J1第19節 セレッソ大阪対川崎フロンターレ データレビュー
前節は先制したものの試合終了間際に失点してしまいホームで引き分けとなってしまった川崎。今節はアウェーでセレッソ大阪と戦う。前回対戦はホームで大敗してしまっただけに今節はなんとしても勝利したい。
1.前半~磐田戦と同じ展開の前半~
まず最初に両チームのEPPを比べるとセレッソが8.8で川崎が28.3と川崎が3倍以上の数字を残しており、川崎の方が効果的にパスを繋ぐことができていたように見える。しかしPPSも比べるとセレッソが57で川崎が51.9とほぼ同じ数字で、川崎の方が多くパスを繋いでいたためEPPが高くなっており、パス1本の質としては同じくらいだったと考えられる。
パスヒートマップを見るとセレッソは中央に一切パスが入っておらず、サイドのファジーゾーンと裏のみだ。これが前半のセレッソの戦い方を示している。そして川崎は右サイドではファジーゾーンに9本と多くのパスが入っているが、左サイドではファジーゾーンに6本でハーフバイタルに3本と内側が多めになっている。
・川崎ギリギリのビルドアップ
川崎ボールで始まったキックオフだが、川崎は開始10秒でセレッソのプレスにハマりボールを失うことになる。
キックオフで車屋→谷口→山根→家長とボールが動いたシーン。結論としては右サイドに押し込まれてしまいボールを奪われた。セレッソの守備は2トップがCBにプレスをかけて、SHが内側からSBにプレスをかけ、サイドに追い込み奪うという442の典型的なプレス。川崎としては典型的なプレスに典型的な形でハマってしまいボールを奪われた。特に右サイドで奪われることが多く、山根は90分間で両チーム最多の23回ボールをロストした。ちなみに川崎で2番目に多かったのはチャナで12回。
このブログでは川崎のビルドアップの問題点について何度も書いているが、ここ数試合で新しい問題が生まれている。それは大島の機動力だ。上のシーンでは大島はブルーノ・メンデスの後ろで止まっているが、これだと山田は背後を気にせずにプレスをかけ放題になってしまう。川崎アンカーの原則的な立ち位置は2トップの斜め後ろだ。
これは31分40秒のシーン。このシーンも大島は2トップの斜め後ろ(緑の円)より後ろにポジショニングしている。この位置だとセレッソ2トップは奥埜に大島を受け渡すことができてしまい、2トップは2CBにプレスかけ放題になってしまう。大島が緑の円あたりにポジショニングしていれば、セレッソ2トップは大島を挟みながらプレスに出る必要があるので、CBへのプレスを緩くすることができる。
このように大島がアンカーに入った場合、ポジションの取り直しが橘田に比べて遅いため、バックラインの選択肢が一つ減ってしまっている。オンザボールでは大島に敵う者はいないが、オフザボールでは橘田の方がビルドアップに貢献できる。
このような問題点があった一方で良かった点もある。それはチャナティップだ。
これは4分50秒のシーン。このシーンでは大島がしっかりポジションを取っているため、大島はボールを受けれないがブルーノ・メンデスのプレスに対して車屋は比較的余裕がある。そこでチャナがライン間から降りて来てボールを引き取り大島へレイオフ。その後もう一度ボールを貰ったチャナは自分が降りた後に、ハーフバイタルへ入ってきた遠野に楔のパスを入れた。似たようなシーンが7分40秒にもあった。
このように左サイドではチャナが降りて遠野がハーフバイタルでボールを受ける機会が多く、右サイドでは外循環のビルドアップで幅を取った家長や山根にボールが入ることが多かった。
以前のチャナは降りてくる時間が長く、その後の判断もあまり良くなかった。しかしこの試合は降りて来てボールを受けたらすぐにレイオフで大島を解放したり、反転してライン間の遠野に楔を入れるなど判断も良くなっていた。
・磐田戦とは違うロングカウンター
大島が復帰した札幌戦からの川崎がしたい事はおそらくボールを敵陣で保持し続けて、奪われても高い位置で即時奪回して再び攻撃するというもの。
札幌戦と磐田戦でもそれができた時間帯があったように、この試合でも前半はそれができていた。例えば5分から6分や19分から20分などは、技術の高さを活かして狭いスペースでパスを速いテンポで繋ぐ。そしてスペースがなくなってきたら逆サイドという良いボールの循環ができていた。ここは磐田戦との類似点だ。
一方で相違点もある。それはセレッソのロングカウンターだ。プレビューでも書いたように、セレッソはロングカウンターのシュート率が20.2%でリーグ2位の数字。6.5%でワーストだった磐田とはここが明確に異なる。
