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第65話「嘘と偽りと真実と」 #死闘ジュクゴニア

目次】【キャラクター名鑑【総集編目次】
前回
「ぷぷ……あのさぁ」

 ピエリッタは……女は、顔を上げた!

「あたし、そんなこと言いましたっけぇ~?」

「!?」アガラは目を見開いた。見知らぬ顔がそこにはあった。血の気のない、薄ら笑いを貼りつけた、10代半ば程度の少女。その瞳には暗く浮かんでいる。不快で、不気味で、底の知れない、暗黒の二字が。それは──

虚 構

「虚構……だと?」

 眉を寄せ、アガラはピエリッタを……ピエリッタだった女を見た。妖艶で、道化じみた姿はもはや存在しない。そこにいたのは少女だった。華奢な体を漆黒のフリル衣装で包み、貼りついた薄ら笑いを浮かべた少女。白い肌。くっきりとした黒い隈。上目遣い。

「あらためまして、こんにちは」

 少女はスカートの裾を持ち上げながら、どこかぎこちなく首を傾けて挨拶をした。

「道化芝居のピエリッタ改め、虚構のピエリッタだよ」

 沈黙が流れた。アガラも、エシュタも、ヴォルビトンも言葉を発しはしなかった。ただ、空気は静かに張り詰めていく。そして、その緊張の度合いを高めていく。

「ふん……」その沈黙を破るようにアガラが鼻を鳴らした……その刹那! 閃光が弾け、ジュクゴ力が吹き荒れた! ピエリッタの眼前。天下無敵を迸らせ、躍りかかったのはアガラであった! その輝く天下無敵を握りつぶすように掴み、凶悪な笑みを浮かべたのは超新星爆発の男である!

「カカカッ!」男が灼熱の笑みを浮かべた。「カカ……笑止ッ! どこを見ている! 小僧。俺を見ろッ! この、俺を……見ろッ!」「お前……邪魔をするな……ッ!」「お前だとぉ?」男の胸に刻まれた超新星爆発の五字が、炸裂するような輝きを放った!

「カカカカッ! 俺の名はグェイサだ……超新星爆発のグェイサぁッ!」

 一方!

「おぉぉッ!」ヴォルビトンは叫んでいた! エシュタとヴォルビトン、二人の周囲を雷霆万鈞の力場が覆っている! そこに、目もくらむような輝きを伴って凄まじき力が降り注いでいた。それは荷電粒子砲、核融合、熱的死、大量絶滅! 恐るべきジュクゴ使い達による力の発現であった!

「ヴォルビトン!」エシュタの叫びに応えることなく、ヴォルビトンは呻いた。「うぉぉ……」その限界は近い。エシュタは目をつむる。「一瞬……一瞬だけでいい。攻撃が途切れた瞬間……」再び目を見開く。「全員……殺す!」その瞳に渦巻くもの……それは、必殺の二字!

 ジンヤを覆うように、凄まじき力が激突していた。その四方に向けて、雷撃のごとき輝きが迸っている!

「はー。すげぇな、ありゃ」

 造反有理のリオは苦笑いを浮かべていた。調布の荒野。屍山血河の瘴気が去ったその上空で、凄まじき戦いが繰り広げられている。神機妙算のジニがリオに応えた。

「リオ、まだだ。俺の計算によれば……」「あー。聞くまでもねぇ。これからもっと激しくなっていく……そうだろ?」「ああ、そうだ」

「……おい」「あぁ~ん?」リオは背後を振り返った。「お前たち」剣山刀樹のミツルギが呆れたように声を上げた。「本気であれに飛び込む気か?」「そうだが?」

「グラグラグラァ!」銅頭鉄額のアイアーンが豪快に笑いだす。「グラグラ……呆れた連中だ。命知らずにも程がある!」

「アイアーン……貴様、脳漿が垂れている。どうにかしろ」ミツルギは冷たく言い放ち、続けた。「……そして我々に力を貸せと」「あぁ、もちろんだ。お前たちは俺の戦友(ダチ)だからな!」

