見出し画像

死神の仕事 第6話「老婆のミルフィーユ」

第六話「老婆のミルフィーユ」

1
 読者のみなさんに問おう。老人は好きか?俺の答えはノーだ。
 なぜって、老人は自分の社会的立場を盾にして、今生きている若いものを扱き使い、見下し、やれ私の若い頃はと聞いてもいない苦労話を聞かせてくる。
 その上、彼らが生活している金、年金は若いものが汗水流して働き、稼いだお金から税金として徴収される。
 つまり、若者は縁も関わりもない老人何人も一人で養っているという計算だ。
 やってられるか?自分に悪態をつき、世話には文句を言い、口を開けば小言に説教。自分1人では何もできないくせに、手助けをしろ、やれソレがたりてない。アレはどこだ。昼飯はまだか。と指図の乱れ打ち。酷ければ奇声、奇行を繰り返すとまでくる。さらに老化が進めば記憶は後退し、自分が誰なのか、世話しているのは誰なのかも分からなくなり、記憶は混濁し、支離滅裂な発言を繰り返し、自分の納得のいかない記憶は都合のいいようにすり替わり、それが事実と自信満々に主張し始める。
 その世話を毎日毎日毎日毎日毎日——、
 もうウンザリだーーーーーーーー!!!

2
「荒れてるねぇ、ヴォルッチ」
 ぐったりと机に突っ伏していつもの何倍もくたびれているヴォルッチにコーヒーを淹れてやる。
「やってられるか、あのクソババア、次余計なこと口にしたらぶち殺してやる!」
「罰を受けるよ〜」
「構うものか!」 
 ヴォルッチがいつにもなく荒れているのは、今回の仕事のせいだ。
 死人は2人。イバラさんとミモザさん。後期高齢者で、老人ホームに住んでいる。2人とも老衰によって亡くなるのだが、その余命は半年。
 その半年間、オレたち2人は、何故か再びいろんな人に見えるようになった身体を使って、老人ホームで働いている。
 特にヴォルッチが手を焼いている相手は、老人ホーム最年長のイバラさん。痩せ細った針のような体に、鷲鼻、ひっつめ髪に、アンティークなドレス、二つに折り曲がったような腰を車椅子にどっかりと納め、慇懃な雰囲気を放っている。その見た目通り、かなり気難しい性格で、他の職員たちも手を焼いていた。頑固で自己中心的、維持が悪く、偏見や差別の絶えないステレオタイプ。嫌味や文句がきつく、彼女にいじめられて辞めてしまった職員も後を経たないようだ。
 口癖は「忘れた」「そんな口の聞き方をするとバチが当たるよ!」「意地悪な職員だねえ」の3つ。
 イバラさんは若干認知症が入っており、それを本人もわかっているのか都合よく使う。都合の悪いことは「忘れた」「覚えてない」と言うくせに、自分に都合のいいことはしっかり覚えている。
 イバラさんは口も悪いため、カッとなって言い返してしまう職員も少なくないのだが、そんな時に必ず帰ってくるのがこの言葉。「そんな口の聞き方をするとバチが当たるよ!」高齢者は敬い丁重に扱うべきと言う古い考えがこびりついて取れないらしく、自分は失礼な言動をしても知らんぷりなくせに、されるとこれである。
 「意地悪な職員だねぇ」と言うのは、イバラさんが被害者ヅラをする時に使う言葉だ。彼女は何かと被害者ヅラをしては自分を正当化し、職人を困らせている。
 そんな厄介者のイバラさんが、ヴォルッチの担当になってしまったから、さぁ大変。
 穏やかであるはずの老人ホームに怒号の喧嘩が飛び交うようになってしまった。
 ヴォルッチはゴグゴクとコーヒーを一気に飲み干すと日誌の記入に取り掛かった。
「チクショーあのクソババア………」
 ぐちぐちと悪態をつきながら、日誌に今日のことを書き出していく。
 ところでオレの担当のおばあちゃんはミモザさん。イバラさんよりは年下だが、かなりお年を召している。少しぽっちゃりした体でショートカット。垂れ目にてろんとした頬がチャームポイントの穏やかな顔つき。いつも明るい色のトレーナーを着ていて、腰が曲がり、車椅子に窮屈そうに座っている様は他の老人たちとなんら変わりないが、このミモザさんはすこぶる性格が良かった。
 優しくて穏やか、いつもにこにこしていて、職員にも親切。怒ることなど滅多になく、礼儀正しく、お茶目で、明るく、気を遣えるし、手先も器用らしく、部屋の暖かいところで編み物をよくしている。最近は孫にマフラーを編んでいるらしい。その前は手袋を。その前は息子に帽子を。その前はお嫁さんにミトンとカーディガンを……。家族からも愛されており、よくお見舞いにくる。
 口癖は「ありがとう」「ごめんなさいねえ」「気を遣わなくていいのよ」
 ミモザさんはいつもありがとうを忘れない。オレも担当して数日で分かったが、オレのする仕事一つ一つに気がついて、お礼を言ってくれる。誰も気がつかないような作業でさえもだ。
 そして何かを頼んだりしてもらったり、手助けをしてもらったりした時は必ず「ごめんなさいねえ」と言ってくれる。自分の世話をさせるのが申し訳ないと言う感じではなく、いつも色々気がついてくれてありがとうと言うニュアンスに近い。聞いていて嫌気分にならない。
 ミモザさんは自分の世話をしてくれる職員に非常に感謝しており、いつも何かしらプレゼントをくれるのだ。その時の彼女の口がこれ。「気を遣わなくていいのよ」そう言って小さな小包に入ったクッキーやケーキ、手作りのアクセサリー、身につけるものなどが渡される。「いつものお礼だから」と笑って。オレも先日、綺麗なピアスをもらった。
「歳をとると趣味が増えるのよ」
 なんて歌いながら楽しそうに作っていた。
 ヴォルッチには悪いけど、オレはミモザさんの担当になれて良かったなーと心底思っている。
 待遇が雲泥の差だ。
「さあてと、」
 オレもヴォルッチに倣って日誌を書き始める。

