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【刺小説】黄金な魔物

「勇者よ、この世界を救ってくれ……!」
 王の言葉を受け、一人の男が旅に出た。

迫りくる魔物の群れに、危険まみれのダンジョン。
命の危機も何度もあった。
でも、彼はひたすらに耐えた。

魔王を倒し、世界を救うこと。
それが、彼にとっても生き甲斐だった。


旅の途中で、勇者はカジノの盛んな町を訪れた。

「長旅で疲れたでしょう。ゆっくり休まれてください」
 町長はホクホクした顔で言った。
「いえ、長居はできません。一刻も早く、魔王を倒さないと……!」
「そんなこと言わずに、カジノに寄っていって下さい。
最強の武器や防具もあるんですよ?」
「ほ、ほんとですか……!」

その日から連日連夜、彼はカジノに入り浸った。
資金が不足する度、魔物を狩り、未踏の地で宝を探した。
それでも、景品にはなかなか届かない。

「……要らないよな。良い武器が手に入るなら……」

勇者は、持ち物を片っ端から売りに出した。


暫く経った、ある日のこと。
魔王は大軍を引き連れ、カジノの町を攻めてきた。

町中には火の手が回り、住民は波を成して逃げ惑う。

流れに逆らい、立ち向かう男が一人。
勇者だった。

凛とした表情で、一歩ずつ踏みしめる。

胴体には、布の衣服。
右手にはひのきの棒、左手には鍋の蓋を構えている。

目の前には、嘗てないほど強大な魔物。


彼は装備を捨てて逃げ出した。

しかし、回り込まれてしまった。


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