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死神の仕事 第5話「他人の空似のアップルティー」

第五話「他人の空似のアップルティー」

1
「ケーフィーさん、ヴォルカンって呼んで、ください」
「ヴォルカンさん」
「ケーフィーさん………」
「ヴォルカンさん、愛してますよ」
「わ、私も、です、」
 二人は甘ったるい、優しいキスをした。

2
 何故こうなったのかというと、時は3日前にさかのぼる。
 今回の死人はドイツ人。ケーフィー。28歳。男性。死因は病死。
 今回の死人のファイルを見た時、オレはひどく嫌な予感がした。
 まず死因。この病気の名前は聞いたことがある。ヴォルッチの旦那もかかった病気。そして、ヴォルッチの旦那を帰らぬ人にした病気だ。ヴォルッチも驚いたように目を瞬かせている。
 そして何より、死人の顔。そいつはヴォルッチの旦那にそっくりだった。

3
 正直、オレは今回の仕事にヴォルッチを参加させたくなかった。いくら他人とはいえ、ここまで似ているとヴォルッチが彼を思い出しかねない。
 ヴォルッチはある貴族の執事をやってた頃、別の貴族の執事をやってる男性に猛烈にアタックされた。
 はじめは仕事一筋で冷たくあしらっていたヴォルッチだったが、ソイツに優しくされ、助けられ、相談に乗ってもらったり、仕事を手伝ってもらったり。体調の悪い時は看病してもらったり、慰めてもらったりと、頼ることが多くなって、結局絆されるように、ソイツと恋人同士になった。
 恋人ができたヴォルッチはとても幸せそうだった。働き詰めな毎日に花が咲いたように笑って、それはそれは充実した日々を送っていたと思う。そいつはとても世話焼きで尽くしたがり。ヴォルッチの面倒もよく見てはとても可愛がった。おまけに愛をたくさん伝えてくれる人で、ヴォルッチは顔を赤らめては嬉しそうに愛を受け取っていた。
 どこから見ても仲睦まじい、お似合いのカップルだった。
 オレも祝福したし、ヴォルッチが幸せになるのは良いことだと思った。
 やがて二人は結婚し、結婚式こそあげなかったものの、二人で新婚旅行に行ったりして、それはそれは幸せな夫婦だった。
 旦那が病気にかかるまでは。
 旦那のかかった病は流行りのもので、非常に感染力が強く、致死率も高かった。
 ヴォルッチはつきっきりで面倒を見て看病したが、その努力も叶わず、旦那はなくなってしまった。
 旦那が亡くなってしまってからのヴォルッチは酷かった。まるで廃人のように虚な目をして、泣いてばかり。髪は短く、服もいつも適当で、ご飯はほとんど食べなかった。
 着飾ることも、笑うことも忘れたヴォルッチはとても痛々しかった。
 オレはそばで支えたけれど、とても可哀想で見ていられなかった。
 元気になってくれればと思い、いろんなところへ連れて行ったが、ちっとも元気にはならなかった。
 ヴォルッチの心には大きな穴がぽっかりと空いてしまったらしく、しばらく生きる喜びなど忘れてしまった様子だった。
 そのうちして、オレが熱心に面倒を見て、やっと立ち直ったのだ。
 それなのに、こんなにそっくりな男に再び会っては、ヴォルッチの心が壊れかねない。
「今回の仕事はオレ一人で行くよ」
 オレはそう言ってファイルを閉じた。
 パタン、と風の抜けるような音がした。
「嫌だ、俺も行く」
 ヴォルッチはフルフルと首を振るとファイルを開いた。
「あの人に会いたい……」
 愛おしそうにファイルの名前をなぞった。
「似てるけどあいつじゃない。ただの他人だよ?」
「それでもいい。あの人の瞳に俺が映って、あの人の声で名前を呼ばれたい」
 ヴォルッチはこちらを見向きもしない。
「でもこいつはまた死ぬ」
「……仕方ない。この人は人間だから」
 悲しそうに唇を噛み締めるヴォルッチ。
「行かない方がいい。辛いだけッスヨ」
 オレはヴォルッチの手を取って握り締めた。
「やめなよ」
 懸命に説得する。
 ヴォルッチの悲しむ顔なんて見たくない。
「最後くらい、俺が看取りたい」
 ヴォルッチはオレの手を振り解くと、写真を愛おしそうに撫でた。
 写真を触るとワープの合図だ。
 オレはため息をついてヴォルッチについて行った。
 一体どうなることやら。

