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カタールワールドカップ モロッコ対スペイン データレビュー

本記事はワールドカップ・アーカイブ化計画の”遊軍”として投稿させていただきます。初めましての方向けの簡単な自己紹介などは前回のドイツ対日本の記事にありますので、ぜひそちらのイントロ部分を読んでから戻ってきていただけると幸いです。

この記事では試合を様々なデータのみを使って分析していく記事です。戦術的な観点の分析はぜひ他のライターさんの記事をご覧ください。

1.試合総括

データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。

計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。
EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

・前半

スペインは約70%のボール支配率だったがEPPは20.0でモロッコが13.0と支配率ほどの差はない。スペインの日本戦の前半は43.8だったことを踏まえると、モロッコが非常に良く守っていたことがわかる。
まずモロッコが行った守備はブスケツをCFで消すこと。ブスケツの受け手ポイントはわずか1.8と上手くいったことがわかる。しかしCFでブスケツを消すとCBや降りたIHをフリーにしてしまう。彼らを自由にしないためにモロッコのIHが前に出て残りのMF4枚がカバーする守り方を採用した。これによって中央をプロテクトしCBやペドリの出し手ポイントも低い数字になっている。
サイドでしかボールを回せなくなったスペイン。左サイドではアルバの出し手ポイントが高い数字だがこのほとんどはオルモへのパスだ。右サイドではジョレンテがハーフスペースに移動することが多かったが、あまり効果的ではなかったことがEPPを見ればわかる。
一方のモロッコは多くの選手が自らキープしたり突破でき、フリーになっている選手を見つけてパスを出すことができた。武器となっていたのは両サイドのWGで受け手ポイントが高い。特に左サイドではブファルの突破にプラスしてマズラウィがオーバーラップしていた。

・後半

後半はスペインが80%以上ボールを保持し、モロッコの守備組織に穴ができてライン間やWGにパスを入れられることが多くなった。それは途中出場の選手の受け手ポイントを前半の3トップと比べるとよくわかる。前半はジョレンテがライン間に移動することが多かったが、後半はジョレンテが通常の位置からウィリアムズへパスを出すシーンが多かった。ただ前線の選手の出し手ポイントはあまり上がっておらず、モロッコの選手がしっかりプレスバックして挟み込んでボールを奪うことができていた。チームで連携して守りワードワークもするモロッコだった。

2.Sofascore

中央を閉められて綺麗に崩すことができないスペインはサイドから攻略することになったが、左サイドではオルモが内側に入ってアルバが外側でクロスを上げていた。しかし0/6回成功で右サイドでは張ったトーレスも0/4回成功だった。クロアチア戦の日本のようにターゲットマンがいないメンバーで大外からのクロスはやはり難しい。
両チームのWGに注目するとブファルが地上戦12/15回勝利とボールを自陣で奪った後の陣地回復に貢献していた。一方で右のツィエクは1/11回勝利となっており対照的だ。スペインはオルモが7/14回勝利と平均的だがトーレスが2/10回勝利であまり突破できていなかった。スペインとしては中央をプロテクトされた上に、WGが一人で打開しきれないためなかなか崩すことができなかった。

3.Opta

これは両チームのキーパスを表しており左に攻めるのがスペインだ。スペインはPA外からの中長距離のパスが多く、やはりモロッコの守備を崩すことができなかったことが伺える。一方のモロッコはPA近くでの短距離のパスが多く、スペースのある状態でのカウンターでPAに進入していた。

4.FIFA公式データ

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285073/400128137?country=JP&wtw-filter=ALL

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_128074.pdf

次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。

・Final Third Entries

これはファイナルサードに進入した回数を5レーンで分けてカウントしたもので左がモロッコ右がスペインだ。やはりモロッコはサイドからの進入が多く中央3レーンはわずか3回だ。一方のスペインも左サイドから36回で右サイドから29回とサイドが中心。そのサイド攻撃に関しては前述した通りだ。

・Phases of Play

これは両チームのボール保持・被保持をさらに細かいフェーズで分けたもの。スペインはBuild Up Unopposed(プレッシャーなしのビルドアップ)が50%を超えており、モロッコもミドル・ローブロックが70%を超えている。敵陣で四局面を回したいスペインはディフェンシブトランジション(ネガトラ)が29%と同時にカウンタープレスも19%と即時奪回を目指していたことがわかる。

・Possession Line Height & Team Length

これは両チームのボール保持における陣形の高さと広さを表している。まず低い位置でのビルドアップを見るとモロッコの方が5m低い。スペインに押し下げられた後の攻撃だからだろう。そして中盤でのビルドアップやファイナルサードの攻略のフェーズでは、日本戦同様にスペインの方が横幅を広くさらに高い位置でプレーしていたことがわかる。

・Line Breaks

これも左がモロッコで右がスペインでラインブレイクとはパスやドリブルで守備ラインを越えることだ。同じような試合展開となった日本とモロッコを比較すると、この試合の方が両チームとも多くなっている。

このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットのスタッツはわかりにくいので飛ばします。モロッコFPで最も多くラインブレイクを試行したのは右SBのハキミ。ハキミはThrough(通過)が6回でチーム2位、Around(外経由)では8回でチームトップ。内と外へのパスを使い分けていた。

スペインは日本戦同様にペドリが最も多くなっている。そのペドリは約半数の20回をThrough(通過)でラインブレイクしている。しかしペドリの出し手EPPは高くなかった。これからわかるのは、ラインブレイクをしてライン間の選手にパスを入れても前を向けなかったためポイントが高くならなかった。それはブスケツにも同じことが言える。そこでボールはサイドに回ってくるためジョレンテからトーレスやウィリアムズ、アルバやラポルテからオルモへのパスが多かったため、彼らはAround(外経由)でのラインブレイクが多くなっている。しかしモロッコのWGもしっかりプレスバックして対応するため、前述したようになかなかスペインは外からも崩すことができなかった。

・Attempts at Goal

モロッコのシュートデータは少ないので飛ばします。
スペインは枠に飛んだシュートがわずか1本のみ。緑色のブロックされたシュートが枠に飛んでいたかはわからないが、いずれにせよモロッコがシュートを打つ選手にブロックできる対応をしていたわけで、非常によく守れていたことがわかる。

・Crosses(Open Play)

モロッコはWGの突破やSBのオーバーラップで大外からクロスを上げるシーンが多かった。そのためクロスを上げた選手は両サイドのSBとWGのみとなっている。

一方のスペインは21本中16本が大外からのクロス。この日のスタメンはモラタではなくアセンシオ。前述したように幅を取ったアルバやトーレス・ジョレンテが大外からクロスを入れてもなかなかシュートには繋がらない。そのため成功率も9.5%となっている。

・Offers & Receptions

これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。
アムラバトが守備ブロック前で37回ボールを受けようとしており、彼がビルドアップでバックラインのサポートをしていたことがわかる。そしてIHの二人がライン間で多く、3トップは裏への回数が多い一般的な433となっている。

まずガビとペドリを比べるとガビはライン間が多くペドリは守備ブロック前が多い。これは今大会で多くみられる形でペドリが列落ちしてビルドアップをサポートし、ガビはライン間でチャンスメイクを主に担っていた。
そしてオルモはライン間で受けようとした回数がチームで三番目に多く、外から中への動きも8回でダントツ。左サイドではオルモが中に入りアルバが幅を取ることが右サイドより多かった証拠だ。それにともなってペドリが降りて来る。
ジョレンテとアルバを比較するとジョレンテはライン間が10回でアルバは0回。これは前述したように前半ジョレンテがハーフスペースにポジショニングしていたためだ。

・Defensive Actions

モロッコは低い位置でボールを奪うことが多かった。しかしプレーフェーズで見たようにモロッコはハイプレスを仕掛けず、ミドル・ローブロックで奪いカウンターを狙っていたためこれで良いのだと思う。また最も多くボールを奪い返したのは左CBのサイスだが、他のDF三枚より中盤のウナイやアムラバトの方が多い。このデータを見ても中盤がしっかりプレスバックできていたことがわかる。

一方でスペインは高い位置でミスを誘発した回数が多い。最もボールを奪い返していたのはロドリの15回で圧倒的な数字だ。

・Defensive Line Height & Team Length

モロッコの中盤がしっかりプレスバックできていたのは単純に守備意識の高さだけでなく、守備ブロックがコンパクトだったから。ミドル・ローブロックでは縦幅が20mよりも狭くなっており非常にコンパクトだ。

スペインが守備ブロックを敷いた時間はほぼなかったがこんな感じだ。

・Defensive Pressure

日本と同じように守ってカウンターを狙ったモロッコだが、日本と比べると高い位置でのプレッシャーが少なく徹底して自陣で守っていた。またプレッシャーの位置を見るとPAを囲むように三日月のような形になっている。スペインを守備ブロックの外でプレーさせていた証拠だ。ボールを再び奪い返すまでにかかった時間は日本が29.8秒だったのに対し、モロッコは15.6とほぼ二分の一。スペインのターンオーバーを誘発した回数も日本より多く、日本よりもボールを奪うことができていた。

・Goalkeeping Distribution

これはGKボノの配球を表しており、武器となっていたブファルのいる左サイドへのロングボールが多いことがわかる。

一方のスペインは日本戦と同じように近い距離での配球が多く、低い位置からのビルドアップがメインだった。

・Goal Prevention

これは両GKのセーブを表しているが、そもそも両チームともなかなか枠にシュートを飛ばすことができていなかった。

5.まとめ

グループステージ初戦こそボールを保持してショートパスを繋ぐ魅力的なサッカーで圧勝したが、日本とモロッコには固い守備ブロックを敷かれて崩すことができなかった。最終的に日本と同様にPK戦で負けてしまい残念だったが、それ以上にモロッコが素晴らしかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

6.データ参考元

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285073/400128137?country=JP&wtw-filter=ALL

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_128074.pdf


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