例えば8分50秒ではボールを失った後にハイプレスをかけるが、キム・ジンヒョンのロングボールからセカンドボールを拾われてサイドに展開されてクロスを上げられた。30分30秒ではセレッソは川崎のゲーゲンプレスを回避すると広いサイドに展開して運びまたクロスを上げられた。
これもプレビューで書いたが、セレッソはクロスから最も多く得点し、川崎はクロスから最も多く失点している。この2つのシーンのように即時奪回ができないと一気にピンチになる川崎だった。そしてクロスの配球は鈴木からでこの試合11本のクロスを上げていた。もちろん最多。
2.後半~砂の上の未完成の城~
後半のボール支配率は川崎の63%。しかしEPPを見るとほぼ同じ数字でセレッソは14.2で川崎は16.3。一方でPPSはセレッソが21.8と非常に低く、川崎は58.5と高い数字になっている。つまりボールを支配していた川崎よりもセレッソの方が効果的にパスを繋いでいたということだ。パスヒートマップを見ると川崎は前半に比べてライン間へのパス数が減っている。その要因としてビルドアップが機能しなくなり陣地を回復することができなくなったことが挙げられる。
・陣地回復できない川崎
前述したように川崎は後半になるとボールを奪ってもそれを敵陣に運べなかったり、敵陣でボールを奪う事もできなくなった。
まずボールを敵陣に運ぶ方法としては二つ。ビルドアップとロングカウンターだ。ビルドアップでは前半のように降りて来たチャナを使うシーンが減り、セレッソのプレスにハマるシーンが増えた。
そしてここで取り上げたいのはロングカウンター。
この48分20秒では脇坂がボールを持っている時に悠がヨニッチの背後から裏に抜けようとする。しかし脇坂とタイミングが合わずボールは出ない。また悠の他に裏へ走る選手がおらず、セレッソの守備陣にギャップを作ることができずカウンターを完結できなかった。
そしてこれは前半のシーンだが気になったので取り上げます。このカウンターのシーンでは遠野がボールを運んでいる。この時悠は鳥海の背中にポジショニングした。CFの原則としてCBの視野外から動き出すことがある。悠はそれが体に染みついているためこのような動きをしたはずだ。しかしこの動きをしたことで遠野から悠のパスコースは無くなってしまい、セレッソと川崎の1対1が2つある状況になってしまう。33分55秒にも同じようなシーンがあった。
この動きはダミアンも良くするが、ロングカウンターの場面では背後にポジショニングではなく、斜めに走ってDFを動かしてスペースを作ってほしい。
ビルドアップやロングカウンターでボールを敵陣に運ぶ以外に、陣地回復する方法はハイプレス。しかしこのハイプレスもあまり機能しなかった。
セレッソがヨニッチから鳥海にパスを出したタイミングで家長が外切りプレス。しかしボランチの鈴木がフリーになっており、レイオフで船木にボールが渡る。これに脇坂が出ようとしたことで鈴木が少しフリーになり、船木から鈴木そして逆サイドへと展開されてしまった。
またセレッソはショートパスだけでなくロングボールでも川崎のハイプレスを回避することができていた。この69分45秒以外にもロングボールでひっくり返されるシーンが何回かあった。
ハイプレスは前半終了前から(43分25秒など)ハマらなくなっており、ビルドアップもできずカウンターもシュートまで繋がらず、ハイプレスもハマらなくなったことで川崎はセレッソに押し込まれる展開となってしまった。
ただカウンターに関しては88分30秒で大島がフルスプリントで決定機を演出しており良かった。
・砂の上の未完成の城とは
今回後半のタイトルを『砂の上の未完成の城』としてみた。これは現在の川崎を例えている。危ういビルドアップや、精度の低いロングカウンター(陣地回復)、ボールを奪えないハイプレス、このような脆い土台をクリアできた場合にのみ、川崎は敵陣で得意のボールを繋ぐプレーができる。しかし押し込めたとしても、それはまだ未完成でなかなかシュートを打てない。
前半は体力もありまだ安定して押し込める。しかし後半になるとその基盤が崩れて押し込むことすらできなくなる。この流れはまだ継続しそうだ。
3.まとめ
試合内容としてはプレビューで取り上げたような展開となった。セレッソはカウンターでボールを運びクロス。そしてセットプレーで得点した。
川崎としてはクロスを26本上げられたものの失点しなかったことは評価できると思う。ただ後半はボールを効果的に保持できず、インターセプトはセレッソが12回で川崎は6回。ボール支配率は川崎の方が高いのにクリアはセレッソ16回で川崎27回。このスタッツが今節を表していると思う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
4.データ引用元
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