【クリエイターインタビュー】推理アドベンチャー『都市伝説解体センター』の魅力を語る!
1時間ほどのプレイで本格的ミステリーを楽しめるゲーム『和階堂真の事件簿』シリーズ。スマホゲームとしての絶妙なボリュームと読後感を提供する“新ジャンル”とも呼べる推理アドベンチャーだ。
そのシリーズを制作したのが、クリエイターチーム「墓場文庫」の皆さん。そして、彼らをサポートするが集英社ゲームクリエイターズCAMPのプロデューサー、林真理氏だ。
今回は墓場文庫から、企画・グラフィックス担当のハフハフ・おでーんさん、メインプログラマーのMOCHIKINさん、メインシナリオ担当のきっきゃわーさん、BGM担当のあだPさんが集合。
集英社ゲームクリエイターズCAMPの林さんと共に、新プロジェクトである『都市伝説解体センター』についてガッツリと語っていただきます!
――今回、墓場文庫がテーマに選んだのは都市伝説。これ、和階堂真の事件簿シリーズのような“本格ミステリー”とは違い、好き嫌いがはっきりしそうなテーマですけど?
ハフハフ・おでーん
ボクとMOCHIKINさんの大好物なんです。怪談もオカルトも大好き。ただ、このテーマに行き着くまでには紆余曲折がありました。
――どんな紆余曲折が?
ハフハフ・おでーん
もともとは和階堂真の世界観を広げたミステリーを考えていました。そこから、メンバーでの企画千本ノック的なことが始まり、「次は純粋に感動モノやろ!」となったところで、林さんに相談しました。
そうしたら林さんは「いやー。和階堂真でさんざんアクロバティックな殺人事件を作ったチームが感動ですかー。もっとジャンクフードみたいなの食わせてよー」と。
MOCHIKIN
うん。棒読みで舌打ちされました(笑)。
林真理
捏造だよッ! いやいや(笑)。でも、和階堂真の持っている怪しい雰囲気をもっと押し出せないかなと考えたんです。もともと、このチームはミステリーの知識があって精通しています。なので約1時間で楽しめる和階堂真シリーズは、ミステリー好きが唸るポイントをしっかり抑えつつ、ボリュームを出すことができた。
企画千本ノックには、感動モノやファンタジーっぽいのもありましたが、このチームには魔法や伝説の剣ってイメージはなかったんですよ。
MOCHIKIN
この魔法って部分で林さんに舌打ちされました(笑)。
林真理
だから捏造だって(笑)。ファンタジーより、もっと現実に寄り添った話を、このチームなら書けるんじゃないかと思ったんです。で、企画書の中で目にとまったのが都市伝説解体センターなんです。
都市伝説は、ミステリーとファンタジーが寄り添う場所じゃないかと思ったんですよね。
ハフハフ・おでーん
この都市伝説解体センターの原案を出したのが、きっきゃわーさんです。
きっきゃわー
都市伝説って、知ってる人はものすごく深掘りしてるけど、そもそも都市伝説って何? という人も大勢います。そういった人たちにも楽しんでほしく、有名どころの都市伝説は入れたいと思っています。
逆に軽く都市伝説に触ると、“都市伝説警察”から突っ込みが入りますので、警察官たちが「ふーん。そこ使うんだ」と感じてくれるようにバランス良くまとめたいですね。
――そもそも都市伝説警察ってなんですか?
きっきゃわー
そこのふたりです(笑)。おでーんさんとMOCHIKINさん。
私は小さい時に『X-ファイル』を見たぐらいで、都市伝説警察の取り締まられる側の浅い知識しかないという半端な立ち位置です(笑)。
なので、都市伝説警察のおでーんさんと、都市伝説警察兼ミステリー警察のMOCHIKINさんから、いろいろ知識を注入されている最中です。
――あだPさんは取り締まる側なんですか?
あだP
ボクも薄っすらと都市伝説を知っているというレベルなので、きっきゃわーさんと同じ取り調べられる側です。
なので、オカルト辞典を購入して勉強しています(笑)。
――では、都市伝説警察側のおふたりはどうなんでしょうか?
