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J1第5節 サンフレッチェ広島対川崎フロンターレ データレビュー

川崎は前節ホームで名古屋に1-0で勝利した。なかなか内容の伴う勝利がなかった今シーズンだが、前節は今シーズンで最も内容の良い試合だった。そして今節はアウェーで広島と対戦。広島は今シーズンからドイツ人のスキッペ監督になり、ドイツらしいハイプレスと縦に速いサッカーを志向している。川崎としては昨シーズンからインテンシティ高くハイプレスをかけてくる相手に苦戦しており、今節も広島のハイプレスに対抗できるのかが注目点だった。

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~広島の円滑な四局面~

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前半の大きな試合展開としては川崎のビルドアップvs広島のハイプレス。EPPを見ると広島が24.9で川崎が24.4とほぼ同じ数字で互角だったように見えるが、実際は広島のハイプレスに川崎は苦戦していた。川崎のPPSは94.3でパスヒートマップを見てもライン間にはほぼパスが入っておらず、外回りのパス回しだったとわかる。しかしフロントエリアに5本と裏に4本のパスが入っておりここが川崎にとって広島の付け入る隙だった。詳しくはのちほど。
一方の広島はPPSが25.2とかなり低い数字でいかにショートカウンターなどで少ないパスでシュートを打てていたかがわかる。最も多くパスが入っているのは右ファジーゾーンで右WBの藤井がクロスを上げるシーンが目立った(90分で1/7本のクロス)。ただ注目なのは左ハーフバイタルに5本のパスが入っていること。まずはこの広島のボール保持から。

・アンカー脇を利用した広島の縦に速い攻撃
広島はビルドアップにおいても縦に速い攻撃を狙っていた。特にそのねらいは川崎のアンカー脇。それが試合開始直後の2分35秒のシーン。

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川崎は3トップで3バックにプレスをかけるがそこまでハイインテンシティではないため広島の3バックにも配球する余裕がある。そして川崎のIHは広島のCHをマークする。すると橘田の脇のスペースに広島のシャドーが降りてくる。これに川崎のCBはついていくことができず浅野に楔のパスを出されてしまった。このように広島CHが中央で川崎のIHを引き付けてハーフバイタルにシャドーが降りてパスを受けることが特に左サイドで多かった。左サイドでは6分20秒や39分45秒など。

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こうしてシャドーがアンカー脇でボールを受けることが多かったためこの13分40秒のシーンでは脇坂が浅野を気にして塩谷をフリーにしていた。そのため荒木から塩谷にパスが入ると小塚が野津田を捨ててプレス。塩谷はGKにバックパス。林は小塚が捨ててフリーになっていた野津田にパス。野津田にはアンカーの橘田が出るが交わされて森島に出されて運ばれてしまった。
このようにIHがシャドーを気にするとCHがフリーになってしまう。広島のCHとシャドーの4人対川崎の中盤3枚という数的不利になっていた。フリーのCHを起点にされたシーンは17分10秒や18分5秒など。

こうして広島はCHが捕まっていたらアンカー脇のシャドーに、シャドーが捕まっていたらCHに配球して川崎の1stプレスを突破していた。そして1stプレスを突破するとサイドのWBに展開。サイドに展開されると川崎の中盤はスライドするため逆サイドにスペースができる。そこを使われたのが7分40秒のシーンだった。こうして崩しの段階ではサイドに展開してクロスを狙っていた。

・広島のハイプレスへの対抗策
このように広島はビルドアップで川崎を突破すると縦に速く攻める。こうすることでボールを敵陣に運び、ボールを奪われても高い位置でハイプレスを再開できるため四局面がスムーズだった。

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広島のハイプレスは両シャドーがCBへプレッシャーをかけCFのジュニオールサントスが少し下がって橘田を捕まえる役割だった。しかしジュニオールサントスが橘田をフリーにしてしまうことが多く、広島のCHは川崎のIHを捕まえるため橘田はフリーになれる。この24分45秒で小塚のマルシーニョへのパスが通らなかったように、フロントエリアで橘田が前を向けてもその先でミスをしてしまうことが多かった。

このハイプレスを川崎はどう突破しようとしたのか。おそらく狙っていたのはロングボール。その狙いは2つ。1つめは定番のダミアンで3分35秒や7分30秒など。ただ最近のダミアンはあまりここで収めることができず今節もそうだった。そしてもう2つめは広島のWB裏だ。

