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ブルーベリーに網をかける

夏至が近づくと、しらべ荘の庭のブルーベリーが実をふくらませてくる。

何も世話してやってないのに、毎夏、次々と熟し続けて甘酸っぱいその味を楽しませてくれる。客があるときの収穫イベントにも活躍する。

もともとは30年前にしらべ荘を立てた頃、義祖父母や伯父、知人などに出資を募って苗木を贖い、収穫した実を送っていた。時は流れオーナーたちはみな鬼籍に入ってしまったが、木は元気に実をつけ続けている。

移住した今年の春は世話をしてやることができる。感謝をこめ、半日かけて古木たちの手入れをした。雑草や侵入著しいヤマブキを取り去り、木に巻きついたつる植物をすべて駆除した。倒れそうな木には添え木し、根元にブロックを置いて支えた。実際、よくこんな環境で雑草に埋まりながら実をつけ続けたものである。

地面を整備して2週間後、肥料をやることにした。ブルーベリーは酸性の土壌を好むそうで、畑に入れる普通の肥料や鶏糞などは使えない。専用の肥料はとても高かったが長年の感謝も込めて今年は大盤振る舞いした。

木たちも5月には白い花をいっぱいにつけてそれに応えた。

さていよいよ実が生って大きくなり、網をかける時期となった。しらべ荘のまわりの森には小鳥たちのさえずりがかまびすかしい。油断していると、ある朝、熟れた実だけがすっかり小鳥に取られてしまう。もっとも木としては人間よりも小鳥に食べられて種を運んでもらうために実をつけているのだから網は迷惑といったところである。

さて網掛け作業はブルーベリー園への道の確保から始まる。今年は庭全体が白い花の林になるほどハルジオンがはびこった。スギナをはじめとするその他雑草もまけじと陣地を競う。去年それらと戦った妻が今年はフルタイムの仕事に就いて戦線離脱したため人間は一方的に負けている。ボクの外作業は家の手入れや普請など、することが多すぎて草刈りまで手が回らないのである。

地味に道をふさいでいるのはヨモギである。ヨモギと聞くと団子を作るおばあちゃんが土手にしゃがんで摘んでいる牧歌的なイメージがあるかと思われるが放置すればご覧のように子どもの背丈を超えるほどのブッシュとなる。

道ができたところで、母93歳を居間から引きずり出し、支えながら連れて来て手伝わせる。たいした戦力にはならないがこうして何かをさせることが重要である。つい数年前まで恐ろしいほど多趣味を持ちながら、新たに「ピアノを習う」と言って、別荘地に先生を見つけて通い始めた母はもうどこにもいない。ほとんど無気力で何もしなくなってしまった。なかなかそのギャップについていけない。庭の手入ればかりは、誘えばこうして手伝いに出てくることがある。

8本ほどある木に網を施し終えた。半分は母が紐をつけた。

母をベランダに戻し、ブルーベリーの下の雑草を引く。ボクも腰が良くないのでしゃがんでの作業は続かない。ぺたんと地面に体育座りして、腕で移動しながら作業する。ひこばえは取った方がいいのかどうか知らないが、花をつけているものはみな残している。弱った枝はたわんで地面につきそうになっているので、スズランテープで太い枝に添わせる。地面近くの枝はつる植物に狙われる。つるは弱った枝にからみついて伸び、やがて本体を締め付ける。

ブルーベリー園の回りの草をネコに山盛り4杯も引いたのに遠目には草の海のなかに網が見えるほどである。さて、今年はどれほどの実が穫れるだろう。30年の古木である。ブルーベリーの木の寿命はいったいいかほどなのだろうか。夏至とはいいながら、しらべ荘の庭は直射日光にあたらなければ涼しい。朝などは寒くてストーブを焚く日もある。


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