MOCHIKIN
ボクらの世代は怪談が人気でした。それこそ民間伝承や妖怪が絡んでくるミステリーはいっぱいあり、都市伝説解体センターは“それの現代版にできるのでは?”というイメージはあります。
ハフハフ・おでーん
ボクも小学生のときに、テレビで『怪奇特集!!あなたの知らない世界』を見て、口裂け女や人面魚がブームになった世代。あとノストラダムスの大予言も、もろ直撃(笑)。
――ゲーム内では都市伝説をどのように料理するつもりで?
ハフハフ・おでーん
都市伝説警察が取り締まりを行なうことはないです(笑)。発生した都市伝説を探求して、解体する。都市伝説を掘って、そこに他のストーリーがリンクしてくるようなイメージ。
このチームなりの都市伝説に対するひとつの解答が出せればいいなと思ってます。
――林さん的にはどのような方向性のゲームに育てたいのですか?
林真理
まずは、このチームのやりたいことを全部入れる。やりきってもらうのが一番かな。みんなそれぞれ個性があって、おもしろい人たちなんで、それを全部詰め込んでもらう。
――一方、最近のテレビでは、“不安を抱かせるのはよろしくない!”という理由で、都市伝説系の番組が消滅ぎみ。これは、どう思いますか?
MOCHIKIN
めっちゃ、寂しい。でも、都市伝説はYouTubeに移行しているんで、ボク的にはそっちで楽しんでます。
あだP
YouTube、布教されました。「これぐらいはチェックしておいたほうがいいよ」って(笑)。
きっきゃわー
でも、最近は子供の時に見てたような心霊番組がないのは寂しいかなって。どうしても怪しい画像はすぐ解析しちゃって、ザ・心霊写真という内容のがない。これは、もったいない(笑)。
ハフハフ・おでーん
今、誰でもスマホで画像を加工できるじゃないですか。なので、心霊写真が撮りやすくなった。陰謀論だと政治的になってテレビだと取り上げにくいから。
きっきゃわー
私の知り合いに住職さんがいて、昔はテレビ局の人がいっぱい写真を持ってきて「これ心霊写真なのか鑑定してください!」と。そういうバイトをしていたそうです(笑)。
――きっきゃわーさん、それバラしたらダメなやつ! でも、解体センターのネタになりそうかも!?
あだP
昔、テレビで活躍した住職の織田無道さんは、オカルト辞典に載ってましたよ。
MOCHIKIN
ボクらがリアルタイムで織田無道さんを見てた時代って、まだ織田無道さんが都市伝説化してないんです。でも、四半世紀経ってオカルト辞典に掲載されるほど、都市伝説化されている。そういう部分がおもしろいなと。
例えば、今ネットで発信されている都市伝説も10年、20年経ったら“オカルト辞典2050年版”に掲載されるのかなと考えると、これって妖怪や民間伝承と同じ広がり方なんですよね。
ハフハフ・おでーん
これまでは言葉で伝わってきたのが、現代ではSNSから尾ひれ背びれがついて拡散される。その、尾ひれ背びれのつくスピードが速く、さらにリアリティのないものはすぐ排除されている感覚がするんですよ。
こういった部分の“正体”をゲームでも掘り下げたいと思ってます。
――それこそ昔って、学年や町内会によって怪談や都市伝説のバリエーションがありましたよね。「戦時中に防空壕があって、ここである悲劇が……」みたいな?
ハフハフ・おでーん
そういったバリエーションがどうして生まれたのか? これがミステリーポイントになってくるのではと思っています。
――例えば、都市伝説にまったく興味のない人もいますけど、彼らでも楽しめる内容なんでしょうか?
林真理
はい。都市伝説のゲームというより、正しくは“都市伝説を入り口にした”ミステリーアドベンチャーゲームです。
ミステリーが好きで、特に和階堂を楽しんだユーザーは満足できる内容にしたい。都市伝説はきっかけで、このチームが作り上げたミステリー路線はブレません。
――グラフィックはどうでしょうか? 和階堂シリーズでは2色のドット絵が印象的で、それが作品の世界観を上手く作り上げていましたよね。
林真理
今回は色数が増えていますし、主人公のカット絵も入るようにし、アドベンチャーゲームそのものとしても成長しています。
――実際にゲームを進行すると、都市伝説そのものを理解できるような部分は?
