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J1第32節 川崎フロンターレ対清水エスパルス データレビュー

前節アウェーで札幌に敗戦してしまいマリノスとの勝ち点差が8に広がったことで逆転優勝は”奇跡”でも起きない限り難しくなってしまった川崎。今節はホームで清水と対戦する。清水も残留争いのため何ががんでも勝ち点を取りに来るはずだ。2020年2月ぶりの等々力での声出し応援でもあり勝利したい。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~左右非対称のビルドアップ~

まず最初に両チームのPPSを比べると川崎は50.5で清水は64.7と高めの数字でどちらも効率的にパスを回すことはできてなかった。次にEPPを見てみると川崎が28.2で清水が18.9と川崎が上回っているが、川崎のボール支配率が67%ということ踏まえると、両チームともあまりボール保持において差はなかったと考えられる。
川崎のボール支配率を見ると裏へのボールが6本と最も多い。後述するが川崎のチャンスの多くは裏へのボールが起点となっていた。次に多くのパスが入っているのは両サイドのファジーゾーンで5本ずつ。清水は442でコンパクトに守っており、ブロックの外でボールを回すことが多かったためだ。
清水も川崎と似ておりファジーゾーンへのパスが多く、右ファジーゾーンへのパスが6本、左へは4本という数字だった。川崎と異なるのはセンターバイタルへのパスが多いことで4本。これはカウンターでチアゴサンタナに入ることが多かったからだ。

・川崎の流動的三枚ビルドアップ

川崎は基本バックラインを4枚でビルドアップする。しかしこの試合は三枚でビルドアップを行うシーンが多く、この20分30秒のようにノボリが内側に入って谷口、山村、山根でビルドアップを行うシーンが多かった。

またこの24分50秒では逆にノボリが左の幅を取りマルシーニョが内側にポジショニングする方法で三枚を作るシーンもあったこのようにノボリが内側または外側の高い位置を取り、残りの三枚が左にスライドする形が多かった。またノボリが谷口に「彰吾三枚目!!」と声をかけていたのでおそらく意識していた型だろう。このシーンでは谷口が清水の2トップの脇を運んだが、30分25秒でも山村が清水の2トップ脇を運ぶことで1stプレスを突破していた。

ここでは左方上がりの三枚ビルドアップを紹介したが、これだけでなく家長がノボリと谷口の間に降りたり、シミッチが降りたりすることで三枚を作ることもあった。ではこの流動的な三枚ビルドアップは効果的だったのか。個人的には効果的だったと思う。川崎がよくプレスにハマるシーンはSBが低い位置で幅を取ってしまい、CBからのハメパスを受けてしまうもの。しかし三枚にすることで、特に山根が内側の低い位置でプレーしておりハマるシーンは少なかった。

こうしてボール保持は安定した川崎だが清水の守備ブロックもコンパクトでなかなか広がらない。23分のように小林へ楔を入れれれば良いがなかなかそうもいかない。そこで効果的だったのがサイドチェンジの長いボールだ。例えば13分40秒の谷口から家長へのボールや38分35秒のシミッチから山根へのボールなどだ。このように大きくサイドを変えることで清水の守備ブロックに穴をあけることができる。このようなシーンをもう少し増やしたかった。

そしてチャンスになったのは先述したように裏へのボール。この22分45秒では山根が裏に抜けたところへ山村から浮き球が出て、26分40秒では裏に走る悠へ脇坂から楔のパスが入った。サイドチェンジもそうだが清水の442ブロックを大きく動かすことができるとチャンスに繋がった。ただそう多くはなかった。

ただこのシーンも脇坂からクロスが上がったもののシュートまでは繋がらなかった。ここで注目したいのがクロスに入る選手たちだ。以前もレビューで書いたが、川崎はクロスへの入り方に原則がないように思える。このシーンでも脇坂からクロスが上がりそうなのに、悠と遠野とマルシーニョはみなファーで待っている。クロスの原則(特にニアゾーンランからの速いクロス)はニアとファーとマイナスに最低一人ずついること。川崎の場合逆サイドのWGがゴール前に飛び込んで来れるので、CFである悠や中盤の選手がニアに突っ込んでいって欲しい。

・清水の三枚ビルドアップと山原

清水も基本的に4バックでビルドアップを行うが、比較的右SBの原が左SBの山原より高い位置を取ることが多く、右方上がりの3バックでビルドアップを行うシーンが多かった。

この3分10秒のシーンがわかりやすい。清水は立田と鈴木と山原の三枚でビルドアップ。それに対して家長が山原にプレスをかけると山原はサイドに降りて来て家長の裏でボールを受けた。このように清水は川崎のWG裏へボールを配球することが非常に多く研究してきたなという感じだった。6分50秒も似たような形だ。

そして厄介だったのは山原だ。ここまで説明したように山原が三枚の左で配球するシーンも多かったが、山原が家長の裏でボールを受けることもできていたからだ。

特にこの8分55秒のシーンなんかはWG裏を使って完全に崩されてしまった。家長が外切りで鈴木にプレスをかけるが、パスコースを切り切れず山原にだされてしまう。この山原に脇坂がプレスをかけたことで中央へのパスコースが空く。そこにチアゴサンタナが降りて来て山根が北川を捕まえるために出ていた裏に走るカルニーニョスジュニオに出されてしまった。このように清水は川崎のWG裏を起点とし、特に山原がパサーとしてもレシーバーとしても家長の裏を効果的に使えていた。

