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J1第32節 鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ データレビュー

アウェー連戦ラストとなったこの鹿島戦。鹿島は相性が良い相手というデータはあるものの鹿島戦となると厳しい試合になりそうだと毎回思う。実際に今節も両チームとも集中して守っており、パス成功率は鹿島が72%でフロンターレが76%と比較的低い数字になった。プレビューでも書いたように鹿島はボールを奪うとすぐにカウンターを狙っていたし、得点シーンはフロンターレが最も多く失点しているクロスから。しっかり守ってフロンターレの弱点を突いてくる鹿島だった。それに対してフロンターレも鹿島の武器であるセットプレーは与えずに、逆に鹿島の弱点であるセットプレーで1点目を決めた。両チームともしっかりと相手の弱点をついていた試合だった。

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.スタメン

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2.前半~攻守での家長の起用法~

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前半のボール支配率は鹿島44%でフロンターレ56%と若干フロンターレの方がボールを持っていた。ただフロンターレが効果的に攻撃していたかというとそうではなく、EPPは37と45分間平均が46.3なのでかなり低い数字。また、シュート数が2本なのでPPSは124.5と高い数字でやはり効果的に攻撃できていたとは言えない。戦術的なこと以前に、前半のデュエル勝利数は鹿島が35回だがフロンターレは26回と1対1で鹿島が勝利することが多かった。特に両チームの中盤でのデュエルが多かった。そしてフロンターレのパスヒートマップを見ると左ファジーゾーンに9本で左バイタルハーフに5本と左サイドが多いことがわかる。右サイドにボールが入っていないことについてはのちほど。
一方の鹿島もEPPは32.2、シュート数は3本でPPSは61.3とフロンターレと同様に効果的に攻撃できていたとは言えない。ただ先述したように1対1で勝利することが多く、全員でハードワークしてフロンターレからボールを奪うことが第一目標だったと思う。そして第二目標は裏へのパスが6本と多いようにボール保持ではなくまずゴール。ただこれに対してフロンターレDFラインはしっかり対応しており、鹿島はボール保持した場合はサイドを中心に攻撃していた。最も多いのは左ファジーゾーンで7本だが左バイタルハーフにはパスが1本か入っていない。一方の右サイドではファジーゾーンに5本でバイタルハーフに4本と対照的に。これについてはのちほど。

・右ファジーゾーンに人がいない問題

パスヒートマップを見るとわかるようにフロンターレの左サイドには多くのパスが入っているが、右サイドではほとんど入っていない。また、左サイドから4回PAに進入していたが右サイドからは0回だった。この原因は右ファジーゾーンに人がいないことだ。

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これは20分30秒のシーン。山根が低い位置でボールを持った時に家長はバイタルハーフにポジショニングしている。そうすると安西の前で和泉の後ろの右ファジーゾーン(緑の四角形)に人がいない。そのため山根は右へのパスコースがなく、ジェジエウへのバックパスか橘田へのパスコースしかない。そこで橘田にパスを出し橘田は家長に縦パスを入れたが、家長は後ろから安西に当てられておさめられなかった。

これは典型的な5レーンができていないシーン。この記事で詳しく書いているが、5レーンはファジーゾーンとバイタルハーフに人がいないと成りたたない。このシーンでいうとファジーゾーンに人がいないことで2つの問題が生じる。1つ目は山根が持った時に右へのパスコースがなく、ボールを前に運ぶことができない。2つ目は橘田がボールを持った時に安西は家長にピッタリとつくことができる。もしファジーゾーンに人がいたら、右へのパスコースができたし、安西は家長とファジーゾーンの選手2人を同時に見なければいけなくなる。そうやって相手SBに対して数的優位を作っていくのが5レーンだ。

そして右サイドで5レーン攻撃が上手くいきそうだったのが33分30秒のシーン。

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家長はさっきのシーンと同じようにバイタルハーフにいるが、橘田がクロースロールでジェジエウと山根の間に降りたことで山根を高い位置に押し上げてファジーゾーンにポジショニングすることができた。こうすることで安西は家長と山根を見なければならない。この配置なら5レーンをしっかり埋めることができている。昨シーズンや今シーズンの前半は家長がファジーゾーンでIHがバイタルハーフという配置が多かったが、最近は家長の出張も増えておりファジーゾーンに人がいないことが多くなってる。これからも家長の出張を続けるならこのシーンの配置にするべきだと思う。

フロンターレはサイドで内側から外側へ裏に走ることが多かった。左サイドではダミアンが3度ほどで、右サイドでは33分30秒のように家長が走ることが多かった。おそらく鹿島のCBをつり出したい意図があったと思う。ただダミアンはオフサイドになることが多かったし、家長はボールが通っても町田との1対1に負けることが多かった(町田は90分で地上戦4/4回勝利)。左サイドは中央のダミアンが流れるため、マルシーニョと旗手で5レーンができていたが、右サイドでは家長が流れていたため先述したような問題が起きたとも考えられる。

・鹿島攻撃時のサイドによる流動性の違い

まず鹿島はビルドアップをガチガチにやるのではなく、ロングボールの回収やフロンターレからボールを奪って攻撃というパターンが多かった。それは先述したように中盤の1対1で勝てたことが大きい。

