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J1第2節 鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ データレビュー

前節は横浜FMに後半2失点してしまい2-4で敗戦した川崎の今節の対戦相手は新生鹿島。新監督はまだ来日できておらず現在は今季から就任した岩政コーチが代理で指揮を執っている。就任時のコメントや試合前のインタビューを見ると岩政コーチの川崎戦への熱は相当なものだっただろう。それが選手にも伝達し普段は仲の良い選手同士で言い争いも起こったそうだ。川崎サポとしても鹿島はいつまでも鹿島。気が抜けない相手だ。連敗を避けるという意味でも非常に重要な一戦だった。

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~静的だった鹿島と動的だった川崎~

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前半の試合展開としては川崎がやりたいサッカーをすることができた前半だった。ボール支配率こそ鹿島の51%で川崎49%だがEPPを見ると鹿島の14.6に対して川崎は約二倍の28.7という数字になっており、川崎の方が効果的にボールを回していたことがわかる。それはPPSを見ても明らかで川崎は約23.1本のパスでシュート1本のペースだったが、鹿島はシュートを1本しか打っておらずPPSは248という数字になっている。
パスヒートマップを見ても鹿島のパスのほとんどはフロントエリアと両サイドのファジーゾーンに入っている一方で、川崎はサイドにも中央にもパスが入っており鹿島の守備ブロックを攻略できていた。

・静的すぎた鹿島のボール保持
開始2分での関川によるミスからの失点は鹿島にとってこの試合を難しくしてしまったことはたしかだろう。この失点シーン以外でも鹿島は川崎のハイプレスやミドルプレスでボールを奪われることが多かった。その原因は静的すぎたことだと思う。流石岩政コーチということで、鹿島の前線は幅を取る人、中にポジショニングする人という所謂5レーンを埋めることはできていたように思う。しかしビルドアップ隊と前線が上手く繋がっていなかった。

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これは5分55秒のシーン。キムミンテがボールを持っている状態。鹿島のビルドアップはSHが内側に入りSBが幅を取るやり方だ。その時に前線のSHとCFの計4枚はライン間に留まることを優先してあまりボールを受けたがらない。そのため2CBとしてはボランチかSBにしかパスの出し所がない。そしてこのシーンではSBへのパスコースは家長が切っているためキムミンテはまだボールを受ける準備ができていない荒木にパスを出し脇坂がインターセプトした。

このように2CBの出し所がボランチのみというシーンが多かった。失点シーンや9分のシーンもそうだ。川崎の守備の弱点はWG裏であるSBや3センターのスライドする距離が長いため間延びしたその隙間などだ。東京戦や横浜FM戦では中盤3枚を動かされてアンカー脇を使われることが非常に多かった。
しかし鹿島はライン間から降りてきてボールを受ける選手がおらず、川崎の中盤3枚としては目の前にいるボランチを監視しつつ背後でライン間へのパスコースを消すことができた。ここで荒木などが降りてくるとボランチとどちらかはフリーにしてしまう。川崎としては鹿島が静的だったため3センターを動かされずにすんだ。

また出し所がなくなった鹿島は左サイドに流れてくる鈴木にロングボールを蹴ることが多かった。鈴木は山根とのミスマッチを狙っていたと思うが、鈴木が完全に競り勝ってボールを落とすことができたシーンは少なかった。山根が競り勝つことも少なかったためスタッツには残らないが、駆け引きで勝利して鈴木に飛ばせないなどして上手く対応していた。

・復活した川崎の遅攻
静的なボール保持だったため上手くボールを前進できなかった鹿島に対して、川崎は選手が動いてボールを受けにいく得意な遅攻で鹿島の守備ブロックを壊していった。ここ数試合の川崎は縦に急ぎ過ぎてボールを奪われネガトラも機能せずということが多かった。しかしこの試合は川崎得意の遅攻が復活した。

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41分のシーン。鹿島はオーソドックスな442で守備を行う。山村から山根にボールが入った時にCFに入った知念が右サイドまで寄ってきて山根からボールを引き出して脇坂に落とした。この後に知念脇坂家長山根の4人でショートパスを回した。ダミアンがCFの場合だとこのようにパス回しに参加はできないので知念がCFに入ったことによる特徴が出た。

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そしてその20秒後に知念が密集から抜け出し左サイドに展開して佐々木が小林に楔を入れてその落としから知念のシュートにつながった。鹿島は川崎右サイドでのパス回しに対してスライドして枚数を揃えているが、動き回る川崎の選手についていくことができなかった。そのためスライドした逆サイドに展開されると大きなスペースを与えてしまっていた。このように右サイドから左サイドへという攻撃が6分35秒や26分50秒にもあった。

