくなりました(笑)。やめたらこの20年ポケモンと過ごした日々を消すことになるじゃん。ははは!

――あはは! ポケモンのどこが好きですか?

金子さん
単純なところが好き。大抵のゲームって操作が複雑で難しいじゃん、アクションプレイとか。でもポケモンはコマンドゲームで、ただ技を選ぶだけだから、俺でもできる。
 
――なんだかよさこいを始めたきっかけと近いですね。
 
金子さん
「俺にもできそう」って。確かに。あははは! よさこいは15年くらい。まだまだ続けます。

(終わりです)








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