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いとしき祈りのグロビュール

 《彼女》の臀部から伸びる管が、焼けるような痛みとともに下腹に突き刺さっていた。管はびくびくと熱をともない流しこんでくる。命を、押しこむように胎内へ。

 聞こえてくるのは讃美歌だった。哀しみをおびた歌声に包まれながら、聖戦の御使い、サリとシエとハミヤを滅ぼした者、叡智連合の軍官長《寂しき秘密のリフィア》は微睡みのなかにいた。

 夢を見ているのだ、とリフィアは思った。歌に交じるようにしぎしぎと、羽を震わす《彼女》の音が聞こえてくる。管から流れこむ命とともに、過去が閃光のように浮かんでは消える。砕け散る惑星。消滅する生命。光に染まる宇宙。ああ、讃美歌が聞こえる……。

 あめつち燃えすべて滅びゆく時
 現れしは輝ける八つ角と十六の目
 そは栄光と誉れと力

 偉大なる八大公を讃える歌。それに入り交じる羽音はまるで達するかのように、しぎ、しぎとその速度を早めていく。甲虫じみたツァの種族……再び過去が明滅する。殲滅戦。銀河から驚異を排さねばならない。大いなる業、神聖なる務め。

「貴様」

 リフィアは目を開いた。そこには冷ややかな眼差しがあった。《貴き偽りのダデン》。女を侮る彼の視線は、リフィアにとって常に不快なものだった。

「ご来臨は間近ぞ。惚けている場合か?」

 星ぼし煌めく大聖堂のなか、流れる讃美歌、周囲には居並ぶ軍官長たち。現実だ。リフィアは目を瞬きそっと己の腹に触れた。彼女との繋がりは、もうそこには存在しない。ダデンは鼻を鳴らし前を見た。リフィアもまた居ずまいを正し、聖堂の奥、輝く内陣を見つめた。

 リフィアは思う。赦されるだろうか……あの全能なる八大公様がたに。《彼女》を匿っていること、この肚のなかに《彼女》の子がいること。そして。

 讃美歌が終わり、静寂が訪れた。

 そして。

 この連中を子らの苗床として使うこと……。

 刹那、星を砕かんばかりの大音が轟き、光が降りそそぐ。それは燼滅する八柱の灼熱。

「八大公様がた、ご来臨である!」

【続く】

#逆噴射小説大賞2021

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