そして左サイドではチャナティップが低い位置に降りてしまい左ハーフバイタルに人がいない問題があったが、この試合は小林が中に入り佐々木が幅をとる適材適所で解決することができた。

2.後半~前半と様変わりした鹿島~

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後半になると前半とは逆に鹿島がボールを持つことが多くなった。そのためEPPもPPSも前半と逆転し、鹿島のEPPが24.7に上昇しPPSが52.3に減少。川崎のEPPは11.1に減少しPPSは92に上昇した。パスヒートマップを見ても鹿島の色が濃くなったが、鹿島がしっかりボールを繋いで入れたパスというよりかはクロスや崩れた川崎守備陣形に入れたパスが多かった。そして後半はオープンな展開になり前半両チーム通じて169回だったボールロストが後半は190回に増加した。

・鹿島攻撃時のフォーメーション変更
鹿島は後半になると攻撃時に中村をアンカーとして投入し、ダイヤモンド型の442に変更した。守備時はフラットな442で守っていたのでおそらく攻撃でのテコ入れだと思う。その意図は中央に人を多くしたかったのではないだろうか。後半になるとロングボールの送り先を中央に変更した。先述したように前半は鈴木が左サイドに流れて山根と競り合っていたが、後半は鈴木が中央から流れることが少なくなりその鈴木にロングボールを蹴ることが多くなった。そしてそのこぼれ球を拾うために中盤をダイヤモンド型にして人を密集させたのだと思う。

この仮説が正しければボールを前進させるという意味では成功していたと思う。しかし後半の鹿島の攻撃はクロスが中心で前半に上げたクロスは3本だったが後半は20本に激増した。そしてボールをある程度前進させると鈴木もサイドに流れてクロスを上げるようになった。鈴木のベルギーでの活躍はチェックしていたしハイライトは絶対見ていたので、鈴木のクロスに合わせる怖さは知っている。その鈴木がクロスを上げる側になるの正直川崎としてはありがたかった。実際に鹿島が成功させたクロスは4本のみだった。

・トランジションでボールを回収できるようになった鹿島
後半は鹿島が押し込む展開になり自分たちのサッカーができなかった川崎。前半は先述したようにボールを回してシュートを打てていたが、正直言って鹿島の守備の緩さや切り替えの遅さによってボールを回せていた。先述したように動的だった川崎の選手のインテリジェンスの高さもあるが、紹介した41分のシーンなんかは荒木の守備が緩すぎて山根は楔をさすことができた。

しかし後半になると鹿島は守備のインテンシティも高めたし、切り替えも速く川崎がボールを奪ってもすぐに寄せて奪い返すし、鈴木の落としへの反応も速くなった。29分50秒で鈴木がスローインで誰も受けにこないときにキレたようにロッカールームでは、鈴木や岩政コーチからゲキが飛んだのだと思う。後半のパフォーマンスは前半とは全く違うチームのように見えた。

また鹿島がネガトラですぐボールを回収できたのは、フォーメーション変更も影響していると思う。鹿島の変更に対して川崎も嚙み合わせて442ダイヤモンドに変更した。川崎の選手は慣れないこのシステムでボールを奪っても味方の選手を探すのに苦労しているように見えた。

・自分たちのサッカーができなかった川崎だが
こうして後半は防戦一方になってしまった川崎。ただ後半が悪かったかと言えばそうではないと思う。先述したように鹿島のクロス攻撃で成功したのはたった4本だし、枠内に飛んだシュートは1本のみ。鬼木監督も言っていたがシュートに対して体を投げ出すだとか勝負強さを感じた。特にCB二人と山根と橘田。谷口はクリアを9回と3回のインターセプト、山村は6回のクリアと4回のインターセプト、山根は3回のクリアと4回のタックルとインターネット、橘田は5回のインターセプトと4回のタックル。素晴らしいパフォーマンスだったと思う。もちろん後半にも得点は取りたかったと思うが今年も勝負強さは健在だなと思える後半だった。

3.まとめ

後半を耐え凌いで鹿島に勝利。なんとか連敗は避けることができた。浦和戦や東京戦に比べて横浜FM戦と今節はパフォーマンスも向上している。その中心にいるのは橘田なのは間違いないと思う。そして今節では佐々木も初ゴールを奪って良いパフォーマンスを見せた。個人的には松井もこれくらいできる実力は持っていると思う。より松井を早く見たいと思う試合だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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