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谷村に教えられたこと【好感度上昇サプリあとがき#4】

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共感と羨望


気が付くと、時刻は19時を回っていた。
上がっていた後編の2話。

私は、ゆっくりとカーソルを合わせる。
その手つきに、一週前の躍動感は無かった。


多量の好感度を手に入れ、別人の様になった谷村。

(C)テレビ東京


だが、徐々に綻びが出てしまい、親友や彼女を傷つけていく。

(C)テレビ東京

「こんはずじゃなかった……」

そう滲ませる谷村を見ていると、他人事とは思えなかった。


その後、彼はどん底まで落ちることになるが、
最終的には、一筋の光を手にする。

そんな姿を、羨ましく思う私がいた。


何をやっても


連休が明けても、靄が晴れることはなかった。
むしろ、膨張する一方。
そのうち、書く意欲すら奪っていった。

逃げるように仕事に打ち込んだ。
だが、どうしても力が入り切らない。
打合せをしても、企画を考えてみても、
心は風船の様に宙を舞っていた。

――何のために、生きてるんだっけ……。

創作はやっと見つけた熱中できること、の筈だった。
「熱中=生きがい」の私は、生きる意味を見失いかけていた。


金曜日の夕方。
私は、路地裏の一本道を歩いている。

食事の約束をしていた。
相手はメーカー勤務時代の上司。
人徳に溢れた人で、親子ほど年は離れているが、
どんなことでも気さくに話してくれる。
入賞やドラマ化の報告をした、数少ない内の一人だ。

――はぁ、どんな顔して会えばいいんだ……。

それでも、私の気は重かった。
彼にはポジティブな報告しかしていなかったから。

軒先で佇んでいると、横断歩道を渡る初老男性が映った。


谷村に教えられたこと


私は上司に打ち明けた、
書くのが辛くなったことを。

彼はワイングラスを置いて言った。


「……同じになってないか? 谷村と」

その一言は、胸中の靄を瞬く間に払った。
そう、私は大きな勘違いをしていた。

作品にしたところで、過去の自分が消えるわけではない。
少しでも気を抜けば、過ちは繰り返してしまうもの。

それなのに自力を過信し、私はまんまと落ちていった。
自分の描いたストーリー通りに。
何とも皮肉なものだ。


そして今、私はこのあとがきを書いている。
スランプにケリを付け、新たなスタートを切るために。

これからは、本当に書きたいものだけを書くつもりだ。
『好感度上昇サプリ』を創った、当時の心のままで。

小説という形で書くかはわからないし、
また道を踏み外すかもしれない。
それでも、死ぬまで続けるつもりだ。

迷った時には、谷村を思い浮かべて。

(C)テレビ東京


それしか、私が私を認める方法は無いのだから。

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