Interview 20/夢があるから旅する、学ぶ。
カイト(語学学校のクラスメイト・日本人)
語学学校でクラスメイトだったカイトは
人との距離を縮めるのが上手で、クラスの人気者、
どんな国の人であろうと
すぐに友達になってしまうような人です。
そんな彼のSNS、投稿がある度に
新たな場所や仲間に囲まれていて、
まさに「旅人」というイメージです。
日向の道をずっと歩いてきた人と思いきや、
話を聞いてみると、葛藤し続けているような半生でした。
元アーティストで、小学校の教員志望。
たくさんの引き出しを開けてくれました。
思ったのは、「旅人」=旅好き
とは限らない、ということです。
(取材:2022年8月)
旅は趣味には入らない。
――カナダにはいつ来たんだっけ。
カイト
2021年の11月から。9か月前かな。最初の5か月間はトロント(東カナダ)で語学学校に通って、そのあとアメリカ大陸の横断旅行に行って、そのあとバンクーバー(西カナダ)校に転校して、それからまたトロントに帰ってきた感じ。来週からバンクーバーに戻って働くつもりかな。
――えっそうなんだ。短期間で東カナダと西カナダを2往復…忙しい。
カイト
そうだね。トロントは、なじみの場所も仲間もたくさんいるから居心地が良いんだけど、バンクーバーの方がカナディアンの友達が多くて。現地の英語にもっと触れたいし、自分の英語を試したいから、トロントを出ることにしたの。
ちなみにカナダの後はニュージーランドで教育系の仕事に挑戦したいなって思ってる。その後はヨーロッパを一周して、フィリピン留学にも行くつもり。
――うわあすごい……。本当に旅好きだねえ。
カイト
うーんどうなんだろう。旅が好きってわけではないかも意外と。
――え、いろんなところ行ってるから、旅行が大好きなんだと思ってた。違うんだ。
カイト
少なくとも趣味ではない。趣味って言ったらスポーツとか音楽とかファッションで、なんだろう、旅行は趣味って言うよりも「学び」?
――面白い。「趣味」のカテゴリーではないんだ。
カイト
うん、どっちかっていうと、「試練」みたいな?ハハハ。やりたいこととか、なりたい自分像みたいのがあって、それを達成したり苦手なことを乗り越えるために、結果的に「旅」してる感じかもしれない。
――自分の力を試すための旅行……うーん。もう少し教えて!
カイト
そうだね。僕はカナダに来る前に1人で日本一周をしたんだけど。
――すごーい! やっぱ「旅の人」じゃないか!
カイト
アハハ!(笑)。違うんだよ。自分は日本にいた頃歌手を目指してたのね。ある時オーディション番組に出て、1,200人とテレビカメラの前で歌ったんだけど、ものすごく緊張しちゃって、全然歌えなくなっちゃってさ。地に足がついてないような、ふわふわした感覚のままいつのまにか出番が終わっちゃったの。
実はその舞台を最後に音楽の道を諦めようと思ってたの。だからいつもより気合も入ってて、そんな中で大失敗。それで、それが最後は絶対嫌だと思ったの。で、納得いくかたちで終わらせようと思って、全国路上ライブの旅を始めたって感じ。
――なるほど、けじめつけるための日本一周だったんだ。もう少しさかのぼってお話し聞いてもいい?
教師を志すまで。
カイト
いやもう0歳からさかのぼってもらって大丈夫ですよ!(笑)。1994年、生まれました(笑)。母方の家族のほとんどが音楽をやっていたからか、3歳の頃から歌うのが得意で、幼いながら自分には、そういう才能があるなと思ってた。
でも学生時代は、軽音部に入るのはなんかダセえって思っちゃって、スポーツに打ち込んでたの。水泳、サッカー、野球、バスケ。中でも夢中になったのは、バスケと野球だな。中学の時はバスケに熱中しすぎて勉強しなくなっちゃって、親から辞めさせられちゃった。試合では20点くらい取ってたけど、テストでは4点しか取れなかった(笑)。それが人生で初めての挫折だったかも。
――バスケのほうがポイント稼げてた(笑)。
カイト
そうですね(笑)。中学卒業後は、早くサラリーマンになりたかったから、商業高校に進んだの。そこで野球部に入って、でも全然ダメでずーっとベンチ。それでも「三番ショートになる」ってみんなの前で宣言して、誰よりも練習して誰よりも声を出して。部内の空気をよくしようとしたり、プレー以外にも自分にできることをとことんやってった。レギュラーに入るためにはテストの点数も必要だったから、勉強も頑張って、平均点13点くらいだったのを70点くらいまで上げた。そうして自分たちの代になって、副キャプテンを任されたの。それで最後には、念願のショートでレギュラー入りも果たしたよ。
野球部で得たことって「努力が実ったこと」だけじゃなくて、他にもあって。後輩ができたことで、自分は教えることがすごく好きだと思ったんだよね。教えることで成長していくさまを見られるのがうれしいって。それで「あ、教師になろう」って思った。子どもも好きだったから、小学校の教師がいいなって。
