カタールワールドカップ ポーランド対アルゼンチン データレビュー
本記事ではワールドカップアーカイブ計画で私の担当となったポーランド対アルゼンチンを分析していきます。初めましての方向けの簡単な自己紹介などは前回のドイツ対日本の記事にありますので、ぜひそちらのイントロ部分を読んでから戻ってきていただけると幸いです。
この記事では試合を様々なデータのみを使って分析していく記事です。戦術的な観点の分析はぜひ他のライターさんの記事をご覧ください。
1.試合総括
データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。
計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。
EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
・前半
試合展開としては前後半ともにアルゼンチンがボールを握る展開に。ポーランドはロングボールを蹴ることが多く、EPPはあまり参考にならないので割愛します。
そのアルゼンチンはメッシが0トップで9番のアルバレスが中央に入りストライカーとしてふるまう。そのためアルバレスは出し手ポイントが0となっている。さすがメッシは受け手としても出し手としてもチームトップだ。
そのアルバレスがいなくなった左サイドではSBで8番のアク―ニャが幅を取り、20番のマクアリスターがハーフスペースに位置どる。CBの19番オタメンディからライン間にいるマクアリスターへ楔のパスが入ることも多く、マクアリスターの受け手ポイントがメッシと並びチームトップ。アク―ニャの受け手ポイントも高くなっているが、これは幅を取ってボールを受けたり、中央のメッシから裏への浮き球を受けることが多かったからだ。
右サイドはそのまま11番ディ・マリアが幅を取り、メッシや7番デ・パウルがハーフスペースを取ったり降りてボールを捌いてた。
ここでは書けなかった戦術的なことは上でつぶやいてます。
・後半
後半も試合展開は変わらなかった。上図では後半開始のシステムだが多くの時間は左WGに3番タグリアフィコが入り、アルバレスがトップ、そしてメッシが右WGだった。前半はメッシの0トップを基準に左サイドが可変したが、後半はメッシが内側に入るため26番モリーナが幅を取るようになった。そのため前半はアク―ニャの受け手ポイントが高かったが、後半はモリーナの受け手ポイントがチームトップだ。
そのモリーナやライン間のメッシへ配球していたのが右CBの13番ロメロや列落ちしたデ・パウルで彼らの出し手ポイントはメッシを除いてチームトップだ。
2.Sofascore
Sofascoreの選手スタッツで両チームのエース、レヴァンドフスキとメッシを比較してみる。
ドリブル:レヴァンドフスキ0/3回勝利、メッシ4/6回勝利
キーパス:レヴァンドフスキ1本、メッシ5本
地上戦:レヴァンドフスキ3/9回勝利(空中戦2/7回勝利)、メッシ6/12回勝利
このように比較すると両チームのエースが対照的だ。もちろんプレーエリアや与えられてる役割はことなる。ポーランドはボールを奪うとロングボールでレヴァンドフスキ目掛けてけることも多かったが、そのレヴァンドフスキがデュエル合計で5/16回しか勝利できておらず、ポーランドはカウンターを打つことすらできなかった。一方のメッシは降りて行って配球をしたり、自分がライン間で受けてチャンスメイクをしていたことがEPPからもわかる。
3.Opta
これは前半のキーパスを表したもの。ライン間でプレーしていたメッシやマクアリスターがPA手前からパスを供給いていることがわかる。一方で受け手ポイントの高かった左SBで8番のアク―ニャはキーパスを供給していない。良い位置でボールを受けれたがその先がなかなか繋がらなかった。
これは後半。後半になるとメッシや左WGの3番タグリアフィコがPA内でパスを供給しており、前半よりもPAでプレーする機会が増えたと予想される。PA手前からのパス供給は減ったが、その分サイドからのクロスが両サイド一本ずつある。
4.FIFA公式データ
https://www.fifatrainingcentre.com//media/native/world-cup-2022/report_133020.pdf