そしてフィニッシュワークでは鹿島も攻撃時にファジーゾーンとバイタルハーフに人を配置して攻撃してきた。基本はSHが内側に入りSBが外側を上げる配置。ただ配置は流動的で三竿などののボランチがバイタルハーフをとったり荒木や上田がとることもあった。特に右サイドが流動的だったためフロンターレの左サイドでは認知する負荷が上がったり、マルシーニョが攻め残りすることが多くパスヒートマップで見たような鹿島右サイドの数字になった。一方の左サイドは和泉が内側で安西が外側という配置がある程度パターン化しており、今節は家長も守備を求められて安西についていっていたため、安西が縦に運ぶだけでうちがわとのパス交換などのプレーが少なかった。

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このように守備時に家長に守備をさせたり、攻撃時には内側から外側に流れるタスクを与えたりと普段とは若干違ったタスクを与えているように見えた。ただ攻撃時には先述したような問題もあり、次の試合はどうなるのか注目だ。

3.後半~鬼木監督の神采配~

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後半になるとボール支配率はフロンターレの60%となった。そのためパスヒートマップを見てもフロンターレの方が多い。フロンターレのEPPは49.1と高い数字を記録し、PPSは31.6と低い数字でどちらも平均と同じくらい。パスヒートマップを見ると左サイドが多いという傾向は前半と似ているが裏へのパスが8本で2番目に多くなった。
鹿島はボールを握る時間が短くなったこともあり、EPPは21.8と低い数字になった。ただPPSは21.4とかなり低い数字だ。前半はある程度敵陣でのポゼッションがメインだったが、後半はカウンターを少ないパス数で成功させることが増えたためこのような数字になった。鹿島のパスヒートマップもあまり前半と傾向は変わっていない。
前半のデュエルは鹿島が勝利していたと書いたが、後半は両チームとも25回の勝利と前半ほどの鹿島の1対1での優位性はなくなっていた。また、80分くらいまではどちらがセカンドボールを取れるかという展開になり、お互いに回収したら縦という展開だったためパス成功率は鹿島71%でフロンターレが73%という低い数字となった。そんなカオスな展開で鹿島がセカンドボールを取れる時間が続いたが決め切れずにフロンターレが鹿島の苦手なセットプレーを得て決めたことで今度はフロンターレに流れが向いた。

・家長の中盤起用という修正

後半になると鬼木監督は旗手と家長の位置を入れ替えて4231のようなかたちに変更した。その後ノボリを下げると旗手をSBにして小林を右に配置。そして知念を投入すると知念を右で小林を中央に配置した。このように右サイドの選手を入れ替えていったが家長の中盤起用は変えなかった。個人的にはこの起用法が素晴らしいと思った。

前半の家長は先述したように攻撃では内側でプレーして守備ではしっかりと撤退することが求められていた。しかしそれだとトランジションでの移動距離が長くなる。しかしトップ下で守備を免除して起用すればトランジションでの移動はなくなる。

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これは51分20秒のシーン。鹿島の攻撃をジェジエウが食い止めてボールを奪った後に家長に渡して、家長が運びマルシーニョへパスを出したシーン。マルシーニョがボールを奪われたためカウンター成功とはいかなかったが、家長が中央で起点を作れたシーンだった。このようなシーンは前半にはなく、家長に中央で守備を免除して高い位置に残っていたために生まれた攻撃だった。山村の先制点となったフリーキックが生まれた一連のプレーも家長がセカンドボールを回収して始まっていた。

このようにカウンターの起点になるだけでなく、トップ下としてプレーすることで左サイドへの出張もしやすくなり、62分30秒のように左サイドでボールを拾えるようにもなった。

鬼木監督は家長を中央に配置して起点を作る役割に変更するだけでなく、家長の代わりに右サイドでプレーした旗手、小林そして知念には幅を取らせる役割を与えていたと思う。小林と知念にその役割を与えるべきかはともかく前半の問題点を修正した見事な采配だったと思う。

4.まとめ

主にフロンターレ目線で書いてきたが鹿島としてはやりたいことができていたのだと思う。鹿島の442守備は隙がなくボールを奪えばすぐに強烈なカウンターが襲ってくる。ポゼッションにおいても縦への意識が強く、ボールを失うことを怖がっていなかった。それは中盤での1対1で勝つ自信があったからだと思う。実際に前半では先述したように鹿島が勝っていた。

後半の50分すぎくらいから80分くらいまでは鹿島が試合の主導権を握っていた。しかしその時間で決め切れないと流れが変わってしまうのがサッカー。最近のフロンターレもそんな感じだったし。それで山村がセットプレーからファーストタッチで決めてしまう。プレビューでも書いたが鹿島は簡単にシュートを打たせてくれない。しかし一瞬だけプレッシャーがかからなかったところを宮城が決めた。もちろん鹿島も旗手が倒れていてプレッシャーがかからなかった安西がクロスを上げて得点に繋げた。この試合に関しては配置や戦術よりも両チームとも相手の隙をついて得点しており、気持ちや集中力が勝敗を分けたと思う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

5.データ引用元


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