林真理
そういった要素も入れたいと考えています。ストーリー本編とは別に、都市伝説を解説するようなイメージですね。
MOCHIKIN
その都市伝説を解説するようなキャラクターを作りました。名前はトシカイくんです。
きっきゃわー
なんか地方自治体のゆるきゃらとか、昔のJリーグのマスコットにいそう(笑)。
林真理
でも、こういった部分がこのチームの上手いところなんです。こう、地方自治体のスタッフがTシャツにプリントして着てそうなキャラじゃないですか(笑)。
ちゃんと現実にありそうなモノを、ゲームに詰め込める。だから、ミステリー的にも深みがでるんですよ。
MOCHIKIN
マンションのポストに、トシカイくんのマグネットシールが入れられて「都市伝説でお困りの際はすぐ電話!」とやってるイメージです。
きっきゃわー
それ一番、あやしいやつじゃないですか(笑)。
林真理
でも、それゲームのグッズとしてアリですよ。電話番号は、おでーんさんのリアル番号を載せておけば良いワケだし。
ハフハフ・おでーん
ぜんぜん良くないです(笑)。
林真理
でも、この前CAMPのメンバーと話してたら、「都市伝説解体センターのプロモーションは、林さんが失踪するのが一番でしょ」って(笑)。
きっきゃわー
それ、いいなー(笑)。ちゃんと予告もしてください。
MOCHIKIN
スタッフが林さんの家を訪問したら、表札の「木」が一本増えて「森」になってるとか(笑)。
林真理
では、ボクの「失踪プロモーション」のシナリオもお願いします。
ハフハフ・おでーん
仕事、増えてるじゃないですか!
林真理
とりあえず現在は開発の序盤なんで、こうしてアイデアを出し合ってる状態ですね。
ハフハフ・おでーん
ボクらのチームだけだとコアな部分に寄りすぎて、ユーザーに届かない部分が出てくることもあります。それをちゃんと林さんが客観的にジャッジしてくれる。
一方でボクらが日和ってたら、「墓場は、そこまでやんなくていいでしょ!」とバランスを重視してくれます。
林真理
ええ、ちゃんと仕事してますよ。
ハフハフ・おでーん
このチームは、良くも悪くも内輪ウケに行きがち。それだとアイデアが固まりすぎて良くないんですよね。
林真理
このチームとはミーティングする機会が多く、冗談を言い合える仲にはなっていますよね。多少、厳しいことを言っても許してもらえる関係性です。
――で、重要なのは都市伝説解体センターのリリース時期。これは?
林真理
目標としては2023年。直近の作業としてはシナリオをしっかり決める。ミステリーなので突っ込みどころが多いと、プレイヤーは冷めてしまう。そうならないよう、慎重に作業を進めています。
――シナリオを担当するきっきゃわーさん。都市伝説をシナリオへ落とし込む楽しみとは?
きっきゃわー
例えば「口裂け女」という都市伝説があったら、それがどう世の中に広まったのか? その拡散の過程を調べるのが一番おもしろいですね。
それを分解して並び替えて、どうストーリーに落とし込むか? 都市伝説をどのようにしてプレイヤーに理解させるのか? 作業的にはおもしろいけど、都市伝説そのものを多く仕入れる必要があり、意外と用意することがいっぱいです。ただ、幸いうちには都市伝説警察がいますんで、心強いです!
――では都市伝説警察のお気に入りのネタは?
ハフハフ・おでーん
コトリバコ。これ国産の初期のネット怪談なんです。ネット怪談は現在、人気のマンガやアニメにも取り入れられることが多く、影響力を持ってきたなと。
そして、コトリバコはネットでまとめをチラ見しただけじゃわからない細かい設定が水面下で張り巡らされ、それを深掘りするのがおもしろい。
――確かに! コトリバコはミステリー要素もありつつ、都市伝説好きの“あるある”が満載ですね。MOCHIKINさんは?
MOCHIKIN
一般ウケする王道路線より、歴史的な偉人をテーマしたような内容が好みです。なかでもお気に入りは「松尾芭蕉服部半蔵説」。服部半蔵が忍者を引退して松尾芭蕉になったという。歴史とリンクしてて、それを調べてみると「あるかも!」と思える話がおもしろいですね。
ハフハフ・おでーん
MOCHIKINさんと言ったら、日ユ同祖論ですよね。
MOCHIKIN
都市伝説というか、真実です。日本人とユダヤ人の先祖が同じという内容の実話です。
――ここを掘りすぎると、都市伝説警察の取り締まりが始まりそうなので、あだPさんのお気に入り、お願いします!
