できるだけ生態に寄り添った養鶏を/沖縄:農水苑・虹【一次産業取材レポ】
2021年の東京オリンピックでも焦点が当てられた日本の食の問題。
中でも養鶏は狭いケージの中で育てられ多くのストレスがかかり、食の安全性と動物愛護という観点から問題として取り上げられた。
EU(欧州連合)では2027年までにケージ飼育を禁止する法令の提案をすることを決め、動物福祉を考えるアニマルウェルフェアという概念が広がりを見せつつある。
動物に寄り添う畜産とはなんなのか?
日本の畜産が遅れを取っている中、
ケージ飼育ではなく、いわゆる平飼いと呼ばれる手法で養鶏を営む農家の方を取材した。
▼南の地から
今回取材にご協力いただいたのは、沖縄県糸満市で農水苑・虹を営む農家、前田英章さん。
前田さんが営む農水苑・虹では、無農薬のサトウキビ栽培をメインに、大豆、冬瓜、ニンニクなどを栽培している。
農作物をメインにされていた前田さん。
すでに手一杯になりそうな印象だが、なぜ養鶏まで始めたのか?
▼循環型農業と養鶏
実は循環型農業にとって養鶏は重要なメリットや役割が4つある。
①小さい土地で始められる
もちろんある程度の土地と建物等の初期投資は必要だが、他の畜産と比べて小規模で済む。
②収益化の速さ
自然に近い状態での飼育でも5ヶ月で卵を産めるようになる。販売までの道のりが短く、日銭を稼ぎやすい
③鶏糞は肥料に
餌の質にさえ気をつければ、鶏糞を堆肥化して
畑の肥料として使用できる。外から買う必要がないのだ。
④生ゴミ量の削減
魚のアラや酒粕、おからなど、そのまま捨ててしまうにはもったいないものを飼料として利用可能。
これらのメリットから、養鶏を中心に自然農法を組み立てていくという方法を選んだ前田さん。
どんな養鶏をされているのだろうか?
▼本来の生態を考えた飼育を
鶏はアジア熱帯地域のジャングルに生息する、
セキショクヤケイが原種と考えられている。
もともとは森の中で暮らしていたというところから、前田さんの養鶏場でもできる限り近い環境を構築し、飼育をしている。
①新鮮な空気が供給されること
四方を風が通るように工夫して小屋を作っている。
②太陽光が当たるスペースをつくる
鶏が日光浴ができるように光を取り入れる。
③飼料は青草が中心
栄養の豊富な青草を与えることで、鶏の健康状態が良くなる。森の中での本来の食事を再現している。
④コンクリートで遮断しない
床を菌床にし、そこに鶏糞が落ちる。
太陽の光や風通しの良さ、青草などの植物の効果もあり、自然に近い腐食土が発生する。
鶏は土を食べることで栄養と同時に、消化の手助けにもなるのでより健康的に成長できる。
ちなみにこうすることで糞尿の嫌な匂いはしなくなり、土はそのまま農作物に使える。手間はかかるが持続性が高まっていく。
▼自然に感謝して受け取ること
「自分たちが養鶏に関わってる以上は自分自身も納得できる、心穏やかな気持ちで、自分たちができることは一生懸命この鳥たちにも尽くす」
と語る前田さん。
当然、青草は無農薬、無化学肥料栽培。
自然で育ったものと同じ状態の青草を与える。
遺伝子組み換えの危険性があるのでとうもろこしも使用していない。
とうもろこしの色素が入らないので、卵は綺麗なレモン色。
農水苑の人気商品の一つである。
▼人間と鶏の共存を目指して
本来なら捨ててしまうものを鶏に消費してもらう。
健康的な飼料を与え、質の良い堆肥を作る。
その堆肥で、作物や、飼料用の青草を育てる。
養鶏の存在は人間が循環型の農業や経済を構築していく上で
大きな力を与えてくれる。
「鶏たちがそういう働きをしてくれる間、大自然の恵みで、快適な生存環境で、より自然に近い状態で飼う。恩返しの意味でね。重要かなと思います」
鶏からいただき、より良い環境を彼らに作っていく。
前田さんと農水苑の挑戦はこれからも続いていく。
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