Vol.10 「On the table 第6回公演『たまごのはなし』ができるまで」
はじめに
みなさんこんにちは。
淑徳大学 杉原ゼミの冨田です。
以前の記事に引き続き、今回も板橋区中央図書館で行われた講演会シリーズ
On the table 「私の作ったこの1冊ー編集者にきくー」から、7月9日に行われた第6回公演『たまごのはなし』ができるまで の取材をさせていただきました。
絵本の作者ではなく、編集者だからこそ語れるエピソードや制作秘話といった貴重なお話を伺うことができ、とても充実した時間を過ごせました。
さて、今回の講演で取り扱った絵本はこちらです。
たまごのはなし
『そらからきたこいし』や『やねうらべやのおばけ』などの作品で有名なしおたにまみこさんが世に出した3作品目。
ブラチスラバ世界絵本原画展で金牌を受賞し、第27回日本絵本賞で大賞に選ばれたすてきな一冊となっております。
講演会シリーズ「On the table」に関してはこれまでの記事で詳しく説明しているので、もっと知りたい方はそちらを参考にしてください!
編集者 沖本敦子さん
今回の公演の講師は、児童書編集者の沖本敦子さんです。
『たまごのはなし』の他にも、『だるまさん』シリーズや、ヨシタケシンスケの『発想えほんシリーズ』の編集を務めている編集者です。
この公演では『たまごのはなし』自体の特徴や魅力はもちろん、制作の裏でどんなエピソードがあったのか、また編集者として沖本さんがどんな価値観を持って仕事と向き合っているかといったお話をしていただきました。
編集者とは、「お母さん」である
「編集者っていうのは、『本のお母さん』だと思うんです」
沖本さんは、こうおっしゃいました。
編集者は作家さんと本づくりをする以外にも、原価計算、印刷所や製本所とのやりとり、社内外への情報提供など、色々と細かい仕事をしています。
本が出たらおしまいではなく、営業部や広報と連携して、作品が、より多くの読者の手に届くように、いろいろな角度から働きかけます。こんなこと、自分の手がけた本が好きじゃないと、とてもできない。
自分の編集した本がかわいいからこそ、この作品のためにできることは何でもやってあげたくなる。
そうやって、色々やっていくうちに、その本のことがもっと好きになっていくんです。
沖本さんの編集者としての根幹には、本のことが好きだという純粋な想いがありました。
しかし、いつ如何なる時でも仕事に対するモチベーションが高い、というわけでもないんだそうです。毎回なにかしらのきっかけで ”ギア” が入り、それが仕事に大きく影響するんだとか。
例えば今回の『たまごのはなし』の場合、作者であるしおたにまみこ先生がインスタグラムに投稿したたまごのイラストを見て ”ギア” が上がったそうです。
そして実際にお会いして打ち合わせをした際、とても話が面白い方で、当初の予定だった「絵本」とは少し違った「読み物」を作ろうということになり、企画がまとまったそうです。
『ふたりはともだち』などの代表作があるアメリカの絵本作家、アーノルド・ローベルの作品のような、小さい子供がひとりで楽しく読み切れて、さらに大人にも響くメッセージ性がある作品。
そんな一冊を、しおたにさんとなら作ることができる。そう確信したと、沖本さんは語ってくれました。
クリエイティビティは人それぞれ
今回の講演の中で、沖本さんがたびたび口にするワードがありました。
それは、「クリエイティビティ」。創造的・独創的などの意味を持った単語です。
沖本さんが当時所属していたブロンズ新社では、絵本を作る際に完成前の原画のラフを会議室に並べ、会社の人みんなで鑑賞する恒例行事があるらしいのです。
編集部の人はもちろん、営業部の人や経理部の人など、文字通り社員全員が集まり「すごい!」と皆で盛り上がる瞬間がとても楽しいとおっしゃっていました。
それぞれ違ったクリエイティビティを宿した人たちが集まって、一つの作品を作り上げる。そんな「共働」の形が沖本さんの理想だそうです。
また、沖本さん自身も今までたくさんの人からクリエイティビティを刺激されてきたので、自分自身の仕事によって他の人のクリエイティビティが刺激され、それが何かにつながってくれたのならば、それは編集者冥利に尽きるとも語ってくれました。
また、そんな人の数だけ存在するクリエイティビティについて、このような考えも話してくださいました。
「わたしの常識は、誰かにとっての非常識。価値観は人によって異なります。
相手の価値観をまるごと受け入れる必要はないけれど、互いに理解しあおうとする努力が大切。
考えの異なる相手のことを理解したいという思う姿勢が、自分の世界を広げていくんだと思います。
最近のSNSの短い言葉の応酬を見ていると、相手に向き合い、じっくりと対話を重ね、相手を深く理解していくことの重要性を感じます」
おわりに
講演会が終わった後、すぐに私は『たまごのはなし』を読みました。
ユニークな登場人物たちは、しおたにさんによる特徴的なイラストと文章からシュールな笑いを提供してくれました。
細かな描写から笑わせてくるギャグ性はもちろん、一枚絵から笑わせてくるインパクトもあります。こういった演出は子供でも大人でも楽しむことができる、絵本の魅力です。
このすてきな作品が生まれるまでのエピソードを聞いて、より「たまごのはなし」という作品自体が好きになれたと同時に、編集者という職業についても深く知ることができました。
貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!
多くの子供が幼い頃に読む「絵本」は、その子供の好みや世界観・価値観を作っていくものであり、それこそが児童書の良さの一つでもあると沖本さんは話しました。
これからも多くの子供たち、そして大人たちに愛される作品を作っていかれることを、心から応援しています。
以上、淑徳大学 杉原ゼミの冨田でした。
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