マガジンのカバー画像

いつかの日記

11
人生で出会った男の話
運営しているクリエイター

2019年9月の記事一覧

いちばん素敵なデートの話

人生とは不思議なもので、わたしは中学も卒業して何年か経ってから、S先輩の元彼と一度だけデートしたことがある。 その元彼・亮さんとは本当にたまたま偶然知り合ったのだが、これまた偶然その日はわたしの誕生日だったので、別れ際に連絡先を書いた紙とメルティーキスが入ったコンビニの袋をプレゼントにもらった。「ちゃんと教えてくれたら、もっといいの用意したのに」と言って冗談ぽく笑った。亮さんはやっぱり想像していた通りの美男子だった。いかにも、きれい、という顔立ちで、インタビューを受けている

いちばんになりたかった男の子の話

木田くんと付き合うことにしたのは、その時付き合っていたちゃらんぽらんな男の子に疲弊していて、木田くんのほうが優しそうに見えたから。そして木田くんはわたしのことが好き風だったから。彼氏と別れたと言うと、待っていたかのように木田くんは「じゃあ俺と付き合おう」と言った。わたしはいいよと答えた。木田くんは念願叶ったりという顔をしていた。わたしはこれで心の安寧が手に入ると思っていた。 木田くんと付き合うことになって、わたしはたしかに理想を得た。デートをドタキャンしたりしなくて、他の女

存在の輪郭だけを覚えている男の子の話

彼のことはもう顔もうまく思い出せない。 そのころわたしはギターを弾いていた。予約していたスタジオに入ると、前にそこを使っていた男の子が出てきて、わたしと入れ違いになる。わたしが挨拶すると、男の子も挨拶した。背が高くて、ひょろりとした、たぶん同い年くらいの男の子だった。男の子もギターケースを背負っていた。 わたしは扉を閉める。チューニングをする。ポーン……。ポーン……。音をたしかめていると、急にガチャリと扉が開いた。驚いて見るとさっきの男の子が立っていた。「あの、これ」男