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広島は両WBが川崎のSBに縦スライドでプレッシャーをかける。このWBが縦スライドしてくるタイミングが速く、SBにボールが入る前から高い位置を取っていた。そのためSBにボールが入った頃にはパスの出しどころが無くなっていた。しかし逆に言えばWBの裏にはスペースがある。それを利用したのがこの10分15秒のシーンだった。ただロングボールだと時間もかかりトラップも難しいため、このWB裏へのロングボールからチャンスになることは少なかった。

このように川崎は広島のハイプレスを効果的に突破することができなかった。先述したように川崎が狙っていたのはロングボールだったと思うが、個人的にはボールを保持したいチームなんだからハイプレスをショートパスで突破してほしい。それが1度だけあった。

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ソンリョンから山村へのパスがずれたことで、ご覧の通り広島のプレスに配置上はハマってしまった。しかし山村は山根とワンツーでボールを受け直してダミアンへ縦パス。ダミアンは小塚に落としてビックチャンスになった。先述したようにWBが高い位置にいるためハイプレスを突破できるとWGがサイドでフリーになっている。

今節の広島のようにマンツーマンでインテンシティ高くハイプレスをかけてきた場合はレイオフやワンツーなどで自分をマークする選手の視野外から動くとフリーになることができる。今後も札幌や鳥栖がマンツーマンでハイプレスをかけてくると予想されるので、それまでにチームとしてどうハイプレスを突破するのか構築しておきたい。

2.後半~攻略できたIB付近~

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後半特に75分以降はオープンな展開となり両チームがボールを失いカウンターを受けるという試合展開になった。今節で7試合めだがほぼ毎試合これを書いている気がする。ちなみに川崎は全得点12点中8点が後半に生まれたもの。
オープンな展開になったことで両チームとも計画的に意図的にボールを運ぶシーンが少なくなり、EPPも減少し広島は17.2で川崎は12.5となった。PPSも両チームとも50を超え高い数字になっている。パスヒートマップで特徴的なのは川崎の左ハーフバイタルに3本と広島の右ファジーゾーンに7本だ。

・5バックスライド中のハーフバイタル
川崎は後半に左ハーフバイタルに3本のパスが入っていた。これは5バックのスライドを利用したものだった。

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まず後半開始すぐ45分35秒のシーン。山村から谷口にボールが渡り広島はスライドする。この時5バックは先述したようにWBが速い段階で縦スライド。このWB裏を使われないように野上がすぐマルシーニョの方へスライドした。しかし逆に野上が早めにマルシーニョへスライドしたことで小塚がフリーになり谷口から縦パスが入った。下の48分40秒も同じようなシーン。

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このほかにも53分50秒なども同じようなシーン。前半は小塚が低い位置に降りるとCHが捕まえ、高い位置ではIBが前に出て潰していた。しかしそれはIBが川崎のWGにスライドせずにハーフレーンでステイしたから。後半のこれらのシーンではIBがWGまでスライドしており後半から修正した部分だったかもしれない。

・IB裏も使えそう
前半ではWB裏が使えそうだと書いたが後半はIB裏が使えそうだった。

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55分45秒のシーン。小塚がフロントエリアで前を向いたときに家長が降りてくる。それに野上がついて行きできた裏のスペースへマルシーニョが走った。シュートには至らなかったが惜しいシーンだった。47分25秒にもIBが前に潰しに行った裏にスペースができており、このIB裏も積極的に使っていきたかった。

前半は広島のハイプレスに苦しんだ川崎だったが、後半になると5バックの強みである縦スライドとライン間への潰しを逆手にとって攻撃するシーンが増えた。この時間帯でゴールまで至らなかったが、これ以降広島はハイプレスよりもミドルプレスや撤退守備をすることが増え、敵陣に押し込む時間があった。そして80分くらいからオープンな展開になり山根がダメ押しゴールで勝利した。

3.まとめ

後半はオープンな展開になるまではボールを保持してチャンスを創り出せた川崎だが、それも広島のインテンシティの低下や先述した変化によるものだったと思う。また前半もトランジションでは広島に上回れていたしハイプレスをまともにくらってしまった。昨シーズンの後半くらいから内容が悪くても勝てる試合が多くなった。それはもちろん良いことだし続けていきたいが、内容も改善していかなければならない。特にビルドアップのところ。今後は選手によってではなくチームとして改善していきたい。
最後までお読みいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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