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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った

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5月21日に集英社文庫から岩井三四二さんの『鶴は戦火の空を舞った』が発売されました。 近代を舞台にした歴史時代小説の新地平! この日本の戦闘機パイロットの最初期を描いた、胸が熱く…
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2024年4月の記事一覧

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第一章 2/岩井三四二

(第一章 死と隣り合わせの任務 ) 二  翌朝、英彦は所沢の飛行場にほど近い借家で目覚めると、布団の上で腹筋運動をはじめた。朝と寝る前の日課である。  百回を終えたところで腕立て伏せにうつり、五十回をこなしてから、片手腕立て伏せを左右それぞれ十回ずつ。朝の仕度にかかるのはそれが終わってからだ。  新婚当時、妻の亜希子から、 「どうしてそんなに熱心に体を鍛えるの」  と訊かれたものだが、 「なにごとも常に向上するようつとめるのは、軍人として当たり前のことだからな」  と答

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第一章 1/岩井三四二

第一章 死と隣り合わせの任務 一  埼玉県の所沢には、陸軍が造った“日本初”の飛行場がある。  もともと芋畑だった二十三万坪の敷地の中に幅五十メートル、長さ四百メートルほどの滑走路をそなえ、三階建ての気象観測所や格納庫、兵舎なども設けられている。  ここには五機の飛行機がおいてあるが、そのうちの一機、アンリ・ファルマン式飛行機がいま、滑走路に引き出されていた。 「やっぱり凧のお化けとしか思えねえな」  陸軍“初”の操縦訓練生である錦織英彦工兵中尉は、いまだにそういう感想