動物にも人間にも優しい、持続可能な畜産を/山口県阿武町:無角和牛【一次産業取材レポ】
牛肉、豚肉、鶏肉。口にしたことがない方はほとんどいないだろう。
食肉市場は緩やかな上昇を続け、令和2年の成牛の屠畜頭数(食用目的で殺される数)は104万7千頭、枝肉生産量は47万6,990tまで緩やかな上昇が続き、日常の中で目にしない日はないくらい当たり前になっている。
しかし、動物本来の生態を無視した工業的な生産方法が波紋を広げ、
畜産に対して厳しい目線が向けられている。
さらに、飼料生産による生態系や環境の破壊も大きな問題となっている。
そんな畜産の現状と向き合い、人にも動物にとってもより良い環境を構築し、持続可能な畜産を実現しようと動く自治体がある。
山口県阿武町。
今回は、そんな畜産の現状と向き合い、今までのやり方を変えていくために活動している方を取材した。
▼人口3100人の町から
今回取材にご協力いただいたのは、人口3100人の町、山口県阿武町で地域おこし協力隊をされている藤尾凛太郎さん。
飼育頭数120頭、月の出荷頭数はわずか3頭。
山口県阿武町のみで育てられている和牛の1品種である無角和種。
「牛として健康的な、、
最後は食べてしまうけれども、そのプロセスはできる限り幸せに、健やかな状態にしたい」
藤尾さんと阿武町が目指す、持続可能な畜産とはなにか?
▼畜産の現状
前提として、現在いる和牛は以下の4種
・黒毛和種
・褐毛和種
・日本短角種
・無角和種
上から順に頭数が多く、無角和種は最も少ない。
現在は全体の0.01%のみ(約200頭)。月の出荷数は3頭の珍しい品種だ。
牛肉は市場ではアルファベット+数字で評価され、高いランクのものほど、よく売れ、A5ランクなどがそれに当たる。
(実際は「高いランクほど良い」という認識を持たせるために作られた制度そう…)
黒毛和種はサシ(肉の間に入っている脂)がつきやすい品種で、その数は多くなり、現在では180万頭ほどに。
しかし、経済動物になってしまったために扱いは粗雑。
効率よく太らせるために穀物飼料や肉骨粉を混ぜたりする餌を与え、ビタミンAを抜いた食事を取らせている。
必要な栄養素を抜いてしまうことで、場合よっては失明したり、歩けなくなる牛も。(酷いところはさらに劣悪)
無角和種も今まではこの流れに乗って、“効率よく太らせる“という方法で飼育をしていた。
▼持続性の追求
動物愛護、飼料の供給、健康や経済性。
様々な観点から、このままでは持続性のある畜産ができないと判断した阿武町は転換を試みる。
100%輸入に頼っていた穀物資料を地元で生産したものに変更。
ゆくゆくは100%牧草飼料へと転換していく。
現在はまだ穀物飼料を使ってはいるが、
阿武町の畜産はより循環性を高めるシステムがある。
それが【耕畜連携】と呼ばれるものだ。
▼耕畜連携というシステム
阿武町では、牛舎の床におが屑を敷いており、そこに牛が糞尿を落とす。
水分を吸ったおが屑を集めて、堆肥舎と呼ばれる場所で発酵させていく。
畜産によって出た糞尿を発酵して有機肥料へ。
そこで育った作物や牧草を、そのまま飼料へ。
農耕と畜産で循環を起こすことで、自給率の増加、資源の維持などなど多くのメリットが。そして外部に依存しないため持続性も高くなる。
100%地元で生産された飼料で畜産を、畜産からの肥料で農作物や飼料作物を生産していく。
そうすることで地域内で循環する生産スタイルが構築されていく。
▼畜産農業の変革へ
100%牧草飼料、放牧飼育、耕畜連携、完全な飼料の自給。
現在の阿武町と無角和種はまだまだ道なかばだ。
しかし、この挑戦が形になっていく過程は
多くの畜産農家にとってモデルケースとなり、取り入れやすい形を作ってくれるのではないだろうか?
より良い畜産の形を作ってくれる阿武町から、社会の形が変わっていくことを期待する。
無角和種についてはこちら
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