「このレジスタンスの連中も一緒にか」「当然だな」「ふん。そして……」ミツルギはリオが肩に担ぐ少年を見た。「閣下が……いや、そのバガンがお前たちの切り札というわけか」「あー……いや、そういうつもりはねぇな。こいつもこれから、俺らの戦友(ダチ)になるわけだからよ。ダチはダチだ。切り札とかそういうもんじゃねぇ」

「バカが……出鱈目すぎる……」ミツルギは鼻を鳴らした。「だが……」その肩が小刻みに震えている。それは、恐怖ゆえではない。その震えに呼応するように、リオの造反有理の四字もまた、明滅を繰り返していた。次の瞬間──

「滾る……滾るではないかッ!」

 ミツルギは吠えていた! そして、輝きを放つジンヤを見上げた。その両の手を組み合わせ、何かを握り潰すように力を込める。

「いいだろう……見せてやる。この、剣山刀樹のミツルギの実力をッ!」

 天上天下唯我独尊──それは、絶対の輝きだ。ハガネは足を踏みしめる。そして、輝きに流されそうな自分を押し留めて、力を込めて前を向いた。瞳の不屈がバチリと輝く。それは、圧倒的な光の暴力に対する抵抗。ハガネの意思を示す輝きだ。

「思い違い、だと……!」
「そうだとも、ハガネ」ハガネの呻きに、ハンカールは静かに応じた。
「なぜ君は、あれをまやかしだと考えた?」
「なんだと……?」
「ふふ……君はなにを理由に、過去の君の姿をまやかしだと言ったのか」
「…………」
「ふふふ……わたしが答えてやろう、ハガネ。それは君の記憶。君の経験。そしてその時、君が感じたこと、その全て……」
「何が言いたい」
「くくく……」フシトが再び笑い出した。「ははははははッ! やはり哀れッ!」
「黙れッ!」
「くくく……余は黙らんぞ、ハガネ」

 フシトは鷹揚にその長い髪をかき上げた。美しい、超自然の所作だった。

「汝の思い違い。実に哀れではあるが、その責任はこの、余にあるのだからな」「なんだと……!」

「ハガネ」ハンカールは告げた。

「君の記憶。君の想い。君の経験。それらすべてが……」

 まるで、託宣のように厳かに。

「そのようにあるべきものとして、世界とともに造り出されたのだとしたら……君はどうする」

「カカカカカッ!」

 グェイサは獰猛に笑っていた。その笑いとともに体から迸ったもの、それは、幾条もの爆発的な輝きであった! 輝きは唸りをあげ、轟音とともに大気を蒸発させ、螺旋を描きながらアガラへと迫った!

「ふん……バカがッ!」アガラもまた不敵に笑っていた。そして、アガラの身体を包み込むように新たなる四字が浮かび上がっていく! それは!

絶 対 無 敵 !

 
 輝きが激突し、閃光が激しく散った! その閃光の中から天下無敵を振りかざしたアガラが躍り出る! 「カカッ! 笑止……笑止ッ!」グェイサは張り裂けんばかりに笑った。その灼熱の頭蓋を「ぬぅんッ!」天下無敵に撃ちつける。周囲に凄まじい波涛が迸る! さらに! グェイサの胸に刻まれし恐るべき五字が脈動していた。「ぬッ!?」アガラは警戒した。グェイサは……怒涛の輝きを放った!

超 新 星 爆 発 !