あだP
最近のネタが好きで、「AIが人類を支配している」というやつです。実はワクチン接種からマイクロチップを体内に埋め込み、全人類の知識がサーバーにアップロードされ、それを全部AIが管理していると。
さらにアメリカはAIだけに効果がある“電子爆弾”を開発中という、すべて本当の話です。
MOCHIKIN
それ、間違いないですよ。
――そこ、かぶせないで! では、きっきゃわーさんは?
きっきゃわー
海外で有名なスレンダーマン。細身の宇宙人みたいな外観で、彼に出会うと呼吸が止まったり、鼻血が噴き出たり不幸になると。海外でスレンダーマンのゲームの実況が流行ってたんですよ。これ見て「あ、海外でもこうして都市伝説が拡散してくんやな」と、リアルタイムで尾ひれ背びれが追加される様子が良くわかりました。
ネット発信から、世界的に尾ひれ背びれがつくという、とても身近な存在なんだと実感できましたね。あと、スレンダーマンはB級映画にもなったりして、その盛り上がりがヤバくてオススメです(笑)。
――林さんは、どうでしょうか?
林真理
ネッシーやツチノコといったUMA。オールドスクールなネタですけど、低解像度の画像を凝視して「本物……かな?」とワクワクするのが好き。
こういった昔からあるUMAってワクワク感が高い一方で、人を傷つけたり不安を抱かせることがない。実は、時代にマッチした最も先進的な都市伝説なのかもしれませんね。
それが長年、愛されている理由でしょう。
ハフハフ・おでーん
UMAだとチュパカブラとかも有名ですよね。
MOCHIKIN
これは米軍、もしくはソ連軍から脱走した実験生物という説もあります。
――チュパカブラは人の血を吸うし、不安しか与えない系ですから! では最後に、都市伝説解体センターに対する意気込みをお願いします!
林真理
米軍やソ連軍は出てきません(笑)。ただ、墓場文庫は空想と現実の間にミステリーを加えるのが、上手いチームです。集英社ゲームズが開発資金を提供し、ボクはチームとの相談、そして宣伝プロモーションを担当します。細かいことはこれからですが、和階堂からスケールアップした内容になるのは間違いありません!
ハフハフ・おでーん
スケール感に関しては和階堂シリーズ3部作よりも大きいです。フルスイング、全力投球で挑みたいですね。
MOCHIKIN
それ大変そうだなー。みんな、頑張ってね。
墓場文庫一同
他人事か!! それ、中の人の発言じゃないでしょ!
きっきゃわー
今の作業的にはみんなでシナリオを煮詰めている状態です。まだプレッシャーを感じるより、楽しんで作業している感じです。
負担の大きい作業は最終的に、おでーんさんがすべて請け負ってくれますから。
あだP
そうですね。ボクの担当するサウンド作業はおでーんさんの描いたキャラクターを見てからが本格スタート。なのである意味、おでーんさんがしっかりしていれば安心です。
――メンバーたちの期待を全受けする、おでーんさんは?
ハフハフ・おでーん
プロデューサーの林さんがいるので安心です! なのでスケール感がアップしたプレッシャーはありません!!
林真理
最後、ボクに振られるんだ! まだ制作速度のギアで言ったら1速。ここから完成までずーっと6速で試行錯誤を繰り返していくと思います。それをボクがどうこう言わずにもやれるチームなので、今後は放置しててもいいかなと(笑)。
墓場文庫一同
見捨てないでください!
林真理
都市伝説解体センターの制作で強く意識してほしいのは、1時間でしっかり遊べて読後感も良し!ってこと。都市伝説警察から都市伝説に興味がない人でも楽しめ、ミステリー好きが満足できるストーリーがある。誰でも楽しめるミステリーアドベンチャーという和階堂で完成されたコンセプトは絶対にブレません。
ただ、これはボクから言うまでもなく、チーム全員が一番わかっていることですからね。ボクはおもしろいプロモーションを考えてたいですね(笑)。
――了解しました。墓場文庫メンバーの皆さん、プロデューサーの林さんの「失踪プロモーション」のシナリオ制作もよろしくお願いします!
墓場文庫一同
はい。とりあえず「森」の表札を作っておきます!