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謝罪会見の裏側、「胸熱」ドラマを描く #01保坂祐希さん


「ほかほか文庫。」記念すべき第1回は、『大変、申し訳ありませんでした』と、続編『大変、大変、申し訳ありませんでした』(ともに、講談社タイガ)の著者・保坂祐希さんにインタビュー。これまで社会派ミステリの作品を多く手掛けてきた保坂さんですが、本作では「エンタメに振り切って書こう!」という決意のもと、謝罪会見の裏で繰り広げられる痛快×爽快な人間ドラマを描きました。どんなセンセーショナルな事件も、保坂さんの手にかかれば、笑って泣ける胸熱ヒューマンドラマに。その執筆秘話に迫ります――。


【あらすじ】
テレビで今日も流れる謝罪会見。
飛び交う罵声、瞬くフラッシュ、憤りとともに味わうすこしの爽快感
――でもそれでいいの?
冷徹冷血で報酬は法外、謝罪コンサルタント・山王丸の元で
新しく働くことになったのは、私!?
単なるお笑い好きの事務員がひょんなことから
覗き込むことになった「謝罪会見のリアル」は波乱とドラマに満ちていた!
感動の爽快エンターテインメント!   (講談社タイガ・あらすじより)


「許されない謝罪には一円の価値もない」


――物語の舞台は、謝罪コンサルタント会社。W不倫が発覚したお笑いタレントから闇カジノ通いを疑われる代議士まで、炎上案件を抱えた依頼人のために、世間の怒りを鎮める究極の謝罪会見シナリオを作成する会社です。まさに、不祥事を起こした人たちの駆け込み寺的存在ですが、この謝罪コンサルタント業という目の付け所からして、面白いですね。
保坂
 実は、講談社タイガの前編集長から「こういうの面白いと思わない?」と提案があったのが始まりなんです。そこから、過去の謝罪会見の記事やネットニュースを読んだりして、物語や登場人物の発想を広げていきました。
もともと、ネットで書かれていることや、メディアで報道されていることが、必ずしもすべてではないという想いがあったんです。たとえば、ネット上のニュースサイトなんかで「いいね」ボタンが反応しにくかったりすると、「もしかして、忖度が働いて『いいね』を押せないように操作されている!?」なんて、つい深読みしてしまったり……(笑)。見る人の立場によって、正義だったり悪だったりするという考えは、この作品の一つのテーマです。

――謝罪コンサルタント会社の所長・山王丸は、謝罪会見を演出する腕は折り紙付きながら、対価として法外な報酬を請求するという、まるで謝罪コンサル業界のブラックジャックのような人物。彼の「許されない謝罪には一円の価値もない」という言葉が印象的でした。
保坂
 実際の謝罪会見を見ていて、「この人は、なんでこんな言動をしてしまうんだろう?」って不思議に思うことはありませんか。いろんな人を巻き込んで謝罪会見を開いて、自分も覚悟を決めてカメラの前に出てきたはずなのに、これじゃあ意味がないな……って。そんな想いを込めて、本作のダークヒーロー・山王丸に「許されない謝罪には一円の価値もない」と言わせました。ダークヒーローには昔から憧れがあって、特に『黒いサカナ』(ポプラ社)に出てくる元総会屋・沢木が、私の理想なんです(笑)。


あの強烈社長のモデルは古田新太さん!?


――「謝罪会見」という少々スキャンダラスな題材を扱いながら、一方で読後感はとても爽やかですね。W不倫で大炎上中のお笑いタレントも、最後は見事な夫婦漫才会見で大団円に。この読後の清涼感には、ヒロイン・光希の性格も一役買っているように思います。突然、山王丸のもとで働くことを命じられ、訳も分からず謝罪会見を取り仕切ることになった光希。慣れないながらも、依頼人に真正面から向き合い、奮闘する姿には、つい目頭が熱くなりました。
保坂
 女性を主人公にするときに、素直でまっすぐな若い女の子を書くことが多いんです。朝ドラ好きなのもあって、そういう女の子を物語の中心に据えたくなるんですよね。私自身がもうそんなに純粋ではないので(笑)、書いていて、ちょっとウザいかな、と思うこともありますが。今回は、他の登場人物に少しひねくれた、キャラの濃い人たちが多いので、光希の純粋さが特に際立ったのだと思います。最初と最後で主人公の成長があったほうが、読者の方も楽しんでくださるのではないかな、という思いもありました。

――光希は、お仕事小説の熱血主人公でありながら、一方で、依頼人の起こした事件の真相に迫る探偵役も担っていますよね。
保坂 コメディにしても、ミステリーにしても、誰かが物語の狂言回しをしないといけなくて、今回は光希がその役割になりますね。光希に狂言回しをさせながらも、その着地点が読者の方の想像より少しだけ斜め上にあることを願って書いています。

