死闘ジュクゴニア_01

第48話「圧倒する力」 #死闘ジュクゴニア

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前回
「ハガネ……我らは今まさに死地にいる……。我らが勝てる可能性は万にひとつ……いや、億にひとつ。しかし──しかしそれでも! 我らは勝たなければならない! 明日のために! 共に歩んできた人々のために!」

 ライは振り返り、ハガネの瞳を真っ直ぐに見据えた。

「今こそ……今こそ決死の覚悟を決めよ!」

 ライの覚悟、そして咆哮。それに呼応するようにバチリと弾ける音。それは不屈──ハガネの瞳に刻まれし不屈の二字。それがバチバチと輝き、そしてライを見つめた。

 二人の視線が交錯する。流れていく刹那の静寂──

 二人の間に言葉などいらない。ただ、目と目を交わすだけで充分だった。ライとハガネはお互いを見つめ、頷き合い、そして──ハガネはカガリを抱えて跳躍し、ライは駆けた!

 直後、二人のもといた大地が吹き飛んでいく。そこに叩きつけられるようにして降ってきたのは巨大なる質量、輝ける踵である! 閃光が迸り、土砂が舞った。そしてクレーターのような巨大な大穴が瞬時に生み出されていく!

「「ふはははっ! 小虫っ!!」」

 バガンの笑いが荒野に轟いた。世界を貫くかのように屹立する光の巨人。その巨人から距離を取るべく、ハガネは不撓不屈の翼を羽ばたかせて全力で飛んだ。

 一方、ライは電光石火の速度で駆け抜けていた──ハガネとは反対の方角へと!
「ふっ……」
 己の恐れを踏み砕くようにライは笑みを浮かべた。

「あのカガリという娘のためにも……私が時間を稼ぐ……稼いでみせるさ!」

 ライは巨人に向き直り、吠えた!
「バガン!」
 光の巨人がゆっくりと振り返り、天空よりライを見下す。
「「ふっはは! 電光石火のライ。しぶとい。お前は実にしぶとい! しかぁし!」」
 光の巨人はその巨体を翻し、ライに背を向けた。

「「我はライ、もはやお前など、どうでもよいのだ」」

 バガンはその獰猛な眼差しでハガネの後ろ姿を見た。

「「ふははは! 我はこの者に会いに来た! 我はこの者に会わねばならなかった! 故に、我は天より降った!」」

 爆発的な光の奔流がハガネへと迫る! それは巨大な輝ける腕、そして掌である!

「させない……させるものか!」

 ライの背中に刻まれし四字のジュクゴが鮮烈な光を放つ! そしてライは稲妻と化した。電光石火。超スピードの世界。ライの主観の中で世界が静止していく。その静止した世界の中をただ一人、ライは自由に駆けた──

 ──否!

 自由に動く者はライ一人ではなかった。光が弾けていく。バガンを包む輝ける巨体、その背中が爆ぜ、幾条もの煌めく光が拡散していく。
「来たか……!」
 ライは唸った。それはまるで彼岸花のように不気味な弧を描きながら、静止した世界の空を覆っていく。そしてそれは一点に向けて殺到した──輝く軌跡を残し、ライへと向けて!

「いいだろう、バガン。再びお前に見せてやる……電光石火、その真の力を!」

 ライは殺到する光の群れに向けて走った。その背中に刻まれし電光石火の四字が灼熱していく。ライは駆けながら右の拳を肩まで振り絞る。振り絞った拳が光り輝いていく。それは文字通り命の輝きであった。それはライがその魂を削って放つ、電光石火最大にして最強の奥義である!

「おおおぉぉおお!!」

 雄叫び。直後、ライの腕の先が輝き、閃光となって爆発した。それは想像を絶するスピードで放たれた超絶の連撃である。刹那の間に同時に繰り出された何百、何千、何万もの打撃。輝ける拳によって繰り出されたそれは、さながら空を駆ける流星の群れ、大宇宙を貫く流星群であった!

 超スピードの世界の中で、凄まじい光の奔流と奔流とが激突する。ライの輝ける拳はバガンの放った光を弾き、相殺し、叩き潰し、そしてライは駆けた。煌めく流星の群れとともに! その渦巻く光が輝く巨体を削っていく。連続する爆発の中、ライは螺旋を描くようにしてその巨体を駆け登っていく。

「バガン!」

 ライは跳躍した。ライの視界の中で周囲の風景が加速していく。しかしその眼差しは確かに捉えていた。ハガネへと伸びる巨大なる腕(かいな)を!

