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J1第34節 FC東京対川崎フロンターレ データレビュー

ついにやってきた2022シーズン最終節は多摩川クラシコ。川崎は一時優勝の夢が消えかけたがマリノスの連敗もあり最終節まで望みを繋ぐことができた。優勝のためにはマリノスの敗戦が必要だが、それ以前にまず多摩川クラシコを勝利したい。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~両チームの改善点~

ソンリョンの退場もあり東京がボールを握る時間の長かった前半。しかしEPPを見ると東京が13.9なのに対し川崎が15.8と若干上回っている。ソンリョンの退場以前は川崎の方が効果的にパスを繋げていた。パスヒートマップを見ると東京の方がライン間に多くのパスが入っているが、その多くは後ろ向きだったためポイントが高く付かなかった。しっかり川崎DF陣が対応できていた証拠でもある。ではなぜ東京が一人少ない川崎相手に効果的な攻撃ができなかったのか見ていく。

・数的優位を活かせなかった東京

東京のEPPは川崎を下回っていたが、しかもそのほとんどはソンリョン退場前に稼いだもの。つまり一人多くなってからはむしろ効果的にパスを回せなくなった。それはもちろん川崎が守備に振り切ったことも要因の一つではあるが、東京が上手く数的優位を活かす攻撃をできていなかったことも大きい。

東京は37分40秒や38分のように裏へのロングボールを蹴ってくる攻撃があった。しかしこの攻撃は結局裏に走る選手とそれに対応する選手の一対一になるため数的優位は関係ない。また44分55秒の長友のアーリークロスに対しても川崎守備陣は数的優位で対応できている。このようにボールが長く空中にある攻撃は数的優位を捨てる攻撃になってしまう。川崎としてはこのような攻撃は助かった。

では川崎はどう攻撃されたら嫌だったのか。それは左右に振られ続けることだ。左右に振られ続けるとスライドがどこかで間に合わなくなりライン間に楔を刺されてしまう。それを繰り返されると今度はサイドが空いてきて質の良いクロスをゴールに近い位置から上げられてしまう。

この41分35秒ではブロックの外で左右に振られた結果木本がフリーでボールを持つことができた。その木本にシミッチがプレッシャーをかけたため渡邊への楔のパスコースが生まれルイスフェリペへと繋がってしまった。

このように川崎も守備ブロックは4+4でコンパクトなため普通にやってもなかなか崩れず、数的優位が生まれるのは1トップ周辺でつまり守備ブロックの前だ。ここで永遠と回され続けて守備ブロックをコンパクトに保てないような攻撃をされると厳しかったが、東京はそこが足りなかった。

・川崎良い内容の中での改善点

ソンリョン退場までの川崎のパフォーマンスは良かった。東京のボール保持に対してミドルゾーンで構えたところからプレッシャーをかけて奪うシーンが多く、敵陣でのボール回しも同サイドに固執しすぎずテンポの良いパス回しができていた。その中で気になった点を保持と被保持から一つずつ紹介。

まずは保持の場面。川崎が低い位置からビルドアップをする展開はあまりなかったが、序盤に三回ほど左サイドでハマってしまうシーンがあった。例えば2分のシーンで谷口からボールを受けたノボリは中からプレスしてくる渡邊に正対せず、体を渡邊から逃げる向きにしてしまった。この体の向きではもう右サイドに戻せないし、東京DFもパスの出し先を予想できてしまう。2分55秒のように正対できれば左右どちらにもパスを出すことができる。

次にボール被保持。これは今シーズンのはじめからずっと言ってることではあるが、CFがCBにプレスをかけるなら相手アンカーへのパスコースはしっかり切らないといけないし、そのときのWGは相手SBをケアしないといけない。この9分20秒では悠が東へのパスコースを切らないまま木本にプレス。そしてマルシーニョも中村を捨てて木本にプレスしたため、東を経由して中村へ出されてしまった。ここに出されると川崎はIHかSBがつり出されて一つずつズレてしまう。結局最後まで改善されなかったのは残念だ。

2.後半~我らが鬼木監督~

後半は完全にワンサイドゲームで東京が川崎陣地でボールを回す展開。EPPやPPSはあまり当てにならないが、パスヒートマップを見ると東京は前半よりもファジーゾーンへのパスの割合が多い。後述するがしっかり左右に振れていた証拠でもある。そして川崎はバイタルエリアと裏へのパスが多く、これはカウンターでマルシーニョや家長が受けることが多かったためだ。

前半はロングボールやアーリークロスが多く左右に振れず数的優位を活かせなかった東京だが、後半は左右に振る攻撃が増えた。特に50分から55分までの間は川崎の守備ブロックが何度も左右に振れてしまいコンパクトさを保てなくなり楔のパスを入れられてしまうことが増えた。それが決定機に繋がったシーンが52分30秒だ。

こうして押し込まれ続け2失点目は時間の問題かと思われたところで川崎の鬼木監督は大島と知念を入れて知念とマルシーニョの2トップで432で守る形に変更。そして前からプレスをかけることにする。そして60分に橘田がボールを奪いマルシーニョがゴール。鬼木監督の采配がズバリ的中した。

川崎はその後も432で守る形を継続。すると東京は川崎の中盤3枚脇をSBが運ぶなど有効活用するようになる。また432だと大外のケアをするSHがいないため逆サイドにスペースが生まれる。それを東京は有効活用して73分に右の紺野から左の大外渡邊へとサイドチェンジして2点目を決めた。

しかしその後は紺野など大外からのクロスを放り込む形が増え左右に揺さぶる攻撃が減った。そこで今度は鬼木監督山村をマルシーニョに代えて投入し531に変更。クロスへの対応を講じた。そのかいあって東京は後半22本のクロスを上げたが成功はわずか3本だった。そして知念ではなく家長を1トップにすることで陣地回復も可能に。これもまた理にかなった采配だ。

こうして川崎は最終節の多摩川クラシコを60分間一人少ない状態で戦い勝利した。

3.まとめ

結果として優勝は叶わなかったがこのチームを誇りに思える試合だった。後半の鬼木監督による二度の采配は素晴らしかったし、60分間耐え続け2ゴールを奪った選手たちも素晴らしい。ゴール裏で応援してて幸せな時間だった。シーズン総括はシーズンレビューで詳しくするが、今シーズンほど厳しい戦いをしたシーズンは近年無かったと思う。そのシーズンで最後まで優勝争いをできたことは来季に繋がるはずだ。

4.最後に

これで今シーズンのデータレビューは終了となりますが、マッチプレビュー&レビューは今シーズンで終了とさせていただきます。2020シーズンから始めて3シーズンで全試合書けたシーズンはありませんが、多くの素晴らしいレビュアーさんがいるなかで個性を出せるよう頑張ってきたつもりです。もしかしたら来シーズンの前半戦のみ書くかもしれませんが、シーズン通しての活動は今シーズンで終わりにします。これまで読んでいただいた方々ありがとうございました。

5.データ引用元


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