――もともとサラリーマンになるために商業高校に入って、野球部で後輩に教える楽しさを知って、先生の道を。商業高校から教師を目指す人ってあんまりいないよね。
カイト
いないね。マーケティングとか簿記とか会計とか、そういう方面に行く人がほとんど。
カラオケに全振り。
カイト
でもやっぱり勉強は苦手だから、大学は、単位さえ取れれば保育園・幼稚園・小学校の免許が取れるところに進んだのね。高校の野球部のおかげで勉強がある程度できるようになったことに満足しちゃって、大学入学後はまともに授業を受けず、出席カードだけ出してカラオケに通うようになりました(笑)。もう遊びに全振りですよ。大学でも野球部に入部したんだけど、放課後部活が始まったら学校に戻る。練習終わったらまたカラオケ戻って深夜まで歌って、ラウンジで寝て、朝がきたら学校行って出席カード出してまたカラオケ……みたいなサイクルをずっと。
――その手のタイプの大学生!(笑)
カイト
だめだめだったのよほんと(笑)。大学2年くらいまでその生活が続いたんだけど、あるとき野球部の先輩と喧嘩して、部活を辞めることになったのね。ポカーンと心に穴が開いちゃった時、友達がEXILEのオーディションに誘ってくれたの。
それで、社会勉強として行ってみたの。会場には当時のリーダーのヒロさんが座ってて、本人を目の前に20秒間与えられるんだけど、緊張して全然うまく歌えなかった。その帰りに「もしあの20秒でどえらいうまく歌えたら、その先はどんな自分になれたんだろう」って、魅力を感じたのね。それで、友達からのすすめもあって、ボイトレに通い始めたの。19歳の頃かな。ボイトレは、んまあ面白いのね。ずっと好きなことだったし、先生もほめてくれるし。カラオケ通い成果もあったのかも(笑)。
ボイトレに通い始めて4日目に、教室が主催するオーディションを受けたの。100人くらいの前で初めて1人で歌った。結局選考には進めなかったんだけど、その後ライブの出演に誘われたの。
1人でやるのは乗り気じゃなかったから、バンドのメンバーを探してみようと思って。高校時代の友達で音楽のセンスがある子をカラオケに誘って、ボイトレの成果を披露したら、次の週にはみんな、そのボイトレに入会してた(笑)。そうして結局その4人でバンド組んでライブに出たの。初ライブは好感触で、そこから定期的に仕事もらえるようになった。お金がもらえるようになったから、もう歌に全振りしようと決めました。
――学校の先生ではなく、新しい夢が……。
歌手と教師への道。
カイト
うんでも、大学で仲良かった友達が「おまえは頭悪いからこそ、勉強ができない子の気持ちが分かる。しかも人前に立つのが得意。そういう先生が必要だよ」って、教師になることを強く勧めてくれたのね。そいつのおかげで、単位も取って教育実習にも行くことにした。教育実習は、ほんと楽しくてあっという間で「やっぱり教師いいな」って思った。で、4年目にして大真面目に大学通い始めて、月から金みっちり講義受けて、1年間で必要な単位を全部取り返した。それで休日はライブしてって感じ。そうして無事に単位も免許も取れたの。
それでもやっぱり頭悪くて、就活の時に受けた教員採用試験は1000人中950位だった。反対に、それと同じくらいの時に受けたオーディションは、どんどん勝ち上がって、表参道のライブハウスで決勝戦。350人中4位になったの。
ほんとはね、俺そのオーディションで絶対1位になれると思ってたから、悔しくて泣いたよ。それくらい、勉強には自信なかったけど、歌には自信があったの。
そのオーディションをきっかけに、大阪の事務所から声がかかって、直談判の末、仲間と一緒に事務所に入ることになったの。で、親に「教員免許はだめだったけど、事務所には入れたからそっちに進むわ」って言った。そしたらもう大反対。親も歌手を目指してたことがあるから、厳しさを知ってたのもあって・
でもその反対も聞かず、バイトしながらの音楽活動が始まりました。バイトは2016年の12月から、アパレルのお店で。その仕事もすごく好きだったな。で、2017年9月、24歳になる少し前くらいかな。今度はグループ活動が行き詰まり始めたの。当時自分は音楽活動への本気度が増してたんだけど、仲間は他の仕事が忙しくなったり、結婚を考え始める人もいて。安定を求めたい人が出始めたんだよね。それで、話し合った。「どうする?この先もやっていきたい?」そうして、24歳の時に解散に。そこから1人になっちゃった。
カイト
不安だったけど、「あなたなら1人でやっていけるよ」と言ってくれる人もいたの。それを信じて、オーディションを増やし始めた。それがさ、すごくいいところまでいくのね。で、ある時ワタナベエンターテインメントのオーディションを受けたら、2,000人の中で1番に。これが念願の1位です。
そこで、「メジャーデビューに向けて東京に来てください」って言われたの。だけどいろいろ思い返したら、やっぱりグループでの活動が忘れられなくて、自分のやりたいことはそこにあったなって思って、音楽活動を終わりにすることを決めた。で、最後に受けたのが、最初に話したそのオーディション番組。