次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。
・Phases of Play
これは両チームのボール保持・被保持をさらに細かいフェーズで分けたもの。基本的にアルゼンチンがボールを保持する展開だったため、アルゼンチンはビルドアップが69%でファイナルサードが32%と非常に高い割合となっている。ポーランドとしてはボールを奪ってカウンターを仕掛けたかったと思うが、実際にカウンターを打てたのは攻撃のわずか1%だった。
そしてアルゼンチンは守備時の基本はミドルブロックで30%。またカウンタープレスも9%としっかりネガトラでボール奪取を狙っていた。一方のポーランドはミドルブロックとローブロックで74%を占めている。
・Possession Line Height & Team Length
これは両チームのボール保持における陣形の高さと広さを表している。ポーランドのビルドアップは横幅が46mと狭いのに対して、アルゼンチンは55mと広くビルドアップに対する意識が異なっている。また当たり前だが、全体的にアルゼンチンの方が高い位置となっている。
・Line Breaks
左がポーランドで右がアルゼンチンのラインブレイクを表しており、ラインブレイクとはパスやドリブルで守備ラインを越えることだ。やはりアルゼンチンの方がラインブレイク数は圧倒的に多く、DFラインに絞るとポーランドは4回しか試行できておらず成功は0。アルゼンチンは20回の試行で16回成功させている。前述したがポーランドはレヴァンドフスキを起点とした攻撃ができず、シュートを打つにはDFラインを突破する必要があるが、それができなかった。
このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットのスタッツはわかりにくいので飛ばします。
最も多くラインブレイクをした選手はオタメンディ。その方向別内訳を見るとAround(外経由)が多く、前半に幅を取ったSBアク―ニャへのパスが多かったためだ。また左ハーフスペースへのへの楔のパスも多くThrough(通過)でも5回を記録している。そして次に多いのはデ・パウル。彼はメッシの動きに合わせてライン間にステイしたり、列落ちして配球していた。その時には前半のオタメンディと同じように後半に幅を取ったSBモリーナやライン間のメッシなどに楔を入れていた。そしてOver(浮き球)で最も多いのはメッシで6回だ。これはメッシお得意の逆サイド裏への浮き球のパスだ。
ポーランドは試行回数が少ないので割愛します。
・Attempts at Goal
アルゼンチンのシュートの位置データと飛んだ位置を表している。アルゼンチンは合計で25本のシュートを打ったが、ブロックされたシュートはわずか2本。残りの枠内シュートはシュチェスニーがセーブしたものだ。アルゼンチンはPA内でシュートを多く打てているが、PA外からでも枠内にシュートを飛ばしせていた。ポーランドとしてはアルゼンチンに揺さぶられてプレッシャーをかけられず、シュートブロックもできていない、ただ人はいるのでシュートコースを絞ることはできていたためシュチェスニーがセーブできたか。
ポーランドのシュートデータは省略します。
・Crosses(Open Play)
これはアルゼンチンのクロスデータ。最も多くのクロスを上げたのはディ・マリアで右サイドからドリブルを仕掛けてクロスを上げていた。右サイドではポケットと呼ばれるスペースから5本のクロスを上げており、大外の4本を上回っている。これはデ・パウルやモリーナがニアゾーンをしてディ・マリアやメッシからボールを受けてクロスを上げていた。左サイドではポケットからのクロスは3本のみだが、プロットを見るとポケットに近い位置で上げたクロスも多い。しっかり左右に揺さぶることでスペースを作り両サイドでニアゾーンランをしクロスに繋げていたことがわかる。
・Offers & Receptions
これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。
