死闘ジュクゴニア_01

第42話「カガリ奮戦!」 #死闘ジュクゴニア

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前回

 ガォオオオオオーーン!!

 男は雄叫びをあげた。

「剣山刀樹のミツルギめ。クソみたいなお前に、手柄なんてやるものか……俺が、この俺が! この銅頭鉄額のアイアーンが! 全てを滅ぼしてやるのだ!」

「さぁってと。あいつら、うまく隠れたかなぁ……」

 カガリは指を組んでぺきぺきと音を鳴らして伸ばしながら、ゆっくりと空を見上げた。禍々しく極彩色渦巻く空。そこに浮かぶジンヤは不気味な光輪に包まれている。そして。

「ははっ、きたきた……」

 そのジンヤからぱらぱらと細かな粒が吐き出されていく。それは浮塵子(うんか)のごときジュクゴ使いたちの大群であった。しかしそれは統率され、明らかに集団としての意思を持ちながら地上に向けて降下を始めている。

「ふぅん。親衛隊、まーだあんなにいたんだ。すっげぇなぁ。でもさぁ……」カガリは口が裂けんばかりに笑った。「悪いけど、みーんな燃えちゃうんだけどねぇっ!!」カガリはその両手を、まるで天を支えるようにして掲げた!

 その遥か上空。

 腐食のロシオンは高揚していた。風を切り、地上へと向けて降下していく。その自分の勇姿に酔いしれていた。まず手始めにテロリストのアジト。次いで多摩。そして町田、八王子。帝国に仇為す愚か者どもを誅滅する。これから行われるのはまさに聖戦である!

「あぁ私は今、正義の側にいる! はっきりとそれがわかる!」

 ロシオンは確信に近い感情を抱いていた。身を切る風が、猛スピードで近づいてくる大地が。すべてが心地よい。それはまるで祝福である──。

「んんー?」

 ロシオンは眉根を寄せた。自らの進む先。眼前に巨大な青い光球が輝いていた。いや、眼前だけではない。まるで地上を覆い、埋め尽くすように莫大な量の青い光が浮かんでいる──

「え? ちょっとなに……熱い! あっつ! あつふぅ……!」

 チュドドドドーーン!!!

 凄まじい爆音とともに青い炎が満天を焦がしていく! 降下してきた親衛隊たちは、為す術もなく劫火の渦の中へと飲み込まれていった!

「あっははは! 燃えろ燃えろ! さすがはアタシ! アタシは強いのだ!」カガリは続いて地平に続く土煙へと視線を移した。「さぁさぁ、次は……」その手を振り下ろす! 「お前らの番だ!」

 ドォーン! ドゥンドゥンドゥンドゥン!!

 大地に次々と巨大な青い火柱が立ち昇った。その噴き上げる炎の中、まるでゴミのように大勢のジュクゴ使いたちが吹き上げられ、そして燃えていく。

「さぁさぁさぁ、どうしたどうした。まだまだ、こんなもんで終わりじゃないんだろぉ………」そう言いかけたカガリは直後、表情を変え跳躍した。次の瞬間! ズズゥン!! 空を覆う青い炎を突き抜け、カガリのもといた大地に巨大な質量が落下した!

「グルグルグル……」ひび割れた大地。そこから現れたのは巨躯の男であった。男はまるで野獣のようにグルグルと不気味に喉を鳴らしている。「へー」カガリは小指で耳をほじくりながら興味なさそうに男を眺めた。「ふーん、あれで燃えないんだぁ」

 ガォオオオオオーーン!!

 男が巨大な咆哮をあげた! そして続けて叫んだ。

「俺はアイアーン! 銅頭鉄額のアイアーンだ! そこの生意気そうな小娘! さぁ、名を名乗れぇい!」

「へへ……」カガリは鼻をこすり笑った。「ジュクゴニア帝国に所属しといて、アタシのことを知らんとわ……」胸を張り、言い放つ!

「あり得ない。おめぇ、さてはモグリだな」
「むぅ?」

「いいか? 耳の穴をかっぽじってよーく聞けよ?」カガリの掲げた両手、その上に凄まじい勢いで青い炎が噴き上がる!

アタシはカガリ。強くて可愛い、劫火のカガリ様だ!

「グルグルグル!」アイアーンは愉快そうに笑った。しかしその直後、その顔は憤怒の表情へと変わっていた。

劫火だと? ふざけるな……それはただの二字ジュクゴではないか! たわけがっ! それでこの俺を相手にするだとっ!? 思い上がりおって。たかが……たかが二字ジュクゴ風情がぁ!!

 カガリに向けてその巨大な拳が振り下ろされた!

「で、ですから……」
「……それが、どうした?」

 悲嘆のナゲキは困惑していた。この女、まるで取りつく島がない……。女はそんなナゲキを見下ろすようにして頬杖をつき、足を組んで座っている。

 ナゲキは俯きながら視線だけを上げ、おどおどと女を見た。ごくり。そして生唾を飲み込んだ。女は美しかった。さらさらとなびく黒髪。そして体の線がはっきりとわかるタイトな軍装。その胸元は大きく開いている。

 しかし。ナゲキが唾を飲み込んだ理由はその妖艶さが故ではない。その大きく開いた胸元、そこに恐るべきジュクゴが輝いている。それこそが理由だ。その胸元に刻まれた恐るべき四字のジュクゴ、それは……

 剣 山 刀 樹 !!

 この地平を埋め尽くすジュクゴニア帝国地上軍。彼女こそはそれを率いる将軍、剣山刀樹のミツルギであった!

 ナゲキは己の体がガタガタと震え始めているのを感じていた。(この女、頭がおかしいんじゃねーの……)ナゲキはミツルギが座る物体を恐る恐る見つめた。それは椅子などではない。人間ピラミッドである。歴戦のジュクゴ使いたちが卑屈な笑みを浮かべながら、彼女に踏みしだかれているのだ!

「私は、それがどうした、と言ったわけだが」

 ナゲキはミツルギの冷たい声によって現実に引き戻された。

「で、ででで、ですから。凄まじい炎によって進軍を阻まれて」「だから?」「い、いや、いや、ですので」

 ふぅっ

 ミツルギは冷たく息を吐いた。

「バカが。敵はおそらくあの劫火のカガリである。そうであるなら、取るべき手段はひとつしかあるまい」
「……と、と、申しますと」
「物量だ。そんなこともわからんのか……きゃつのジュクゴ力(ちから)、それがどれほどであろうと。それが尽きるまで攻め立て、磨り潰し、押し潰す。ただそれだけのことではないか」
「し、し、し、しかし……!」

「くどい……」ミツルギの瞳が冷たくナゲキを射抜いた。「お前も……」ミツルギは己の背後を指差した。「こうなりたくはあるまい……」

 ミツルギの背後。まるで森のように巨大な刀が大地から生え、林立している。そしてそこにはミツルギに逆らったとおぼしきジュクゴ使いたちがモズの早贄めいて串刺しとなっていた。

「ひっひっ、ひぃっ……」

 ナゲキは極度の緊張と恐怖から狂ったようにひきつけを起こし始めていた。それを見つめ、ミツルギは冷たく言い放った。

「なにをしている……行け。お前も早く死んで来い」

【第四十三話「剣山刀樹のミツルギ」に続く!】

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