見出し画像

ペナルティーエリアはサッカーにおいてどれほど重要なのか


3月22日から約1週間は日本代表の試合がありました。日本は五輪にも出場するためU-24の代表活動もありA代表と合わせて4試合が行われました。A代表初戦の韓国戦の2点目は鎌田選手がドリブルでペナルティーエリア内(以下PA内)右に運びグランダーのシュート。そのシュートが左角に入りました。このとき韓国のDFはドリブルする鎌田選手に対して距離を詰めずバックステップを踏んで鎌田選手を簡単にPA内に進入させていました。PA内であれほど時間とスペースがあれば鎌田選手にとっては簡単なシュートだったかもしれません。

このシーンは極端な例ですがサッカーにおいてPA内は非常に重要です。それはPA内でファールをしたらPKになるというルールからもわかります。では実際にPAはどれほど重要なのかデータで見ていきたいと思います。
なお今回使用するデータはJ1リーグでは2020シーズン、欧州では2020-21シーズンのもので1試合平均のデータです。
またNeilSさまの以下の記事を参考にさせていただきました。


1.PAの重要性

PA内に侵入することができればゴールにも近づくため、シュートが打ちやすくまた入りやすくなると考えられます。これを検証するためにPA内侵入回数とゴール、シュート数の相関係数を調べました。
相関係数とは二つのデータの相関関係の強さを示すもので-1以上1以下の値で表されます。0に近づくほど関係性は弱く、逆に-1や1に近いほど関係性は強いことを示します。

画像1

画像2

これはJリーグのデータです。相関係数はゴール、シュート数ともに0.8を超えているためPA進入回数はそれぞれかなり強い相関関係があることがわかります。PAに侵入する回数が増えればシュート数が多くなるということです。あたりまえのことですがデータで証明できたと思います。ここで一つ補足するとこういう分析をする場合ゴールよりもゴール期待値を使用した方が良いのではと思われるかもしれません(シュートを打つ人の能力という別の要素が関係するから)。しかしゴール期待値の計算にゴールまでの距離も含まれているので不適だと考えました。

画像3

画像4

これは欧州5大リーグ全チームのデータです。欧州5大リーグのPA進入回数のデータが見つからなかったのでPA内タッチ数で代用しJリーグと同じことをしました。すると相関係数はゴールで0.829でシュートでは0.901と以上に高い数字となりました。相関係数が0.9を超えるのはサッカーのデータでは初めて見ました。

Jリーグの18チームだけでなく欧州5大リーグの99チームでも同じ結果が得られたのでPAがどれほど重要なエリアなのかわかりました。つまり攻撃側はどのようにPAに進入するか、守備側はどのようにPAに進入させないかがサッカーの攻防で最も重要だということだと思います。

2.J1リーグでPAを上手く使えてなかったのは?

PAの重要性が再確認できたところでPAを上手く使えているのはJ1リーグでどのようなチームなのか見ていきたいと思います。

画像5

横軸は1試合平均のゴールです。縦軸はPA内でのシュート数をPA進入回数で割った値。つまりPAに進入したときにシュートを打つ確率を示しています。この値が高いほど効率良くPAに進入できていると考えられます。なお川崎はゴール数が多く1チームだけ離れた位置にいるので今回は削除しましました。ちなみに値はゴールが2.6でPAシュート/進入は58.5%です。

マリノスは極端に右下に位置しています。つまりPAに効率良く進入できていないけどゴールは多いということです。札幌の方が平均に近い位置ですが札幌にも同じことが言えます。この2チームはPA進入回数が2位と3位です。つまりPA進入の質は悪いけど量でゴールを多くしていました。マリノスは得点よりも失点が問題で低迷したので質を要求する必要はないと思います。しかし札幌は量はあるのだから質を高めればゴールを増やし上位進出ができたかもしれません。

一方で左上にいる大分、仙台、湘南の3チーム。この3チームはゴールのワースト3位ですが、PA内シュート率は高い数字を残しています。もうおわかりだと思いますが彼らは質が良いのに量が少なかったということです。彼らはワースト3位のPA進入回数でこの3チームだけ1ケタでした。仙台は失点も多かったですが湘南と大分は失点に関しては悪くなかったので量を増やせばもっと良い順位で終わることができたかもしれません。