「この一撃に……私は今できるすべてを賭けるっ!」

 ライの拳の輝きが強まった。そして爆散していた流星群が渦を巻いて集束し、それは唯ひとつの怒濤と化した!

「うぉおおおおぉおお!!!!」
「「ぬぅ!?」」

 それは巨大なる彗星。夜空を駆け、貫く巨大なる箒星。その怒濤の渦が巨人の腕を引き裂き、そして──轟音とともに両断した!

 ライは力尽きたように落下していく。静止していた時間が再び流れていく。

「時間は稼いだぞ……ハガネ! そしてバガン……私は一矢報いてみせた……貴様にな……!」

「「ふっはは! 見事! 見事である!」」

 巨人の腕、その切断面から弾けるように光が噴き上がり散っていく。

「「しかし……愚か。哀しいほど愚か!」」

 ライは身を翻して着地をし、そしてふらつきながら地面に手をついた。喘ぐようにして空を見上げる。空には切断された巨大な腕が浮かんでいた。そしてそれが光を放ち、ごうんごうんと渦を巻き始めたのを見た。

「これは……!」
「「ふっはは! ライよ、お前はこう思ったことだろう──どうだバガン、私は貴様に一矢報いてやったぞ、とな」」

 ライは力を振り絞るようにして身構えた。

「……だとしたら、どうした!」
「「ふっははは! 哀れ! 実に哀れである!」」
「……!」

 切断面から光が伸び、再び巨大な腕が形成されていく。

「「これしきの攻撃! これでは我に傷一つつけることすらできん!」」
「……ふん」

 ライにはわかっていた。この程度でバガンにダメージを与えることなどできはしないということを。それは以前の対決の経験からわかっていたことだった。それでもライには意地があった。そしてハガネのためにもそれに賭けねばならなかった。ライは吠えた。

「もう一度言う……だとしたら、どうした!」

「「ふっははは!」」
 バガンは高らかに笑った。その轟く笑いが世界を揺るがしていく。
「「哀れ! 実に哀れ! 故に哀れなるお前たちに我は教えよう!」」
 巨人は辺りを睥睨するように見渡し、そして言った。

「「この世界は偉大である」」

 ライは鼻白み、そして吐き捨てた。
「……くだらん」
 その言葉を無視してバガンは続けた。

「「この世界は素晴らしい。この世界は輝きに満ちている。この世界は喜びに満ち溢れている! この全うき世界、それは偉大なるフシト陛下の世界である! にもかかわらず、愚かなるお前たちは!」」

 切り離された巨大な腕が光の渦となり、上空高く舞い上がっていく。

「「我がいかに心を砕き、この世界を傷つけぬよう振る舞っているのかを知らぬ。なんと無知で愚かであることか! お前たちは知らぬ。我が力を振るえば、この素晴らしき世界がいともたやすく壊れてしまうということを。故に小賢しくもお前たちは、恐れを知らずに偉大なるフシト陛下に弓を引くことができるのだ! 小賢しき多摩・町田・八王子の叛逆者ども!」」

 舞い上がった光の渦が轟と音をたてて輝いた。それはまるで太陽のように放射状に光を放ち、恐るべき力の波濤で一帯を覆っていった。

「うっ!?」
「「見るがいい、ライよ! そして知るがいい! 我の一撫でによって世界がどのように変わるのかを! そして己の無知を、無力を理解せよ!」」

 バガンの咆哮。そして光の渦は飛んだ。それは凄まじいスピードで調布郊外の荒野を越え、そして人跡未踏の川崎の荒野をも飛び越えて、その遥か彼方、地平の先におぼろげに見える都市に向けて飛び去っていった!