また家長がしっかり守備をしてカルニーニョスジュニオに山根とダブルチームを組むと今度は山原が高い位置でフリーになり、5分40秒や25分35秒などクロスやシュートを打たれてしまい、非常に厄介な存在だった。

2.後半~クローズドな試合展開~

EPPを見ると川崎は前半の28.2から22.7へと減少し、また清水も18.9から15.1へと減少したが、両チームともPPSも減少しており前半より少ないパス数でシュートを打っていたことがわかる。清水のEPPが減少した要因としてはパスヒートマップを見ればわかるように前半入っていたライン間へのパスが減ったこと。川崎は後半開始すぐ二失点してしまったが、基本的に清水のパスを外回しにして守れていたことがわかる。
一方で川崎は裏へのボールが6本と最も多いが前を向けたシーンはなく、ニアゾーンランで裏へ抜けてクロスややり直すシーンがほとんどだ。次に多くパスが入っているのはフロントエリアで5本。ビルドアップでシミッチが降りた時に2トップの中閉じが緩くなり、そこに降りて来た知念や脇坂などにパスが入るシーンが多かった。

・清水のクロスへの入り方

後半開始のキックオフは川崎ボールだったが、シミッチからノボリへの横パスをインターセプトされたことで自陣まで運ばれたしまった川崎。まずこのプレーが良くなかった。これでしばらく清水が川崎陣地でボールを回すことを許してしまい、また清水のプレッシャーも勢いづけてしまった。それによってボールを失いカウンターを受けるシーンが増え、カウンターから二失点してしまった。鬼木監督も試合後インタビューで言っていたが単純に一対一のところでも負けてしまっていた。

ここで取り上げたいのはカウンターではなく清水選手のクロスへの入り方だ。二失点ともクロスで失点してしまったが、前半で書いたように川崎はクロスへの入り方が決まってないのに対し、清水はしっかり原則があるように見える。

これは一失点目のシーン。カルリーニョスジュニオのクロスに対してチアゴサンタナがニアに中山がファーに走りこむことで川崎DFを押し下げたことでできたマイナス方向に白崎が走り込みゴールを決めた。

次に二失点目のシーン。このシーンでもカルリーニョスジュニオがニアサイドに突っ込んでゴールを決めたが、ファーには北川がマイナスには白崎がポジショニングしている。ボックス内で見れば川崎が6人で清水が3人と清水は圧倒的に数的不利だが、クロスの入り方が良ければゴールを奪える。川崎もクロスに対してしっかりニア、ファー、マイナスの三か所に選手が走りこんで欲しい。

・川崎のやり直すビルドアップ

後半開始10分程度は慌ててしまった川崎だったが、それ以降は川崎がボールを握れる時間も増え先述したように撤退守備も安定していた。札幌などに比べて清水の強度が低かったこともあるが、川崎が今後ビルドアップを改善するに当たって良いプレーがあった。

川崎は前節の札幌戦でボールを繋ぐことにチャレンジすらせずロングボールを多用してしまい試合のテンポを上げてしまった。しかし今節は前述したように強度の違いはあれど、しっかりボールを繋ぐ意思があった。前半は3バックでビルドアップすることでサイドの低い位置でハマらずにすんだが、後半は清水のプレスにハマりそうなシーンが数回あった。

その一つがこの68分10秒のシーン。山村から山根へ例のハメパスになりそうなパスが出たが、山村が北川を引き連れてスルスルと前へ動いたことで、山根から丹野へやり直すことができた。その後谷口にヤゴピカチュがプレスをかけてくるが、シミッチを経由してフリーのノボリへ。ノボリが運びシミッチにパスを出しシミッチが大きく家長へ展開したことでプレスを突破できた。このようにGKを使うことでやり直すことができればプレスを回避できる。また72分55秒のようにシミッチが降りて迂回経路を作ることでやり直すシーンもあった。

こうして清水相手に無理せずやり直しながらボールを回すことができたため、札幌戦のようにオープンでハイインテンシティな展開ではなく、よりクローズドでコントロールできる試合展開に持っていくことができた。あとはこれを強度高い相手にできるかどうかだ。

・対応させずらいファー裏

前半でも述べたように上手く裏をとれるとチャンスになっていた川崎。62分25秒の知念や64分30秒山根のようなシーンだ。ここで取り上げたのは得点シーンにも繋がったファー裏のスペースだ。

川崎は押し込むことができていたため山村がこの高い位置でボールを貰うことができ、山村がファーサイドの裏に浮き球のパスを送りマルシーニョが折り返して悠が決めた。74分20秒ではマルシーニョから同様にファーサイドの裏に走りこんだ山根へパスを出したが、ファーサイドの裏は相手選手にとってボールと走りこむ選手を同一視野に入れられないため守りずらい。これはよくシティがやる攻撃で非常に難易度が高いが効果的な攻撃だった。

3.まとめ

前節同様に逆転されて逆転し返すという展開となったが、本文でも書いたように前節とは違いクローズドな展開に持ち込むことができたことが勝利に繋がった要因だと思う。もちろん後半開始の展開は褒められたものじゃないし、チャンスシーンの数と質も高めなければいけないが、フロンターレが本来したい試合運びができたと思う。マリノスが負けたため勝ち点差は縮まったが自分たちは勝ち続けるしかない。優勝どうこうではなく残り三試合を来季に向けて成長しながら勝利したい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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