4
 運命だと思った。また貴方に会えるなんて。
 正確にいえば貴方にそっくりな別の誰かだけど。それでも構わなかった。
 大好きな人。今でも忘れられない人。愛しい貴方。俺の貴方。
 また会えることをどんなに祈ったことか。
 リヴァイヴは俺が今回の仕事に関わるのを全力で止めてきた。
 無理もない。オレは、この人が亡くなった時に、酷く心を壊し、廃人になってしまった。
 見るもの全てが色褪せて見えて、生きているのがとても苦痛だった。
 死にたくて死にたくて仕方なくて、自分が不老不死であることを呪った。
 泣いても泣いても涙は枯れることはなく、食事も喉を通らなった。
 そんなあの人に、また会えるなら、偽物だって構わない。
 またあの人の声で俺の名を呼んでほしい。愛してると言ってほしい。あの人の目に俺の顔を写してほしい。
 そう思う一心で、俺はリヴァイヴの制止を振り払い、その人に会いに行った。
「初めまして、ケーフィーさん。私はクロ。世間で死神と呼ばれているものです。貴方をお迎えに参りました」
 桜並木の見える窓のある病室で、春風と共に窓から入り込む。
 桜の花びらが、白い病室に散った。
「なんて、美しい人だ、」
 ケーフィーさんは目を見開いて俺を見る。
 夫の残した言葉を思い出す。『私のことは忘れてください』忘れられるものか、愛しい人。何億年経っても、俺の記憶から色褪せることはない。

5
「だぁからってそんなにベタつくことないじゃないッスカ!!!」
 病室にオレの大声が響く。
「病院なんだから静かに」
 そういうヴォルッチはケーフィーの膝に乗り、手をケーフィーの首に回していた。
 もう、いかにもメロメロって感じ。
 なンスか、顔が似てるってくらいで。
「クロさん、美しい人。貴方が死神だなんて思えない。まるで神ですね」
 ケーフィーはにっこり笑うと、ヴォルッチの手の甲にキスをした。
 語彙の端々からキザったらしさが覗く。なんだか本当にアイツに再会した気分だ。
「かわいい人」
 キスされて頬を染めるヴォルッチをうっとりするように見て、まるでオレは蚊帳の外。完全に二人の世界だ。
「はい離れて離れて」
 オレは2人を引き剥がすと、死神のシステムについて説明した。
「ケーフィーさん、アンタは後2週間でこの世を去るッス。死因はこの病気。病状が悪化して死亡。その前に一つだけ、願いを叶えてあげられるッス。ただし、死にたくないとか、不老不死になりたいとか、病気を治してほしいとかは無理。死因に影響しない程度で、期間内に達成できることのみ。このことを守ればなんでも一つ、願いを叶えられるッス」
「なんでも、ですか」
「ええ、なんでも」
 ヴォルッチが続ける。
 無難な、無理のない願いにしてくれればいいンスけど。
 ただ、オレのこの期待は打ち砕かれることとなる。
「ではこの彼、クロさんを2週間の間私にください」
「はぁ〜〜〜〜〜?!」
「喜んで……!」

