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プールサイドで二人きり


 名古屋市には各地に市営屋内温水プールがあります。運動のために通っていたことがあります。
 市内すべてのプールがそうなのではありませんが、私の通っていたプールには、ラジオ体操の時間がありました。一時間に一度です。ラジオ体操の時間は利用者全員がプールから出なくてはいけませんでした。スピーカーから音声が流れて、監視員さんがラジオ体操をして、運動を促すのです。お子様たちなどは一緒に体操します。素直ですね。大人はベンチに座って、休んだりしていました。私もベンチに座っている派です。いい年をしてラジオ体操でもありません。
 しかし、そうもいってられない事態になったのです。
 市営プールは夜八時半まで営業しています。私は夜行くことが多くなりました。真冬の夜。いくら温水とはいえ、プールで泳ぐ人は少ないです。下手をすると、監視員さんと二人っきりになることがあるのです。
 二人っきりでも、監視員さんは、ラジオ体操の時間になると、ラジオ体操を始めるのです。いつもなら、知らん顔をしてベンチに座っているのですが、二人っきりなのに知らん顔をしているのは感じが悪いです。
仕方ないので、利用者の人数が少ない時は私もラジオ体操をすることにしていました。
ある日、ラジオ体操の時間になりました。私は我慢できず、トイレに行きました。トイレから帰ってきて、びっくりしました。ラジオ体操の音声が鳴っているのに、監視員さんがベンチに座って休んでいたのです。トイレから帰った私の姿を見た監視員さんは、慌てて立ち上がり、ラジオ体操を始めました。私はもう家に帰ったのだと思ったのですね。
私は監視員さんを気にしてラジオ体操をして、監視員さんは私を気にしてラジオ体操。
なんだこの小芝居。

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イラスト by nora

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