 光り輝く翼が羽ばたき、まるで天空を切り裂くようにして荒野の大地へと降り立った。
「カガリ……」
 そこは荒野の中にぽつんとただ一つ、力強く伸びる大木。翼の主──ハガネはカガリの体をゆっくりとその木陰へと横たえた。

「すまない……少しの間だけ、お前をここに置いていく」

 ハガネはカガリの顔を見つめて、優しくそして悲しく微笑んだ。ハガネは物言わぬカガリに話しかける。

「ここはもしもの時に、ゲンコやゴンタと落ち合う約束をしていた場所だ……だから」
 ハガネは両手を添え、包み込むようにしてカガリの手を握った。
「もし俺が戻って来れなくても、きっとあいつらが……お前を迎えに来てくれるよ」

 そよそよと優しい風がカガリの頬を撫で、ゆらゆらとその髪を揺らした。カガリは何も応えない。ハガネはただ目を瞑った。そしてカガリの手をそっとその胸に置いた。静かでもの悲しい時間が流れていった。
「カガリ」
 やがてハガネは意を決したかのように目を見開いた。そして立ち上がると、カガリに背を向けて荒野のその先を見つめた。
「俺は行く」
 顔だけカガリに向けて振り返る。そして寂しげな微笑みとともに告げた。
「カガリ……すまなかった」
 そして前を向き、歩き出した。
「……ありがとう」

 ハガネは走った。荒野の先へと向かって。恐るべき巨人へと向けて!

「バガン! 俺はお前を打ち砕く……打ち砕いてみせる!」

 ハガネは跳んだ! 不撓不屈の翼を羽ばたかせて! その翼の輝きが荒野の空を染めあげていく。

「うぉおおおおおお!!」

 ハガネは吠えた! 向かうは恐るべき力の源。想像を遥かに超えた圧倒的な力! しかし!

俺は……屈しはしない……俺は決して屈しはしない!

 ハガネは覚悟を決めていた。弾丸のごときスピードで風景が迫り、そして流れていく。その景色の中、ハガネは見た。巨人の腕が弾け、そしてそれが光の渦となり上空へと昇っていく様を。そして──

「!?」
 ハガネの上空を凄まじき力が輝きながら通過していった。
「なっ!?」
 ハガネは翼を羽ばたかせて振り返った。その直後であった!

 激しい閃光。
 そして地平に花が咲いた。

「これはっ!」

 輝く大輪の花。その耀きは世界を白く染めあげていく。鮮烈な光。全てを塗り潰す光。それは地平に生まれたもうひとつの太陽。

 数秒遅れて、轟音とともに爆風が吹き荒れた。爆風の中、姿勢を制御しながらハガネは悟った。それはあり得ない規模の破壊。一瞬にして全てを消し去る力。人々の生きてきた証も、その未来も、その全てを叩き潰す力なのだと理解した。ハガネは己の肩を抱くように握りしめ、叫んでいた。

「くそっ……こんなことがっ……バカな……こんな……うわぁ……うわあぁあああ!!」

 恐るべき力の直撃を受けた都市──町田は消滅した。

「貴様っ! 貴様ぁっ!!!」
 爆風に包まれながらライは叫んでいた。それに応えるようにバガンは吠えた。
「「理解せよ、愚かなるものどもよ! 我への抵抗は無意味なのだと!」」
 その咆哮と共に、上空に広がる霊長類最強の五字が強烈な光を放った。
「「そして見よ!」」
「ううっ!?」
 バガンの力の波濤が迸った。その瞬間、ライにも、そしてハガネにもそれは見えた。バガンの力の波濤、それはまるで幻視のように二人の脳裏に像を浮かびあがらせた。それはバガンの顔であった。眼前に迫り来るように浮かぶバガンの獰猛な顔!
「これはっ!?」
 見開かれたそのバガンの瞳を見つめ、ハガネは言葉を失った。

 その右の眼には「」!
 その左の眼には「」!

 バガンの瞳には刻まれていた。黄金に輝く「最強」の二字が!

「「あらためて知るがいい! そして理解せよ! 我こそは全てを圧倒する者! 我こそは全ての力の頂点! 我はバガン! ジュクゴニア帝国大元帥、最強のバガンである!!」」

 極光のようにゆらゆらと光が揺れている。その光に包まれた奇妙な空間に男が超然と佇んでいた。それはジュクゴニア帝国宰相、摩訶不思議のハンカール。そしてハンカールの傍らに立つ一人の少年。その少年の全てはまるでアルビノのように白かった。

 ハンカールは少年の頬に優しく手を添えた。

「ゴウマ……そろそろ我々も動くとしよう。君の目覚めの時が。始まりの時が近づいているのだ」

 ゴウマと呼ばれた少年は静かに頷いた。
「はい、ハンカールさん」

 その瞳の中で、何かがバチリと輝いた。

【第四十九話「激突する不屈と最強」に続く!】

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