 
 それは宇宙開闢にも似た、凄まじき輝き、凄まじき熱量、凄まじき衝撃であった! 「ヌォォォォッ!」アガラは吠えた。その体を圧倒的な力が包み込んでいく! 「ヌゥゥ……!」しかし、アガラは……「バカが……」その瞳の無敵が弾けるように燃えている。「バカがぁッ!」その天下無敵の腕を、天に向けて突き上げる! 「俺は……無敵だッ!」

 爆音とともにジンヤが震えた。超新星爆発の輝きが昇り竜のごとく天へと駆け上がっていく。「カカカッ! 弾きおったわ!」「当然だ」その振り上げた天下無敵の腕が、その周囲に広がる絶対無敵の四字が、そして瞳に輝く無敵の二字が、バチバチと稲妻のごとき輝きを放っていた。

「俺は……無敵のアガラだッ!」

「ブラボー」パチパチパチ。「すごいすごーい」「貴様……」アガラは吐き捨てるようにピエリッタを見た。ピエリッタは手を叩いている。「すごいなぁ。さすがだなぁ。アガラ君、すごいなぁ。でもさぁ……ぷぷぷ」ピエリッタはその貼りついた笑みで、奇矯な上目遣いで、アガラのことを不気味に見つめている。

「あはは……ほんとにほんとに? ほんとうにぃ? ほんとにそうなのかなぁ?」「なんだと」「ほんとに君って……」

 虚構の二字が、底知れない闇を放っていた。

「無敵……なのかなぁ?」

 アガラは眉根を寄せた。

「何を……言っている?」

 ピエリッタは再び手を叩いた。パチパチ。

「あはははは! アガラ君さぁ、君って昨日食べたご飯を……覚えているのかなぁ?」「どういう意味だ……?」

 アガラは感じていた。なにかが、おかしい。

「というか、というか、というかさぁ、君って、昨日のことを、思い出せるの、かなぁ?」

 アガラはぐらりと視界が揺らぐ感覚を抱いた。なんだこいつは……いったい……何を言っている……?

「あははは!」

 ピエリッタは笑いながら、まるで指揮者のように腕を振った。その直後、ヴォルビトン達に降り注いでいたジュクゴ使いの攻勢が……やんだ。

「そこの君たちもそうだよぉ~」

 ピエリッタの不気味な笑みが、エシュタとヴォルビトンに向けられる。

「二人はいつ出会ったの? なんでここに二人で来たの? なんでなんでなんで?」「…………!?」

 まるで時が静止したように、エシュタもヴォルビトンも固まっていた。しかし、何か恐ろしいことが起きている……そのことだけは理解できた。

「覚えてる? 覚えてないよねぇ~。そりゃそうだよねー」

 ピエリッタは後ろ手に腕を組み、うんうんと頷きながら歩き、話し続けた。

「アガラ。たぶん18歳ぐらい。調布郊外の小さな集落にいた。ただの……ダサいお兄ちゃん。昨日捕まえた」

「何を……言っている……」

 ハガネは呻いていた。

「言ったとおりの意味だ、ハガネ」

 ハンカールは冷たく言い切った。

「君の記憶。君の体験。君の想い。すべては、世界と同時に造り上げられたものだ」「……嘘だ」

「何を……何を言って……」

 アガラは喘いでいた。ピエリッタは構わず続ける。

「エシュタ。君はたぶん16歳ぐらいかなぁ。府中の酒場で働いていたよね。ヴォルビトンはそこのお客さん。ぷぷ……ただのおっさんだ……ぷぷぷ」「な……?」

 ピエリッタは嬉しそうに跳ね、そのフリルのスカートを浮かせるように回転した。

「あれあれあれ~? なんか怖くなってきちゃったぁ? そりゃそうだよねぇ、ぷぷぷ……自分が信じていたものが、まるっきり」

 ピエリッタの白い顔に、不気味な笑みが広がっていく。

「嘘だったなんて、信じたくないもんねぇ~!」

「……嘘だ」「嘘ではない」

 ハンカールの超然とした眼差し。それを見つめながらハガネは感じていた。己の世界が……揺らいでいく。ハンカールは再び、ハガネに厳かに告げた。

「そのようにあるべきものとして、世界とともに造り出された……それが、君という存在だ。ハガネ」

【第66話「世界を貫き迸る光」に続く!】

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