3
「薬がないんだけど?!?!」
「無くなる前に言えっていってんだろうが!!」
 今朝も俺とばーさんの怒鳴り声で1日が始まる。
 入居者が飲む薬は飲み忘れがないように、お薬カレンダーに朝昼晩と飲む分がそれぞれ入れられている。入居者はそこから食事後に薬を取って飲むのだが、薬が切れている際は切れる前に職員に申し出て補充してもらう決まりになっている。
 それなのにあのばーさんは俺が何度言っても、薬が切れてから、薬を補充するように要求してくる。しかも言い方が「薬がないんだけど」では、まるで薬がなくなったのは俺のせいで、俺が悪いとでも言うような口ぶりだ。
 薬が切れる前に、職員に報告するのにはきちんとわけかがあって、薬が切れる前にお薬カレンダーをチェックして、入居者が薬をきちんと飲んでいるか、体に異常はないが問診を行う。もし何か異常があれば、定期検診の時に医者に申し出なければならない。そして、お薬カレンダーが空っぽになる前にお薬を補充して、お薬の在庫を確認することで、お薬の在庫がゼロになることを防いでいるのだ。お薬カレンダーにも、在庫にもお薬がないとなれば、入居者は困ってしまう。以上のことから、決まりで、薬が切れる前に申し出をと、口を酸っぱく言っているのだが、
「忘れた」
口を開けばこれだ。
「忘れちゃうんなら書いて貼っておきましょうねぇえ?!」
「アタシの部屋に変なものを貼るんじゃないよ!!」
「だって何度言っても忘れちゃうんだから仕方ないじゃないですかぁあ?」
 半ば煽り気味にばーさんの剣幕に立ち向かう。
 マジックで紙に『薬の申告は薬が切れる前に!』と大きく書いて、ばーさんの手の届かないところにベタッと貼る。
「アンタ!なんてことを!意地悪するんじゃないよ!!そのうちバチが当たるからね!!」
「私は無神論者でーーーす」
 なんなら自分自身が死神だっつーの。
 いつもこうだ。騒がしい朝に嫌気がさす。仕事じゃなきゃ引っ叩いてるところだ。
「イバラさんは今日も元気ねぇえ」
 同室のミモザさんが微笑みを称えて、食後のお茶を飲んでいた。
「ミモザさん、今日もご飯完食したンスねぇ〜!すごいすごい」
 リヴァイヴはミモザさんとばーさんの食器を下げながら、ご機嫌である。一方ばーさんの食器を見て固まる。茶碗には一口分のご飯が残されたままだった。
 これはイバラさんの出身の国では古い伝統で、ご飯は必ず一口分残すことになっている。これで、家族の安寧と、豊作を願うらしいのだが。
「イバラさーん、どしたの?ご飯多かった?一口残ってるッスヨ〜?ご飯今度から減らそうかあ?」
 リヴァイヴはイバラさんに目線を合わせて問いかけた。
 リヴァイヴは女好きでコミュニケーションを取るのが上手いこともあってか、老人ホームではモテモテで、ヘルパーという仕事も適任という感じがしていた。
「多かったわけじゃない。適量だよ」
「でも一口残ってるッスヨ?」
「それはウチの伝統なんだよ!!!」
「うーん、そっかそっか、でも、こういうことされちゃうと、ご飯捨てるしかなくて、もったいないンスヨ。食べないなら減らす、食べるならそのままの2択にして欲しいな〜?」
 ばーさんの投げやりな物言いに優しく返せるリヴァイヴはさすがだ。
 しかし相手が悪い。
「食べないしそのままの量でいいんだよ!!!!」
 ばーさんは怒号と共に本をリヴァイヴに向かって投げた。
 危うく当たるところをリヴァイヴはキャッチして棚に戻す。
「危ないから本は投げなーい。ね?とりあえずごはんは減らしまーす。足りなかったら言ってくださいねー」
 そう言って今にもキレそうな顔をしながら食器を下げていった。
 ありゃ相当きてるな。
「年寄りを無碍にするとバチが当たるよ!」
 ばーさんも負けてはいない。
 リヴァイヴの背中に捨て台詞を吐いた。
「お二人、今日は入浴のご予定となってますが、時間はいつにしますか?」
 俺はばーさんのお薬カレンダーを元あった場所にかけ直すと、2人に聞く。
 老人ホームでは2日に一回、入浴の時間が回ってきて、朝、昼、夕方の3択から選べることになっている。もちろん担当は女性職員だが。
「私は、お昼がいいわあ。今お昼頃あったかいでしょう?湯冷めしないようにお昼にするわあ。よろしくお願いねえ」
 ミモザさんはお日様のように穏やかに話す。
 ミモザさんは昼希望、と手帳に記入する。
「アタシは風呂は夜にしか入らないよ」
 出た。ばーさんの自分ルール。
「イバラさーん、何度も言いますが、お風呂は朝か、昼か、夕方の3回の中からしか選べないんですよー。夜間は夜勤担当の職員さんが少ないので、できないって先日お話したじゃないですかあ?もしかしてそれも忘れちゃいましたかあ?ここに書いた紙貼っておきましたよねぇ?」
 ばーさんが老人ホームに来る前にご家族中での習慣だったらしい。お風呂は夜。ばーさんは1番最後で、汚いから風呂の栓を抜く。
 しかしここは老人ホーム。彼女独自ルールは通用しない。
 俺は先日貼ったはずの貼り紙を探すが、見当たらない。どうやらばーさんが剥がしてしまったらしい。
「忘れたね」
 ったくこのクソババア…………!
「アタシは夜にしか風呂は入らないんだ!昼間なんて寒くて入ってられないよ!」
「ミモザさんも今日はあったかいて言ってたじゃあないですかあ?湯冷めしなくていいんじゃないんですかあ?」
「昼は昼寝の時間なんだよ!!」
 はーーーーっ。ああいえばこういうだ。
「じゃあお風呂は入らなくて結構です。夜間の職員に相談して、体を拭きに行かせますから」
 とりあえず俺は言い返すのが面倒なので折れて、妥協案を出す。
「体を拭くだなんて寒いじゃないか!!ここの職員は入居者を風呂にも入れないのかい!」
「だーかーらー!風呂に入りてぇんなら朝か、昼か、夕方から選べっていってんだよ!夜間は視界も危ないし、職員も少ないから、面倒が見切れねぇんだよ!!考えろ!!話を聞け!!」
「年寄りに向かってなんて口を聞くんだいアンタ!!!」
 ばーさんは俺の言いっぷりに憤慨して顔を赤くしている。今にも何か投げてきそうだ。
「はい、じゃあ分かりましたあ、もういいです!!イバラさんは当分お風呂も体拭きもしなくて結構です!!そのわがままを治すまで、体臭くいてくださいねぇ!!!」
ビシャン!
とドアを乱暴に閉めて、個室から出る。
「またやってるのかい、クロくん」
 館長がニヤニヤと笑いを堪えながら俺の肩を叩く。
 館長は俺とイバラさんの掛け合いをコントか何かだと思っているらしく、いつも廊下で聞いては爆笑している。
 何を隠そう、こいつがオレをばーさんの担当にした張本人だ。
 異性が良くて、負けず嫌いで優秀な俺なら、という打診らしいが、大方、この掛け合いが聞けることを睨んでの采配だろう。
「またじゃないですよ。イバラさんが悪いんですから」
「まぁまぁ。彼女に手を焼く気持ちは分かるが、お手柔らかににな。彼女は死後この老人ホームに莫大な遺産を寄付してくれることになっている。丁重に扱いなさい」
 館長はまだ笑いが止まらないのか、クツクツと口の中で笑いながら俺にいう。
 ばーさんには息子や親族はいるものの、イバラさんの世話を完全放棄している上に、ちっともお見舞いにも来ず、半ば絶縁しているようだった。ばーさんはそんな親族たちに呆れ、多額の遺産を死後、この老人ホームに寄付する遺言を作ったらしい。
 このせいで、皆がばーさんの言いなりでばーさんに頭が上がらないのだ。館長でさえ、手が出せない。
 腐った世の中だと心底思う。
 世の中、最期まで金なのか?