ポーランドは2ボランチとSBが守備ブロック前でのボールを受ける動きが多く、実際にボールを受けた選手も彼らが多い。つまりなかなかライン間や裏でボールを受けるシーンを作ることができなかった。その要因はツイッターでつぶやいたように、アルゼンチンの3+3ブロックを上手く利用せずビルドアップを放棄したためだ。
アルゼンチンの中盤3枚を比較すると、ディ・パウルとフェルナンデスは守備ブロック前での回数がチームダントツで多い。しかしディ・パウルはライン間での回数もチーム2番目に多いが、フェルナンデスは少ない。これはポジションの違いもあるが、ディ・パウルがメッシに合わせて上手くライン間でのステイと列落ちを使い分けていたからだ。逆にマクアリスターは守備ブロック前が少なくライン間での回数が多い。これは前後半ともにメッシが左ハーフスペースにいることが少なく、ディ・パウルと違ってほぼ常にライン間でステイしていたからだ。
・Defensive Actions
続いて非保持でのスタッツ。まずボールを奪取した回数を選手別に見るとGKであるシュチェスニーが7回で最も多い。チームとしてその前でボールを奪えていなかった証拠だ。またボールを回収・奪取した位置を見てもほとんど自陣の深いところだ。
一方のアルゼンチンはCBのロメロが13回で最も多く、ディ・パウルが次で7回となっており、GKにボールが到達する前に守備陣で奪取できていた。そしてターンオーバーを誘発した場所も中盤より前が多く敵陣でプレスをかけてボールをロストさせていた。ボールリゲインの位置を見ると自陣右サイドが多いが、これはポーランドが左サイドにいるレヴァンドフスキ目掛けてロングボールを蹴り、それを回収していたからだ。
・Defensive Line Height & Team Length
このデータは非保持での陣形の高さと広さだ。ポーランドとアルゼンチンを比べると、横幅にあまり差はないが、ポーランドは非常に立幅が狭い。コンパクトに守っていたと言えるかもしれないが、どちらかと言うとアルゼンチンに押し下げられた結果陣形が潰れていたと言う方が個人的にはしっくりくる。
・Defensive Pressure
これはプレッシャーのデータ。もちろんポーランドが低い位置で守る展開が長かったため、低い位置でのプレスが多い。プレッシャーの持続時間はポーランドが1.46秒でアルゼンチンが1.31秒とほぼ変わらないが、ボール再奪取までの時間はポーランドが23.1秒でアルゼンチンが8.87秒と非常に大きな差がある。これを見てもポーランドがボールをなかなか奪えず、逆にアルゼンチンがすぐに奪い返していたことがわかる。その他のプレッシャーのデータは母数の多いポーランドの方が高い数字となっている。
・Goalkeeping Distribution
これはGKの配球を表している。ポーランドは近い位置への配球は少なく、左サイドの中盤へのロングボールが多い。これは前述したようにレヴァンドフスキを狙ったものだ。
アルゼンチンは敵陣でプレーする時間が長かったため、あまりマルティネスの出番はなかった。
・Goal Prevention
これはポーランドのシュートストップに関するデータだ。シュチェスニーのシュート成功率は85%と非常に高い数字。アルゼンチンのシュートデータでも述べたが、ゴールから遠い位置から飛んできた枠内シュートはもちろん、ゴール近くから飛んできたシュートに対しても、危険なものには反応してセーブし、危険でないものは見送る判断が素晴らしかった。PKストップ含めてシュチェスニーの存在は大きかった。
5.まとめ
ポーランドは敗戦したがアルゼンチンの攻撃を2失点に抑えて得失点差が0でメキシコを上回りなんとか決勝トーナメント進出を決めた。得失点差を考慮した結果ビルドアップを放棄したのだと思うが、今節のようなパフォーマンスではより高い順位は望めないと思う。一方のアルゼンチンはメッシの動きに合わせてサイドが可変する形はスムーズで威力があった。しかし2トップの間に誰もいないことが多く、ハイプレスをかけてくる相手にはビルドアップが難しくなる。両チームとも課題は残っており決勝トーナメントでどのように修正してくるか注目だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
6.データ参考元
https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_133031.pdf