――なるほど。そうして最初の話につながるんだね。
カイト
そう。6年間音楽をやってきて、1位も勝ち取った状態で挑んだオーディション番組。なのに、集大成で玉砕。もう落胆だよね。
だから最後にどでかいことやろうと思って、全国で路上ライブしようって思った。マイクとスピーカーだけ持って、2か月間かけて全国をぐるっとね。結局4万くらい稼いだかな。最後に地元の大阪で路上ライブして、終わり。
さてそれが終わりました、2019年の8月。これから何しようと。教員免許も持ってるし、やっぱり教師になろうって改めて思ったんだよね。いろんな教科があるけど、1つピックアップしてあたまひとつ抜けようと。それで選んだのが英語。昔から海外にも興味があったし、外国の友達も作りたいと思ってたから。それで9月から英会話教室に通い出したの。
英語勉強しつつ、新たにアパレルの店長職も始めた。目標は、お金を貯めてフィリピンとオーストラリアに語学留学すること。それで無事に翌年3月にフィリピン行きが決まって、店長も辞めて荷造りもしたんだけど、出発直前にコロナで飛行機が欠航。どこの国もだめだと。
人生止められたって感じでショックだったけど、じゃあその留学費用を小学校で英語を教えるための資格取得に充てようって思ったの。で、資格のためにまた新しく英会話教室に通い出して、別の仕事も始めて。一般的には長くて2か月くらいあれば取れる資格だったんだけど、僕の場合は英語力がゼロだったから、1年かけてなんとか取りました。
仕事は、学童指導員っていう放課後の児童預かりの仕事を半年くらい。朝と夜は勉強、昼はその仕事っていう生活。その仕事を通して、やっぱり自分は子どもが好きで、教師になりたいって再確認したよ。
自分にとってポジティブな人と。
カイト
資格を取った後、教員採用試験をもう一回受けてみたの。1000人中、前回は950位で今回は900位。まだまだ全然だめだった。「よしじゃあコロナ落ち着いたらカナダ行って、英語もっとできるようになって帰ったろう」という思いで、2021年11月からカナダにきたって感じかな。
――なるほど、たしかにいつでも、何か目標があっての「旅」だね。ワーホリが始まって、英語力はどう?
カイト
上達した実感は、めちゃくちゃある。最初だったら絶対できなかったことが、できるようになったなってよく思うから。特に伸びたのはスピーキング。ネイティブと友達になって遊んだり、韓国人の友達とシェアハウスしたり、大陸横断旅行でも現地の人にたくさん話しかけたから、英語脳ができてきた。
でもやっぱりテストはまったくだめ。毎週のクラス分けテスト、あれほんと苦手よ。他の人に比べてレベル全然上がれないから、みんな心配してくれて、テストの度にクラス全員が「テストどうだった!?」って聞きに来てくれるの(笑)。それでレベル上がれた時は、もうみんなに報告して。みんなが、おめでとう!!おめでとう!!って。
――やっぱり人に恵まれているなあ。いつも輪の中心にいるような。
カイト
ハハハ、そうかな。自然に選んでるところはあるかもしれない。僕は小さい頃からずっと、夢とか目標を公言するようにしてるんだけど、それを馬鹿にしてくる人っていなかったなって思う。叶わなかったとしても、むしろほめてくれる人ばっかり。よくここまで頑張ったなって。そういう、止めたり馬鹿にしたりせず、背中押してくれる人と自然に仲良くなっているのかも。そういう人と付き合うのは結構大事。僕もそういう人でありたいし。
――うんうん。将来はどんな先生になりたい?
カイト
うーんそうだね……。僕が思うに大切なのは、『やりたいことを見つけて、それができるようになるために勉強する』ってこと。それを伝えたい。やりたいことがないのに「勉強しなさい」っていう先生には絶対なりたくない。
ゆくゆくは1年生から6年生まで、6年間クラスを受け持ってみたいな。最終的に、自分が教えた生徒は、全員英語しゃべれるようになってさ。世界に羽ばたいてく姿が見られたらいいな。
――カイトだからこそ教えられることだね。カナダの後はニュージーランドとヨーロッパとフィリピンに行く予定だったっけ。カイト自身が世界に羽ばたいてるね。
カイト
ハハハ、たしかに! ニュージーランドでは教育関係の仕事がしてみたいな。いろんな教育方法を見たいし、試してみたい。日本に帰って「あっちで教師やってました」って胸張れるくらいの経験をね。
で、帰国したら、TOEIC800以上とって、教員試験に合格して、ひとまず2024年の4月からは、講師として教員になる。この場を借りて公言させていただきます!
――受け止めましたっ! 面白いお話をたくさん聞かせてくれてありがとう。
(おわり)
(おわり)
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