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残響と焦燥【好感度上昇サプリあとがき#3】


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実体化した想像


4月28日19時00分。
私は自宅でパソコンと対峙していた。

呼吸を整え、F5キーを押す。
すると、動画が二本浮かび上がった。


そして、おそるおそる『#1』をクリックした。

動き始める映像。



程なくして、現れたのは

(C)テレビ東京

私の脳内にいたはずの男だった。


覇気のない顔に、全身から醸し出す哀愁。
フワフワとした存在だった谷村雄二が、鮮やかな実体となっていた。

彼だけではない。
肩身の狭い職場、嫌味な取引先、唯一の親友。
思い描いていた世界とその住人達が、そこに顕現していた。


――すごいな……。


感動の後にやってきたのは敬意。

(C)テレビ東京

佳奈役の生駒さん


(C)テレビ東京

長谷川役の山口さん


(C)テレビ東京

松原役の萩原さん

高橋役の黒須さん、後藤役の藤代さん、この世界に登場する全ての人々に圧倒された。

彼彼女らは、完全なる住人だった。
存在しないはずの世界の。

それなのに、見ていると実在する様な気になる。
その表現力に驚愕し、そして、尊敬した。

ひとりの表現者として。


残響と焦燥


翌日から大型連休が始まった。
年に数度とない、まとまった時間。

そんななか、私が気にしていたのはドラマへの反応だった。
両親や知人からの感想に、SNSでのコメント。

自分の生んだテーマが、どう受け止められるか。
それが、気になって仕方なった。

――やばい、絶対来るよな……。

「何してるんだ、さっさと書けよ!」

予想した通り、腹の奥から”アイツ”の声が聞こえてきた。
激しく、そして刺すような口調。

彼は、いわゆる無意識的な存在。
だが、自意識との乖離が激しいので、”アイツ”と呼んで区別している。

”アイツ”は、執筆をしないと詰めてくる。
仕事をしていても、友人と会っていても、酒を楽しんでいるときでも。

私は慌てて小説を書き始めた。
手あたり次第にネタを選んで。


書きやんで


ゴールデンウィークは、地獄の様な日々が続いた。

「今日は、10,000字は書かなきゃ……」

「早く一本書き上げないと!」

目覚めた時はそう決意するのだが、行動はついてこなかった。

少し文字を書き足しては、動画を観たりSNSを眺めたり。
そして、見回りにきた”アイツ”に叱咤される。

そんなことを一日中繰り返していた。

その度に精神を擦り減らしながら、何とか私は書き続けた。
掲げた目標には、遥かな隔たりがあったが。


5月5日。
気が付けば、休みもあと二日。
昼食後にコーヒーを飲んでいると、ふと思考が過った。

――この連休、何したっけ……?

公募用の長編小説は殆ど進んでおらず、
短編の作品も大して作っていない。
とはいえ、外出したのは2日で時間も半日以下。

まるで時間が飛んだような感覚。
呆然としていると、腹の奥の存在が気になった。

――このままだと、アイツに何を言われるやら……。

急に怖くなって、短編のストーリーを書き始めた。
書きたい題材もないのに。

二時間後、様々な誘惑に引きずられながら、
1,000字程度の作品を書き上げ、『投稿する』のボタンを押し込んだ。

――ふぅ、ようやく解放された……。

肩の重みが消えるのを感じながら、私は玄関のドアを開けた。

向かった先は、近所の公園。
一面に青々とした若葉が茂っている。

――しんどいな……。

深く呼吸をすると、そう浮かんできた。
気分の反動、雄大な自然、ベンチで佇むご老人。どれがきっかけはわからない。
だが、その存在だけは確かに感じていた。


noteを開き、書き上げたばかりの小説を開いた。
飛び込んできたのは、苦し紛れの文字列。
思わず目を背けたくなる。

私は、『削除』の文字に指を重ねた。

(#4に続く)

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