――先ほど「少しひねくれた、キャラの濃い人たちが多い」というお話がありましたが、書いていて筆がノッた人物はいましたか。
保坂
 荒田社長という"なにわの商人"感満載のキャラクターがいるんですが、彼の大阪弁はノリノリで書きました。特にお気に入りは、荒田社長が山王丸にコンサル料のディスカウントを拒否された時のセリフ、「ケチ! ドケチ! なんやねん、こない高い買いもんやのに値引きなしって!」でしょうか。生まれは違うんですが、今、大阪に住んでいて。やっぱりコテコテの大阪弁ってそれだけで面白いです。作品を書き始める前に、キャラクターの一覧表をつくったりもするんですが、その時に自分のなかで俳優さんを当てるというのは、実はよくやります。「あの俳優さんが、クールな顔して『俺かっこいい』って言ってたら面白いだろうな」って想像したりすると、キャラが勝手に動き出して、自然と早く書けるんですよね。荒田社長も、俳優の古田新太さんをモデルにして考えました。過去にシナリオ教室に通っていたことがあって、短期間とはいえ、もしかするとその経験が活きているのかもしれません。

幻の第1話がありまして……


――キャラクターの一覧表しかり、原稿を書き始める前にしっかり内容を練るタイプですか?
保坂
 時系列をまとめたりしてから、原稿を書き始めますね。途中で何か良い発想が浮かぶということもあるかもしれないんですけど、まずは最初に考えた筋書きの通りに進めるタイプなんです。進行自体はプロット(構成)段階で練るので、着地点が大きく変わることはあまりありません。
とは言ったものの、シリーズ2巻目『大変、大変、申し訳ありませんでした』は大改編に次ぐ大改編で(笑)。1話目の「優しいロボット」は、元々まったく別のエピソードだったのですが、編集さんと「実際にあった事件と似すぎて、生々しいのではないか」というお話になり、当初書いていたものをお蔵入りにしました。やはり、読者のみなさんの記憶に強く残っている事件は、作品では描きづらかったですね。
物語の後半にクライマックスをつくりたかったので、章の前後を入れ替えたりもしました。ただ、こうした連作短編小説って、物語の本筋とは別のサブストーリーがよくありますよね。2巻目では、山王丸の母親にまつわる謎が徐々に明かされていくというサブストーリーがあったんですが、章の前後を入れ替えたことで、この一連の流れも修正することになってしまい……。大変でしたが、やり直したことで上手くつながる箇所もあったので、結果的には良かったと思います。

次作のヒロインは75歳!?


――次作はどんな作品になりそうですか。
保坂 実は今、新しい分野にチャレンジしているんです。ヒロインが、自分史上最高齢の75歳! もちろん、ヒロインの年齢相応の重いテーマは入ってくるんですが、あくまでエンタメ作品として書きたいと思っています。75歳の誕生日を迎え、後期高齢者となった独り暮らしの母親(ヒロイン)の元に、大学入学と同時に、「死ね! クソババア!」と怒鳴って出て行って以来、ずっと疎遠だった息子が55歳になって離婚を決め、出戻ってくるという物語です。笑いあり、涙ありのヒューマンドラマ……になっているといいな、と思っています。

――設定を聞いただけで、思わず笑ってしまいました。エンタメ街道まっしぐらですね。
保坂 
文章をサラッと書きたいという想いがあって、文字よりも映像が浮かんでくる作品、エンターテインメント寄りの作品のほうが自分に合うんですよね。もともと地の文が多いタイプなんですけど、エンターテインメントに振り切った作品を書こうと決意してからは、登場人物同士の会話を増やすことを意識しています。ついつい説明したくなる気持ちを抑えて、テンポよく読者さんを惹き込んでいける作品にしようと取り組んでいます。後期高齢者の方にも、きっと楽しんでいただける作品です。ご期待ください!

――本日は、インタビューの機会をいただき、ありがとうございました。私も謝罪会見を開くことのないように、これからの社会人生活を頑張ります。何か事件を起こしてしまったときは、私もぜひ山王丸先生に助けていただきたいです……(笑)。


【著者紹介】
2018年、自動車業界の闇を描いた『リコール』(ポプラ文庫)でデビュー。大手自動車会社グループでの勤務経験を活かし、エンターテインメント企業小説を多く手掛け、リアリティのある世界観と諧謔かいぎゃく的な作風で人気を博している。他の著書に『黒いサカナ』(ポプラ社)や、最新作『人斬り美沙の人事査定帳』 (実業之日本社文庫)がある。


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