4
 今回こうして、老人ホームに潜入のにはわけがある。
 ご老人2人の前に突然現れて、死神です、魂のお迎えに参りましたーだなんて言ってのけたらそれこそ驚いて命を失いかねないため、とりあえずはこうしてヘルパーの姿として、2人の前に姿を現している。そのうち願いを探り、それがいつの間にか叶っているうちに亡くなってもらい、さっさと魂を回収するという算段となっている。
 ミモザさんの願いを探るのは簡単だった。
「ミモザさーん。もし死ぬ前に一つ、なんでも願いが叶うならどんなことをお願いします?」
「そうねぇ。私はやっぱり、家族が私の死を引きずりすぎないことね。みんなに惜しまれて亡くなるのはとても素敵なことよ。それだけみんなに愛されてたってことだから。けれど引きずりすぎてしまうのも申し訳ないわあ。少しだけ悲しんだらささっさと前を向いて、みんなには自分のことに集中して欲しいの。私のことは時々思い出すくらいでいいわあ」
 と、まぁこんなふうに、聞けばスラスラと話してくれたので、オレはなんなく彼女の願いを叶えて差し上げることにした。
 彼女の言う通り、ミモザさんは多くの親族に慕われていたため、多くの親族が彼女の葬式に出席して、彼女の死を盛大に惜しむ予定になっていたため、彼女の死後、葬式の時にちゃちょっと魔法をかけて、親族が前向きな気持ちになれるよう仕向けるだけですむ。簡単な願いだ。
 にしても死んだ後まで自分の周りの人に気を遣うとは。流石ミモザさん。
 こんな人だから皆に慕われ、惜しまれて死んでいくのだろうか。
 やはり最期は真心か。

