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J1第8節 川崎フロンターレ対名古屋グランパス レビュー

川崎は現在リーグ戦で2勝2分3敗で13位と不調が続いている。けが人の多さに加えて、前節アウェーG大阪戦で車屋がレッドカードを貰ってしまうなど、台所事情も厳しい。そんな中で今節はホームで好調2位の名古屋を迎える。今シーズンホームでの初勝利を目指す一戦だ。

1.概略

スタメンには高井と永長がリーグ戦初スタメンで家長の0トップも採用するなど、変化を加えて来た鬼木監督。若手二人のパフォーマンスはギリギリ及第点という感じだろうか。家長を右WGで使うと出張してしまい幅を取る人がいなくなる問題がある。しかしその家長の初期配置をCFにすることで、家長が持ち場を離れてサイドに流れた結果、幅を取ることができる。現状スカッドで幅を取れるWGが永長しかいないことを踏まえると、この解決法は選択肢の一つになるかもしれない。

前回のレビュー第5節C大阪戦では、今季の川崎の課題はビルドアップだと書いた。しかしC大阪戦ではCBからボールを取り上げるようなプレスは行ってこなかった。その後の試合でもそのような強度の高いハイプレスを受ける試合は少なかったため、ビルドアップがハマってしまう試合は少ない。しかし一方でアタッキングサードでの崩しの質が低く、なかなかゴールの匂いがしない試合が続いた。そして今節もその類の試合だと言えるだろう。

もちろん永長のボールロストや小塚のファールは軽率だし、強力なカウンターが武器でマテウスのフリーキックを持つ名古屋にやるプレーでは全くない。しかし彼ら二人の責任にしても話は進まないので、なぜ今季の川崎はビルドアップだけでなく、崩しの段階にも問題を抱えているのかが今回のテーマだ。そして今回は普段のような試合の分析というよりは、試合中のシーンを使って一般的な話をしていきたい。

2.形が見えた山根偽SB

崩しの段階の話をする前に、まずはこの話をしたい。

これまでレビューやTwitterで書いてきたように、山根が偽SBとして内側に入った時の問題点は、バックラインの残り3枚がスライドせず家長も高い位置のままのため、右CBから家長へのパスコースが繋がらないことだ。

しかしこの問題点が今節は解決されているように見えた。11:50に登里が山根に内側に入るよう指示し、登里自身は3枚の左のようなポジションを取り明確に3枚が横にスライドしたのだ。この試合ではこのように山根が内側に入った後のバランスが良くなっていた。

山根が内側に入るメリットは相手の1stプレス隊の周辺で数的優位を作ることで、彼らを中央に閉めさせ外を開けてWGにボールを届けることができる。もし彼らが中央を閉じなければ開幕戦であったように中央突破できる。そして今季川崎の問題点は既に書いた通りだったが、今節は以下の14:35のようにそれが解決されて永長が前向きでボールを受けるシーンがあった。

山根が内側に入り永井周辺をうろつくことで、永井は中央を気にする。そうすると大南が外側に開いてボールを受けれるし、このシーンのように永長が前向きでボールを受けれる。ここで重要なのは永長が常に外に張って大南からのパスコースを確保し、少し低い位置でボールを受けることだ。前者に関しては家長よりもタイプ的にできていた。後者に関してもある程度できていたと思う。

このように山根の偽SBを使ったボール保持は改善されてきていると思う。あとは強度高いハイプレス相手に機能するかどうかだ。

3.四局面は繋がっている

・ボール保持の問題点

なぜ川崎が相手の守備を崩しきれないのか説明するわけでボール保持の話なのだが、あえてタイトルは【四局面は繋がっている】にした。その理由は後ほど。

なぜ川崎が相手の守備を崩しきれないのか。その答えはピッチを広く使わずに、狭いスペースでの突破に拘るからだ。以下のツイートの画像(前半終了時点のもの)を見てもらえばわかるように、川崎の選手は右サイドに密集しており攻撃エリアも右サイドに偏っている。