6
 案の定、ケーフィーはヴォルッチを2週間の間、自分のものにしたいと言い出した。
 オレはもちろん猛反対。そんなことしたら後2週間しかない命なのに、ヴォルッチがますます執着してしまう。
 コイツが亡くなった後に面倒を見るのはオレなのに。
 逆にヴォルッチは大喜びだった。
 柄にもなく、ニコニコして、とても嬉しそう。
「私なんかでよければ、なんでもお手伝いさせてください」
と、彼の執事にでもなったつもりだった。
「恥ずかしながら、彼とは何か運命を感じるんです。初めて会った気がしません。何年も探していたような、こんなに愛しく思う人、生まれて初めてです」
 ケーフィーさんはそう息巻いていうと、ヴォルッチをオレから引き剥がし、自分の元に引き寄せた。
 オレは正直面白くない。いくらアイツに似ているとはいえ、ただの他人の空似だし、ヴォルッチはオレの恋人だ。いい気がするわけがない。
 それにこの仕事のいくつか前に、オレを恋人にしたいと願った死人にヤキモチ妬いて、こんなことはお互いなしにしようと言ったのはヴォルッチじゃないか。それなのに、易々と約束を破って。
 こんなにとろんとした顔で男にもたれかかるヴォルッチなんて見たくない。
「やめなよヴォルッチ、コイツ死んじゃうンスヨ?」
「短い間でも構わない」
 ヴォルッチは嫌々というように身を捩った。
「大体オレとの約束は!」
 ヴォルッチの腕を強く引っ張る。
「罰ならいくらでも受けるから、」
 悲しそうな目でオレを見上げるヴォルッチ。ああ、その顔には弱いのに。
「私からもお願いします、シロさん。2週間で構いません。彼には手を出しませんから」
 ケーフィーも頭を下げて頼み込む。
 なにこれ、オレが悪者みたいじゃん、恋人の浮気を止めることがそんなに悪いことかよ。オレはいたたまれなくなって、病室を飛び出した。

7
「シロ、怒っちゃったかな、」
 彼は病室の外を心配そうに見る。
 深い青の瞳と深緑の瞳が長いまつ毛縁取られ、褐色の肌に影を落としていた。
 なんて、美しい人だろう。まるで、精巧に作られた人形のようだと思う。
 今日から彼が、私のもの。
 そう思うと身震いがした。
「クロ、さん」
 私は彼を呼び引き寄せると隣に座らせた。
「はい。ケーフィーさん」
 こて、と首を傾げ私を覗き込むクロさん。その仕草一つ一つが美しい。
「貴方のことを教えてほしいです。なんでもいい、私に聞かせてください」
 そう言って私は彼にアップルティーを淹れてあげた。
 彼は驚いたように目を見開くと、ポツポツと身の上話をしてくれた。
 彼は、不老不死の身体で親に気味悪がられ、捨てられてしまったらしい。スラム街を彷徨っていたところを、とある貴族に拾われて執事になった。執事としての仕事は大変で、主人からの扱いも酷かったが、とても誇り高い仕事で、やり甲斐もあるし、何より主人の役に立てるのが嬉しかったと彼は言う。
 彼のその仕事に対する直向きさと、努力家なところに惹かれた。
 主人が死ぬまで彼は役目を全うし、主人が死んでしまった後は恋人だった男性と、暮らしていたという。
 その男性が私にそっくりで、死因も私と同じ病気らしい。
 だから私とはとても運命を感じるし、とても放ってはおけないと彼は言った。
 通りで彼は初対面の私にも優しいわけだ。
 浅はかだと知りながら、私とそっくりだという男に嫉妬してしまう。
「シロさんとはどういう関係で?」
「アイツとは幼馴染なんです」
 クロさんは遠い目をして話す。とても懐かしそうな、何か、愛おしいものを見るものの目だった。
 シロさんとクロさんは小さい頃からの幼馴染だったものの、クロさんはスラム街出身、シロさんは裕福な家庭育ちと、環境は大きく異なっていたらしかった。
 クロさんの主人からする酷い扱いに何度も2人で逃げ出そうと言ってくれたが、それも断ったと言う。
「友達思いのいいやつなんですけどね。オレを必要としてくださるって言うのが嬉しくて」
と彼は語る。
 やがて2人には恋人ができて疎遠になってしまったが、互いの恋人が死んでから、互いを支えて、共に生きてきたらしかった。
 しかし突然、死神に任命され、それ以来この仕事を続けているらしい。
 とても悲しい仕事だと彼は言った。
「死にゆく人を見送るのは、死因がなんであれ、いいものではありませんよ」
 そう言って彼はアップルティーを啜った。悲しそうな瞳さえ彼にかかれば美しかった。
「死にたいと思ったことはありますか」
 私はそう聞いてみる。不老不死の気持ちとは一体どんなものだろう。
「ええ。何度も。特に旦那が亡くなった時は我が身を何度呪ったことか。旦那でなくとも、仲間や知り合いがどんどん死んでいって、私とリヴァイヴ2人きりになってしまうのは辛いです。目覚ましく変わりゆく世の中で、老いることなく生きている自分は、川の流れの中の岩のようで、酷く、虚しい……」
 遠い目をして、彼は目を伏せた。
 長いまつ毛が頬にかかる。
 思わず私は彼の手を取って、肩に顔を引き寄せた。彼は少し驚きつつも、ふふっと静かに笑った。
 この人は、魔性だ、抱えている空虚でさえ美しい、哀しみでさえも、彼の前では装飾品に成り下がる。
 彼の前では、1人の男など、ひとたまりもないだろう。
 美しさと、色気にあてられて、酷く、酔いそうだ。
「初対面の貴方に、こんなこと言うのは変かもしれませんが、」
 私はおずおずと口を開く。
「正直、貴方にとても惹かれています、とても放っておけない」
「私もです」
 クロさんはふわっと柔らかく笑う。
 構わない、クロさんが私越しにかつての恋人を見ていたとしても。私を愛する理由が、彼に似ているからでも。
 今はクロさんは私のものだ。

