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銃弾軌道の涯てに立つ女

 脳と大地が揺れていた。空は高熱によってまるで煮えたぎる陽炎だった。横薙ぎに照射される熱線。友軍が次々と蒸発していくのが見える。

『汎地球連盟の存亡はこの一戦にあり。会敵必滅。報恩忠国せよ!』
『OM1、OM5、OM9、突出しすぎだ。四時の方角、敵の増援……』

 視界の端に黒い影を捉え「チッ」楓子は舌打ちとともに伏せていた。
「おい!」
 声をかける間もなくOM5イーゼァの頭が消し飛ぶ……あの影。間違いない。幾人もの僚友を葬った大シルチス同盟の猟犬。
「イーゼァ!」
 OM9ウジンが駆けだす。
「バカがッ」
 楓子も立ちあがる。視界の片隅。猟犬の機銃に発火炎が灯り……網膜に示された文字が楓子の運命を告げていた。

 EGiA

 猟犬の銃弾が宙に静止する。体は動かない。まるで時が止まったかのように──。EGiAは連盟ネットワーク内に存在するAIだ。死を観測し、臨終間際のナノ秒で兵士を相応しい最期へと導くという。つまり。

 死ぬ。このあたしが。

『OMたる貴官でも亜光速弾の回避は不可能である。そして』
 AIは無機質に告げる。
『EGiAは、貴官の死と祖国滅亡との間に強い相関を観測した』
 視界が渦巻いた。EGiAの予測モデルは銀河のような煌めきだった。煌めきの中に何万何十万という銃弾の軌跡を見た。
『銃弾で死ぬという事象。その意味的連関の先に祖国滅亡がある』
 楓子は感じていた。銃弾によって死にゆく人々の鼓動を。そして彼らと自分との間に奇妙で深い紐帯があることを知った……それが意味的連関。

『唯一の解法は、意味的連関の解消である』

 やがて視点は銃弾軌道の先、一人の男に焦点を合わせる。吸いこまれるように視界が開け……。

 楓子は目を見開いた。そこは嵐のような機銃掃射のまっただ中だった。見知らぬ戦場。網膜表示の日時は過去。即座に絶対領域を展開。力の障壁に激しい衝撃が走る。

 楓子は冷静に思考した。OM……超人兵器オーバーマンとしての力は健在であると。

【続く】

#逆噴射小説大賞2022

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