川崎はボール保持において、相手を左右に揺さぶって守備網に綻びを作って広いスペースで崩す意識が非常に希薄だ。私は欧州サッカー信者ではないが(そもそも川崎サポになった方が先)、マンチェスター・シティやアーセナルなどは左右に揺さぶってスペースを作り、サイドで少ない人数で崩す。そのためゴール前に人数をかけることができゴールが生まれやすい。しかし川崎はボールを左右に揺さぶらず、同じサイドで攻め切ろうとする。これはビルドアップにおいても、崩しの段階においてもそうだ。そのため相手からしたら予測がしやすいし、サイドに追い込んでしまえば狭いので守りやすい。従って相手の守備をなかなか崩せない。48:00に大南が名古屋の守備が整っている右サイドへわざわざプレーを変更したのが典型例だ。

ではなぜ左右に揺さぶってピッチを広く使えないのか。原因は二つあると思う。
一つ目は意識の問題。川崎は技術が高く狭いスペースを突破してしまうと称賛されてきた。2018年のシーズンベストゴールに選ばれた大島のゴールがその典型例だ。このようなプレースタイルは魅力的だし今でも見たい。しかしJリーグの守備も進化し、狭いスペースで人数をかけるやり方が難しくなってきている。しかしそのプレースタイルがアイデンティティのようになり、ピッチを広く使って攻撃することが難しいのではないだろうか。
二つ目は編成上の問題。ピッチを広く使って攻撃するには幅を取る人とそれを繋ぐ迂回経路が必要だ。迂回経路に関しては前述したようにバックラインのバランスが良くなったし、あとは一つ目の意識の問題をクリアすれば問題ない。しかし幅を取る人に関しては、マルシーニョが負傷している現状ではWGだと永長しかいないことになる。つまり必ずどちらかのサイドでWGによって幅を取れないことになる。そのためピッチを広く使えないのではないだろうか。結果論だがマルシーニョ以外に大外の仕事ができるWGを確保しなかったのは問題かもしれない。

・カウンターを受けやすいボール保持の構造

このような状況でボールを保持しようとするとどうなるのか。それが今回のポイントである四局面だ。何が言いたいかというと、不安定なボール保持は非保持にも影響するということだ。これが正に現れているのが一失点目だ。

WGに幅を取れる人がいないため、このシーンでは登里が高い位置で幅を取る準備をしている。ここでボールが奪われた結果、登里はユンカーへの戻りが遅れて失点してしまった。もちろん永長のボールロストも悪いのだが、このようなチームの構造的問題点も強調する必要がある。

・カウンターを受けやすい縦パス

上のシーンは、不安定なボール保持が与えるボールロストした後への影響だが、不安定なボール保持はボールロスト自体にも影響する。現状の川崎のボール保持について、縦パスが少ないという意見をよく見かけるが、個人的に100%同意はできない。個人的にはむしろむやみな縦パスが多すぎるという印象だ。

前述したように川崎は狭いスペースで突破しようとする。すると相手にとっては次のプレーの予測がしやすいため、縦パスに対して後ろから強く当たって前向きでボールを奪える。するとカウンターに繋がってしまう。縦パスには重要な三要素がある。
①パスの受け手:自分をマークする相手から瞬時に離れてフリーになる
②パスの出し手:ボールの出し先がバレないように目線や体の向きを上手く使える
③三人目のサポート:縦パスを受けた選手が前を向けない場合にすぐサポートする
この三要素が今の川崎に欠けていることが多い。その典型例が53:30でぜひ見返してみて欲しい。①フリーでない脇坂に、②登里が脇坂を見ながらパスを出し、③背負う脇坂に誰もサポートしない。その結果脇坂は背負うタイプでもないのに、背負ってしまい奪われた。もちろん背負ってプレーできることにこしたことはないが、そんなプレイヤーは多くない。

4.まとめ

結局宮代のゴールで一点返したものの1-2で敗れホーム初勝利とはならなかった。また宮代のゴールも狭いエリアで無理やり突破したもの。ゴールが取れるのは良いことなのだが、これを良しとしていたら狭いスペースでの突破に拘ってしまう。本レビューでさんざん書いたように狭いスペースはボールを失いやすく突破も難しい。逆に言えばこれを改善できれば、攻守において川崎は劇的に良くなると思う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

追記

試合インタビューで鬼木監督と脇坂から以下のようなコメントがありました。

脇坂
『相手がいても(味方にパスを)つけていく。』
『配置も関係なく割っていく動き』
鬼木監督
『中央から怖がらずに行けばゴールは生まれる。』

これはこのレビューで書いた事と全て正反対のことだと考えられます。このコメントを見る限り、私の考えでは正直言って改善が見られるとは思いません。

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