5
 困ったのはイバラのばーさんだった。
 イバラさんのばーさんの前で死ぬ前に最期の願いがーなんて話をしようものなら、「アタシにさっさと死んで欲しいっていうのかい!」とブチギレてしまうため、願いを探るのが難しかった。
 リヴァイヴがそれとなく聞いても口を割ろうとしないし、話しかければ「そんなに暇なのかい」とか言い出す剣幕だ。
 それにしても老人というものはどうしてああも可愛くないのか。
 小さい頃、何かと老人は敬いましょう、大事に扱いましょう、年長者には従いましょうと言われてきたが、たかが先に産まれてきただけ、敬う義理はないし、なんなら俺の方が年上だったりする。
 それに老人は赤子などと違い、できることがどんどん少なくなっていくので歳を取れば取るほど手がかかる。それなのに赤子より態度が悪いとなれば皆面倒を見たがらないというのが事実だ。
 そんな中、面倒を見ていただいている身分なのだから、多少はお礼をいうとか、いうことを聞くとか、態度をよくするとかすればいいものの、イバラのばーさんにはそう言ったことが一切ない。ふんぞり帰って知らん顔。まるで王様だ。
「なぁ、あいつの願いは叶えなくてもいいんじゃねぇの」
「そういうわけにもいかないッスヨ。せっかく潜入中だし、叶えないと帰れないジャン」
 流石のリヴァイヴも、ばーさんには手を焼いているようだった。うんざりした顔でタバコをふかす。
 ちなみに久しぶりのタバコだ。タバコなんてばーさんの前で吸ったら「アタシを殺すつもりかい」と悪態をつかれる。
「それにしてもヴォルッチ、傷が増えたねえ」
 リヴァイヴはそう言って、俺の頬を撫でる。
 これはばーさんにつけられた傷だ。
 引っ掻き傷に物をぶつけられた打撲、掴まれてあざになったり、足をかけられこけて、擦りむいたところもある。
 俺たちがばーさんに怪我をさせれば、老人虐待とかで、即お縄だが、ばーさんたちが傷つける分にはお咎めなしだし、セクハラだってし放題だ。いくらなんでもこれは酷い。無法地帯にも程がある。
「こんなの、大丈夫だ」
 リヴァイヴの慈しみを突っぱねて、頬を祓う。
 と、レモンのいい香りが漂よう。
「なんだ?その匂い」
「ハンドクリーム。ミモザさんが作ったんで、お裾分けしてもらった。手荒れするでしょうからって」
「同じ婆さんで、こんなに違うもんかね」
 と、俺は心底呆れる。
「困ったもんだねぇ」
 リヴァイヴもため息をつく。
「ちょっと、乱暴な手段に出ようか……」
「乱暴な手段?」