7
 それから俺とケーフィーさんは毎日を一緒に過ごした。
 共にお散歩をしたり、食事をしたり、他愛もない会話をしたり。
 何か特別なことはしなかったが、何気ない日常が私たちの間に流れるのが心地よかった。
 まるで昔に戻った気分だ。
 ケーフィーさんも、俺といると具合がいいようで、医師からは病状が良くなったと言われていた。
 とても後数日の命とは思えない。でも、彼は必ず死ぬのだ。あまり執着してはならない。分かっていながら彼と離れるのが辛かった。
 夜も帰るのが遅くなり、病室に入り浸るようになった。
 リヴァイヴはすごく怒っていて、あまり口を聞いてくれなくなった。本当に申し訳ないと思っている。俺の一時の恋を、恋人として許してくれるわけがない。俺が以前あんなに嫌がったのに。同じことを今度は俺がしている。胸の痛みなら、手に取るようにわかる。
 けれど彼からは離れ難かった。
 あの人の目で、あの人の声でもう一度俺に笑いかける彼が、もう時間ですねと悲しそうに時計を見上げ、いかないでと目で訴えるのだ。
 彼が死んで以来、離れたくない一緒にいたいと願ったことが幾度とあったか。今は一緒にいることが叶うのだ、どうして離れることができよう。
 彼といられなかった時間を埋めるように俺はあの人と過ごした。
 こんなことは、リヴァイヴにも彼にも、あの人にも俺にも良くない。分かっている。分かっているけれど——、
「クロさん」
 隣に座るケーフィーさんが俺の手を取った。
「悲しそうな顔。どうかしましたか?」
 そう言って俺の手に口づける。
「すこし、考え事をしていて」
 俺は咄嗟に誤魔化した。
「そうですか」
 ケーフィーさんは優しい。一時の間でも俺に幸せをくれる。似ている誰か越しに愛されるのはいい気がしないだろうに。怒りもせず、俺を受け入れてくれた。その優しさが、さらに辛い。
「明日、私は死んでしまいます。貴方といられるのはこれまでです。どうか、最後の願いです、今日の夜は私と過ごしてくれませんか?」
 申し出に少し、驚く。
 そう、ケーフィーさんは明日亡くなってしまうのだ。
 亡くなってしまうだなんて到底思えない。こんなに、顔色がいいのに。
「はい、ぜひ過ごさせてください」
 俺は迷いもなく答える。
 彼は後少しの命だ。長くいられるならなるべく共に過ごしたい。
 罰ならいくらでも受けると、リヴァイヴに言った。高くつきそうだなと少し怯むが、構わなかった。
 彼と最期の時を過ごせるなら。

