死闘ジュクゴニア_01

第41話「アタシは強い!」 #死闘ジュクゴニア

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前回

 カガリは再び空を見上げ、凶悪な笑みを浮かべた。

「なーんか。そーもいかなくなったみたいねぇ」

「えっ」

 ゲンコは思わず口に手を当てた。カガリが見つめる先。空が禍々しい極彩色に染まっていく。

 ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 荘厳な──しかし葬送をイメージさせる音(ね)が空から降り注ぐ。ごくり……思わずゴンタは唾を飲み込んだ。その音は徐々に大きく、そして間隔が短くなっていく。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン……

 極彩色の空、それがまるで墨流しのように渦を巻いた。そして──。

「あぁっ!」

 叫んだのはゲンコだった。渦の中心を侵食するように、何かの像がじわじわと浮かび上がってきている。

「あはは。あれは!」

 カガリはギラギラと目を輝かせて笑った。

 ファァァアーーーン!

 奇怪な音と共に光の弧が放たれ、朧な像がはっきりとした形をなした。渦の中心、そこに浮かび上がったのは巨大なる構造物。それはまるで空飛ぶ宮殿、いや、万魔殿という言葉こそが相応しい。

「あれは……!」「ゲンコネエチャン!」不安そうに身を寄せるゴンタ。ゲンコは抱き締めた。

 二人の遥か上空、頭上を覆うようにして禍々しき極彩色が、そして光の弧を放つ万魔の宮殿がそびえている。そしてそこからは気を狂わさんばかりの異様なジュクゴ力(ちから)が溢れるように発散されていた。

「あははは。あれはジンヤ……ジンヤじゃないか。 で! で! なぁ、見なよお前たち」

 カガリは周囲をぐるっと指差した。その指差した先、調布郊外の荒野。その地平に、まるでゲンコたちを取り囲むようにして土煙が立ち昇っていた。軍勢が近づいているのだ。

「あああ……」ゲンコは自分の立つ地面がぐらぐらと崩れていく感覚を覚えた。これでは逃げ場がない。カガリは楽しげにケラケラと笑った。

「ジンヤだけじゃない。完全に包囲されてるってやつ。はは、野ネズミ狩るのにここまでやるとわ!」

 ゲンコは奥歯を噛み締めた。ハガネに任されたんだ。ここで終わるわけにはいかない……。カガリはそんなゲンコを見ながら言った。

「なぁ、お前たち!」ずいっとゲンコに顔を近づける。「さっさと行きな」「……えっ?」「先に出てったやつら、いたよね? 追いかけて、追いついて、そして少しでも安全そうな場所に身を隠すんだ」

「……どういう……ことですか?」

 バン! カガリは力強く自分の胸を叩いた。

「アタシが。どうにかすっからさ」
「……!」
「ほらほらほら。もたもたしてる時間はないんだけど? さっさと行っちゃって欲しいんだけど?」

「どういうことだよ……」ゴンタが問い詰めるように呟いた。「お前は……カガリは……カガリネエチャンはどうなっちゃうんだよ!」

 カガリは一瞬驚いたように目を丸くした。それから照れたように鼻をこする。

「へへへ。ネエチャンって言ってくれるんだ。嬉しいなぁ。でも」

 カガリは再び勢いよくゲンコに向き直った。

「あのさぁ!」
「……はい」
「お前らがいなくなったらさ。ハガネが帰ってくる場所がなくなる……そうだよね?」
「…………」
「それは困る。だからアタシは!」

 カガリは拳と拳をガツンと打ち鳴らした。

「ド派手に暴れて、やつらを引き付ける」
「そんな……」

 カガリは空を、周囲をぐるっと見渡した。空には禍々しい極彩色、そしてジンヤの威容。大地にはぐるっと地平を覆う土煙。

「あは。胸が高鳴るねぇ。これはたぶん全軍来てんじゃね? はは、上等じゃないか」

 カガリが手をかざすと、その上にぼぅっと青い炎が浮かんだ。その表情はギラギラと笑っている。

「あはは。アタシが。みーんな燃やし尽くしてやるよ!」

「カガリさん!」
「おお?」

 ゲンコはすごい剣幕で言った。「そんなの……」ゲンコの眼差しは真剣そのものだ。「そんなの、無茶です!」その瞳には涙がたまっていた。「死んじゃいます……わたし、カガリさんにも死んでほしくない……!」

「へへ」カガリは笑った。そして両手をゲンコの頬に添えると、そっとその涙を拭った。

「ゲンコちゃんは優しいねぇ。でもさぁ」

 カガリは身を屈めて、ゲンコの顔を下から覗き込むようにして言った。

「このままじゃ、みんな死んじゃうよ?」
「……!」
「まぁ、任せとけって」

 カガリはくるりと身を翻してゲンコから距離を取ると、腕を組み、胸を張った。

「あのさ! 言っとくけど……」

 凶悪な笑み。そして自信満々に言い放つ。

「アタシは強い!」

 ゲンコとゴンタは呆気にとられてカガリを見つめた。カガリは親指を立てると、それを自分の胸に向けた。そしてニカリと笑い、再び言い放った。

「めちゃくちゃ強い」

「グルゥゥウウウ……」

 巨大な男が野獣のような唸りをあげている。その周囲にひしめくのはジュクゴニア帝国親衛隊の精鋭たちであった。一帯に拡がる禍々しい極彩色、そして奇怪な光。ここはジンヤ第一層、広場のような空間である!

 男の首には恐るべき四字のジュクゴが輝いていた。それこそは……

 銅 頭 鉄 額 !!

「グルグルグル……テロリストのゴミども。お前らは俺が殲滅する……」

 ガォオオオオオーーン!!

 男は雄叫びをあげた。

「剣山刀樹のミツルギめ。クソみたいなお前に、手柄なんてやるものか……俺が、この俺が! この銅頭鉄額のアイアーンが! 全てを滅ぼしてやるのだ!」

【第四十二話「カガリ奮戦!」に続く!】

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