 リヴァイヴの言う乱暴な手段というのは、2人でイバラのばーさんの夢見立つということだった。
「だからってこんな格好するか?普通」
 俺は呆れてリヴァイヴに聞く。
 というのも、2人とも黒いローブを深く被り、顔を見えなくしてでかい鎌を持っている。
 これではばーさんを驚かせてしまうだろう。
「死神が夢見に立って、お前の願いを叶えてやろうとか言ったら、迫力出るかなと思って」
「まぁ。迫力がありすぎて死ぬかもしれんが………」
 当初の目的とは違うが、うまくいきそうだ。
 早速、その夜、2人でばーさんの夢見に立った。
 ばーさんはスヤスヤと眠っている。
 寝ている時ばかりは静かだ。
「起きろ」
「なんだい、誰だい………ひっ、」
 この迫力に流石のばーさんも怖気付いたらしい。いつもの威勢が消え失せる。
「お前は後数日で死ぬことになっている。私は死神だ。最期にお前の願いを叶えてやろう」
 リヴァイヴはうやうやしく、声色まで作り、ばーさんの首に鎌をかざした。
「さあ、言え」
「……さ、最期の願いだって?そりゃあ、一族の安泰と繁栄だね」
「ほう?一族に見捨てられ、嫌われているお前が何を言う」
「簡単なことさ、年寄りは死にゆくものだよ。残ったもののことを願うのが1番だね。アタシはね、惜しまれてみんなに悲しまれて死ぬのは嫌なんだよ。だから、嫌われてる、今の現状は願ったり叶ったりなのさ。それに、アタシの子供の頃は姥捨山なんて文化があったんだよ。それが、3食食べれてベッドで寝れるところに捨てられたんだ、優しいもんじゃないか。それにね、相続だって、あの子達に取り合ってほしくないんだよ。アタシは争いが嫌いだからね。だからこのホームに寄付するのさ。だから、せめて、あの子たちの繁栄と安泰ぐらいは、願わせておくれよ」
 意外だった。ばーさんには、そんな魂胆があったのか。
「それにしてもアンタね!年寄りの寝床にいきなりやってきて、鎌を突きつけるとはいい度胸だね!年寄りは丁重に扱わないとバチが当たるよ!!」
 いや、ばーさんの威勢は、健在か。
「はははは、威勢のいいばーさんだ。よかろう。その願い承った」
 リヴァイヴと俺はそういうと、夜の闇に姿を消した。


 結局、イバラさんもミモザさんも相次いで亡くなった。
 ミモザさんの葬式は盛大に、イバラさんの葬式はこぢんまりと行われた。
 オレたちはそれぞれの親族に魔法をかけて、ホームを後にした。
 イバラさんの親族は最後まで見舞いには来なかった。イバラさんの想いを知ることはないだろう。
 人とはなんなのだろう。
 生まれて、生きて、老いて、死んでいく。その間に慕われたり、恨まれたり、愛されたり、憎まれたり……。誰かを羨んだり、誰かと比べたり。不思議な生き物だ。
 神はなぜ我々をお作りになったのか。
 作ったのなら何故、オレたちのような不老不死も作ったのか。
 答えは見つからないままだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?