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『透明な夜の香り』(千早茜/著)をオススメ!

今回の担当者:よっしー
お酒より甘味派、特に抹茶スイーツが好物。
家ではベッドに寝転がって本を読んだり、お風呂でのぼせるまでYouTubeをみたりとのんびり過ごしがちだが、仕事はきっちり早めに進めておきたいタイプ。
ミステリ、ファンタジー、アツいスポーツもの、心温まるヒューマンドラマなどの作品が好み。
幼いころから図書館っ子で大学時代は書店アルバイト、そして文庫の販売担当になった筋金入りの本好き人間。

作品制作・写真/金沢和寛

 香りで記憶が鮮やかによみがえる、という経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。私も、汗拭きシートのさわやかな香りで高校時代の夏休み中の部活帰りを思い出したり、ふとすれ違った人の柔軟剤の香りが実家と同じで懐かしい気持ちになったり……香りは、意識していないところで記憶や感情と結びついていると感じます。
 この現象について調べてみると、「プルースト効果」という名前がついており、科学的に説明されていました。嗅覚は五感の中で唯一、脳で感情を司る部位に直接つながっており、情動と関連付けしやすくなっているという仕組みだそうです。
 今回ご紹介するのは、このような経験が思い浮かぶ、「香り」がテーマの小説です。

 元書店員の若宮一香が、調香師の小川朔が暮らす古い洋館の家事手伝いのアルバイトを始めるところから物語がスタートします。一風変わった暮らしをする朔は、並外れた嗅覚を持ち、どんな香りでも作り出せる。そんな彼のもとには香りを作ってほしい客が次々訪れます。有名なモデルから刑事まで、彼の顧客はさまざま。作るのは身にまとう香水に限らず、ある人の匂いを作ってほしいという依頼も。客の持ち込む依頼から、その香りにまつわる物語が展開していきます。
 香りに狂わされる人や、嗅覚が敏感すぎる朔の人生を知っていくうちに、人間は生きていく上で香りと無縁でいることはできないのだと感じます。そして香りは脳に直接届いて永遠に記憶される。一度記憶されると一生逃れることはできないということで、香りというものが少し恐ろしくも思えてくるのです。

 いろいろな香りが登場して、読みながら香りが実際に立ち上ってくるように感じる物語です。多様な香りだけでなく、ほんのりミステリーの薫りも、ときどき恋愛小説の薫りも感じるような魅力的な1冊だと思っています。
 香水やお香など、普段から香りが好きな人はもちろん、そうでない人もこの小説を読んだあとは香りの世界の余韻にうっとり浸ってしまうこと間違いなし。ぜひお手にとっていただきたいと思います。

本の詳しい内容はこちらから→『透明な夜の香り』

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