8
 そして、冒頭に戻る。
 カーテンから月明かりが差し込む。
 病室には2人きりだ。
「私の本当の名はヴォルカンというんです。ケーフィーさん、ヴォルカンって呼んでください」
「ヴォルカンさん」
「ケーフィーさん」
「愛してます」
「私も、です、」
 私と彼は、甘くて優しいキスをした。
もう想いは止められなかった。貪るようにキスをして、互いを求め合う。
 彼の熱にうかされて、この時がずっと続いたらと思った。
 許されない快楽に身がはねる。自分の甘い声が耳に嫌についた。
「ヴォルカンさん、ヴォル、愛してます」
 それをかき消すようにあの人に似たケーフィーさんの声が脳に響く。
 下半身に響く、甘く切ない感覚に、身を捩って、ケーフィーさんにしがみつく。
「わた、しっ、もです、」
 声も絶え絶えに返事をする。
「死にたくない、貴方と共に生きたい、」
 気がつくと、ケーフィーさんは泣いていた。琥珀色の瞳から、大粒の涙が流れる。
「私も、貴方と、離れたくっ、ない、」
 ぎゅうっと叶わないことを口にしながら、ケーフィーさんを抱きしめる。
 やはり今回の仕事はリヴァイヴに任せておけばよかったかもしれない。
 快楽とは別に、胸を締め付けるような痛みが走る。

9
 そして、次の日の朝、ケーフィーさんは静かに息を引き取った。
 眠ったようなままの顔で、今にも「ヴォルカンさん」と笑いかけてきそうだった。
 俺は彼にキスをして、魂を刈り取る。魂は風に吹かれるように上へと昇って行った。
 病室に春風が爽やかに吹き込む。
 悲しい、が清々しくもあった。やけに心はスッキリとしていた。
 リヴァイヴに、怒られてしまうな。

10
 恋人のオレを差し置いて、朝帰りしてきたヴォルッチは嫌に清々しい、晴れた顔をしていた。
 思ったよりダメージは少なかったらしい。
「ごめん、」
 第一声に謝ってくれた。
 まぁ、及第点といったところか。
 欲をいえば朝帰りなんてしてほしくなかったが。
「謝って済むなら警察は要らないッスヨ」
 オレはヴォルッチに火を要求してタバコを吸いはじめた。
 罪悪感があるのか、ヴォルッチは塩らしく従順だった。
「あの人はどうだった」
「亡くなったよ。眠るようだった。魂も無事昇った」
「そう」
 朝日の差し込む部屋に、タバコの煙が上がる。
「罰はいくらでも受けるンスよね?」
「嗚呼」
 ヴォルッチは覚悟を決めたように、ベッドに座る。
 ほわ、とヴォルッチ向かって煙を吐きかけた。
「楽しませてくれるッスヨね?」
 タバコの火を消して、シュルリとヴォルッチのネクタイを解いた。
「もちろん、」
 少しみじろぎしたヴォルッチにのしかかる。
「手加減しないッスヨ」
「してもらえるような立場じゃないだろ」
「そおッスネぇ」
 ぷちぷちとボタンを外す。
「痛くするかも」
 オレはニヤリと笑う。
 アイツと寝てきたことはイラついているが、ヴォルッチをいじめるのは好きだ。
「やっぱちょっと、てかげ、ん」
 青ざめるヴォルッチの手を捻り上げる。唇を乱暴につけて、舌を噛む。
「まさか。1日は長いッスヨ?簡単に音をあげられちゃあねぇ?」
 オレの悪い顔に、ヴォルッチはさらに青ざめる。
「オレだってね、嫉妬心がないわけじゃないンスよ?恋人があんなにメロメロになって、知らない男と一夜を過ごしたときたら、黙ってらンないし、お仕置きはたっぷりしなきゃなンない」
 かぷ、と首筋を噛む。
「ねぇ?ヴォルッチ」
「、ひ、」
 今更後悔したって、遅いンスから。
 今すぐオレで思いっきり上書きしてやる。

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