目のあるもの

目のあるもの

 引っ越しするとき、引っ越し業者に、こんなことを言われました。
「お引越しゴミで、処分したいものがあれば、こちらで処分します。ただし『目のあるもの』の処分はお受けしかねます」
 具体的には人形、写真類です。ぬいぐるみやアイドルのポスターでもダメとのことです。確かに引っ越し会社で働いている人の立場で考えれば、無理もないですね。よく知らない人の思いのこもった人形や、思い出の詰まった写真を処分するのは気が引けますからね。たとえそれが適当にとった写真でも、景品でもらったどうでもいい人形でも、他人には怖いかもしれません。
 お子さんのいない大叔母が他界した後、その遺品を整理したのは私です。週に一度通って、二年くらいかけてやりました。リサイクルできるものはリサイクルして、可燃、不燃、缶、びん、ペットボトルきれいに分別して捨てました。
 彼女の夫、私の大叔父の趣味は写真で、仕事も写真店経営でした。大量の写真が残っていました。私はそれらの処分を後回しにしていました。可燃袋に入れて捨てるだけの簡単な作業だと、あなどっていたのです。大叔父とは仲良しでしたから、たたられない自信もありました。しかし、うかつなことに、遺品整理も終盤にさしかかった頃、私は体調を崩し、長期入院生活をすることになりました。
 空き家をほったらかしにするのは、よくありません。私は愛妻に、残りの遺品を業者に処分してもらうように頼みました。遺品の中には大量の写真があったのに…。
 その業者はお寺から和尚さんを呼んで、経をあげてもらってから、それらの大量の写真を処分したそうです。和尚さんに支払ったお布施を惜しむわけではありませんが、私が最初にそれをやっておけば、簡単に済むことだったのに…。
 引っ越しや遺品整理をするときに、本人や近親者が最初のうちにやっておいたほうがいいことの一つは、『目のある』ものを処分することかもしれませんね。それらは近い人の手で処理されるべきなのかも知れません。
English

イラスト by 和田正之

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