PA進入の質を上げることはシュートを積極的に打たせる意識付けなどで改善できると思いますが、量を増やすことは簡単ではありません。大分は疑似カウンター戦術のため自陣ポゼッションから抜け出せずPAに進入できなかった。湘南と仙台は支配率が16位と18位で攻撃する時間が少なく進入できなかった。しかし17位の東京はそれでもしっかりと得点できている。この2チームはショートカウンターのシュート率は17位と18位でロングカウンターのシュート率は17位と15位。攻撃時間が少ないのにカウンターも上手くいかなかったことがPAに進入できなかった原因だと思います。

まとめると
・マリノスと札幌はPA進入の量で勝負
・札幌は質も上げたい
・大分、湘南、仙台は質で勝負したが量が少なすぎた

3.PA内シュートとGA内シュートの割合

ここまではPA侵入回数が多いほどゴールも多くなるということを見てきました。次はPA内やGA内のシュートについて見ていきたいと思います。当然これらのシュートが増えればゴール数も増えます。J1リーグのゴールとPA内シュート数、GA内シュート数の相関係数はそれぞれ0.886と0.705です。ではこれらのエリア内でのシュートが全てのシュートに対しての割合が高いチームはどこでしょうか。

画像6

まずこのデータとゴールに相関関係はあまりないことがわかります。つまりPA内でのシュート数が多ければ良いのであって全てのシュートに対するPA内のシュートの割合は高くても低くてもゴールには関係しないということです。

さらにほとんどのチームはPA内シュートの割合が60%前後つまり全シュートのうち6割はPA内シュートだということです。しかしこれまたいくつか外れたチームがあります。特に外れているのは大分と名古屋です。

大分はPA内シュートの割合はリーグNo1の数字。しかしゴールは少ない。ここで一つ前のPA内シュート率と一緒に考えてみると、大分は自陣でポゼッションする時間が長く敵陣でプレーする時間が少ない。従ってPAに侵入する回数も少ない。しかし敵を自陣に誘き出しているため、一回敵陣までボールを進めることができるとPAに侵入しシュートを打つことが容易になる。そのためPA内シュート率もPA内シュートの割合も高いということになります。

一方で名古屋はPA内シュートの割合とゴールどちらも低い数字です。ということはそもそものシュート数が少ないためゴールも少なかったと考えられます。さきほどのPA内シュート率もワースト3位。攻撃において名古屋はPAに侵入してより多くのシュートを打つという伸び代があると言えます。そこで今シーズンはPA内に侵入してシュートを打つことができる攻撃陣を補強したということでしょう。個人的に今シーズンは名古屋が優勝だと思ってます。

画像7

GA内シュートの割合はPAと違ってチームによってばらつきがあります。ここで注目すべきは東京です。ここまで特に話題にならなかった東京ですがGA内シュートの割合は高い数字になっています。PA内シュート率もPA内シュートの割合も平均的だった東京ですがGA内シュートの割合はリーグ4位です(この散布図も川崎を削除してあり値は10.1%です)。この解釈の仕方は難しいですが私は東京が他のチームよりもPAに進入した場合さらにGAに進入する確率が高いと解釈しました。PAに進入する能力は平均的ですがPAに進入すると高確率でGAにも進入しシュートを打っているためこのようなデータになったと考えられます。

まとめると
・ほとんどのチームは6割がPA内でのシュート
・大分は敵陣にボールを運べれば高確率でPAに進入してシュートができた
・名古屋はもう少しPA内で積極的にシュートを打ちたい
・東京はGAに進入してからシュートを打つことが多い

4.まとめ

今回PAは重要だというあたりまえのことをデータで検証してきました。あたりまえのことでもデータで検証するといろいろわかってくると思います。今回上手く言語化できた自信はありませんが最後まで読んでいただきありがとうございました。

5.データ引用元

https://www.whoscored.com


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?