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女性美容師を中心に、美容室が子育て世代の“サロン“になる可能性

特に都心では、育児の困りごとや悩みを共有できる場はとても限られていると思います。
実家から離れて暮らしていたり、頼れる家族が近くにいなかったり……。
仕事や学生時代の友人もお互いに忙しくなかなか時間を共有できないし、お子さんを中心に出会った「ママ友・パパ友」には込み入った相談をするには関係が浅すぎるという懸念も。

そんな中、自身も子育て真っ最中の美容師さんが子育て世代の顧客向けイベントを開催されたという情報をキャッチ。
どんなイベントで、どんな交流が生まれたか? イベントの見学&インタビューをしてきました。


代々木上原の心地よいマンツーマンサロンを営む女性美容師さん

今回取材させていただいたのは、東京・代々木上原に美容室yaanを構える越野由祐さん
yaanはマンツーマンサロンであることが特徴です。出産後に独立し、子育てしながらも顧客1人ひとりにより深く寄り添う時間を大切にしたいというコンセプトで運営しています。(※現在は新規客の受付を停止されているそうです)

▶︎越野さんInstagram

長期休暇の「子どもとの時間をどうするか問題」を共有するイベント!

そんな越野さんが企画したのは、プロのイラストレーターを講師に招いた子ども向けのワークショップ!

子ども向けワークショップ『yaanのお庭あそび』
2023年7月30日に開催(応募は締め切られています)
プロのイラストレーターを招いた絵画と工作のイベント。

マンツーマンサロンで、本来ならかきいれどきとも言える日曜日に開催を決めたその背景とは?

越野さん 元々日曜日は休み(※)なんです。自分自身に息子が生まれてから、育児中のお客さまやご家族で来店してくださるお客さまが増えて。お客さまも私自身も、日曜は“家族の時間“という共通認識でやっているので、営業に影響はないんですよ。(※取材時。現在は営業している)

開催日の7月30日といえば、お子さんのいる家庭では夏休みが始まって1週間程度。お仕事や家事の合間にお子さんとの時間をどう過ごすか? 宿題もさせなければ! と、どのご家庭でも念慮されていることでしょう……

越野さん そうですよね。そういう悩みを共有するのは、本来「ママ友&パパ友」のコミュニティなのだと思いますが、価値観の合う気のおけない友人をつくる難しさを、私自身が感じていました。
また、公的な機関や商業施設などの育児イベントも一時的にはとても助かるのですが、そこで人間関係をつくるのも難しいなと。
ですが、行きつけの美容室であればそういった場よりも、感覚が近いお客さまが集まっているのでは?と感じ、お客さま同士が交流できるイベントをやってみようと思いました。

確かに、美容室は行きつけなら、他のお店などよりも関係性が深いもの。継続的に同じ人に担当してもらっているお客さま同士は、感覚的に共通点が多そうです!

子育に仕事に…… 近い境遇と感性のお客さま同士のあたたかい交流

イベントは、空き瓶をステッカーと絵の具でデコレーションしていくというもの。午前と午後二部制で開催されました。

準備された空き瓶とステッカー。ステッカーは講師のSATSUKIさんが描き下ろしたもの。
二部の準備をする越野さん。床にはクッションマットを敷き、お子さんを迎える準備は万全。

イベントを進行したのはイラストレーターのSATSUKI MISHIMAさん。

SATSUKIさんの声掛けのおかげで、個々のペースに合わせて自由に創作を楽しむ時間に。

使用するステッカーは、SATSUKIさんがこの日のために描き下ろしてくれたもの! ステッカーはシート式になっており、お子さんが自由な感性で好きな形に切り取れるようになっています。

越野さん 今回のイベントはSATSUKIさんとの出会いで実現しました。SATSUKIさんもかねがね絵画教室をされたいと思われていたようなのですが、私がそれに共感し、ぜひその“場“になれたらと思いました。子ども向けのワークショップは多々ありますが、プロのアーティストが先生として子どもたちに接してくれるのはめずらしい良い機会ですよね。

作業に没頭しながらの心地よい距離感で接する子どもたち。
初めのうちは緊張の面持ちだった子も、次第に一人で黙々と工作の時間を楽しんでいた。

最初は緊張した様子の子どもたちも次第に和気藹々と。来場していた保護者同士もお子さんの話題、「宿題やってます?」といったような会話で交流が見られました。今日の参加したお客さまは、元々顔見知り同士の方もおられるのですか?

越野さん いえ、みなさん初対面です。マンツーマンサロンなので、サロンでお客さま同士が同じ時間に滞在することはありませんので。それなのに、いい空気感で交流してもらえたのは期待していた通り。嬉しかったです。

やはり越野さんを通して、感性が近しいコミュニティができそうだなという感じがしました。

越野さん 元々、直接の交流はないけどSNS上でならお客さま同士の接点があるなと気づいていたんです。コメントをしてくれたり、直接のやりとりはなくても私を通じてSATSUKIさんを知ってフォローなさっていたりとか。
その関係性をリアルに形にできたことが収穫ですね。

作品にはSATSUKIさんがニスを塗って仕上げてくれる。
仕上がった作品たち。普段薬剤をつくるカウンターに子どもたちのアートが並ぶ。

働き方の多様化で女性美容師の存在が“原点“に回帰している

はじめてのイベント開催は大成功。
中〜大型のサロンで顧客を招いたビューティフェアなどを開催するケースはここ10年ほどで定着しましたが、マンツーマンサロンで顧客同士が家族ぐるみで交流するイベントは希少です。
今後の展望はいかがでしょうか。

越野さん 今後もいろんな形でサロンワーク以外でも関係性づくりを模索していきたいと思っています。
美容師同士、美容師とお客さま同士の交流は、これまでは会食など夜の時間で持たれていた印象があります。ですが、今はお客さまも美容師ももっと家族の時間を大事にしたいというニーズが高まっていると思いますので、家族とお客さま、その家族を中心とした新しい交流を続けていきたいです。

当日は越野さんのご家族も来場(左奥)。近い年頃の子どもを持つ親同士の安心感あるコミュニティになっていきそう。

美容室をヘアサロンと言いますが、元々「サロン」とは社交の場という意味でした。女性が手に職をつけて地域を支え、その周りに女性たちが集う社交場として機能する「サロン」。美容ブーム以降の急激な企業化によってその性質が薄れていましたが……

美容業界も働き方が多様化し、越野さんのようにマンツーマンサロンで活躍する子育て中の美容師が男女問わず増えてきました。勤めていたサロンでは育児との両立ができなかったという理由でフリーランスとなる美容師も数多くいます。
フリーランスは厳しい面もありますが、男性中心社会になった美容室企業では育児を理由に美容師を辞めてしまう人も多くいましたので、せっかくの手に職を捨てなくて良い重要な選択肢の1つだと思います。

美容室が生き残っていくためには規模ではなく、その1人ひとりが、髪を通して改めてお客さまと地域に何を提供できるか?が重要そう。
越野さんの活動を見せてもらい、地域のつながりのハブとなって良いダイナミクスを起こしていこうとされる姿勢に、規模を問わない美容室の意義や生き残るヒントを見出せました。

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