マイ・ブロークン・マリコ(ネタバレ)
公開 2022年 日本
監督 タナダユキ
出演 永野芽郁 奈緒 窪田正孝
個人的には「百万円と苦虫女」に代表される女の子ががんばる映画撮りがちな人なのかと思ってたけど「ふがいない僕は空を見た」とか「ロマンスドール」とか意外とそうでもないタナダユキさんの最新作。
ヘビースモーカーの永野芽郁と売れはじめの奈緒さんが話題になりましたね。知らんけど。ちなみに恥ずかしながら奈緒さんの存在は知りませんでした。過去の出演作全然見てない。「半分、青い。」と「あなたの番です」で有名になったらしいんですけど、両方見てなかったからなー。
話の内容は結構重めだけど全体の雰囲気が軽いので、わりとラフに、というと語弊があるけど、まあ気分も落ち込まず暗くならずに最後まで見れました。奈緒さん演技うまかったです。以下ネタバレ。
1.直葬…?産地?
ブラック企業で働くシイノ(永野芽郁)。伏黒甚爾がたこ焼きを食べていた中華料理屋でラーメンを食べていると、イカガワマリコという女性が自宅マンションから飛び降りて死んだニュースを目にする。
イカガワマリコはシイノの友達だった。震えた手で彼女にLINEを送り、電話をかけるシイノだったが、もちろん出るはずもなかった。
次の日マリコのマンションを訪れると、すでに荷物は親族に引き取られた後だった。葬式は行われず、遺体は直葬になるという。マンションの前には2本ばかりの花が供えられていた。生前、1分と経たないうちについていた既読は、1日、2日と経っても未読のまま。
シイノは今からでも彼女のために何かできないかと考えた結果、包丁を持ってマリコの実家に乗り込むことにした。
学生時代、公園で花火をする約束をしたシイノとマリコ。
待ち合わせ時間になってもマリコが現れないので、家に様子を見に行ったシイノは、ドアの中から聞こえる父親の怒号を耳にする。その時マリコの父親が彼女を虐待していることを知ったシイノは、ドアを叩き開けろと叫ぶ。怒号がやみ、マリコが静かにドアを開けて顔を出す。そして彼女はか細い声で「今日無理になった」と謝るのだった。
2.エクストリーム・セールス
訪問営業のふりをしてチャイムを鳴らすと、出てきたのは再婚相手のタムラキョウコ(吉田羊)だった。「話だけでも聞いてくれないと鬼クソ上司にクビにされちゃいます」というとキョウコは笑って家にあげてくれた。タムラさんは優しい人っぽい。もっと早くこの人と再婚していればとシイノは思った。部屋の奥へ進むと、マリコの遺骨の前には父親(尾美としのり)が座っていた。
高校の時父親に犯され、それが原因で母親が出ていってしまったと話すマリコを思い出したシイノは、親父に猛烈タックル。遺灰の箱を奪いとる。親父もブチ切れて襲いかかってくる。てか誰だってなってる。タムラさんは必死に親父を制している。いい人である。
激昂する親父に向かって包丁を向け、「高校生の時、実の娘を強姦したてめえに、中学生だった実の娘を奴隷扱いしやがったてめえに、小学生だった実の娘から母親を奪ったてめえ、てめえに!てめえに弔われたって、白々しくて反吐が出んだよ!」と叫ぶシイノ。父親の目からは、その姿が一瞬マリコに見えていた。
そして「マリコの幼馴染のシイノトモヨ。てめえを屠る者の名だ」と自己紹介を済ませ、遺灰を抱えたままベランダから飛び降りる。
マンションの裏は土手になっていて、斜面を転がり川に落ちたシイノ。歩いて川を渡り対岸へ。そのまま走って家に帰った。
一方シイノが去ったあとのイカガワ家では、タムラさんが「あんたが全部悪いんだからね。実の娘に変なことするから」と親父を叱責している。いい人である。親父は泣いているようだ。
3.骨壷と話す女
押入れの奥にしまってあった箱をひっぱりだすと、中には大量のマリコからの手紙。マリコは手紙を書くのが好きだったのだ。切ない。
シイノは昔行こうと言っていた海に彼女を連れて行くことにして、荷造りを始めるものの、靴をイカガワ家に置いてきてしまったことに気づく。靴は一足しか持たない。それがシイノ流だ。知らんけど。仕方がないので、「初めてのバイト代で買って履き倒したドクターマーチン」を召喚。
ダサいトレンチコートとリュックを背負ってその日の夜に出発したシイノ。夜道を仰々しい遺灰の入れ物を持って「海っつってもなあ」とか「ハワイとか行きてえなあ」とかぶつぶつ言いながら歩く姿は不審者そのもの。返信のないLINEに「マリコはどこの海に行きたい〜?」と送って、マリコ以外に友達のいないシイノは泣いた。泣きながら「まりがおか岬」に行ってみたいと言っていたマリコを思い出し、高速バスへRIDE ON。
翌朝になり電車に乗り換える。上司から電話がかかってくるが当然無視。うたた寝したら「シイちゃんに彼氏できたら死ぬから」っていうある日のマリコの夢を見てなんとも言えない気持ちになる。
そこからまたバスに乗り換えて、可愛い女子高生に手を振ったりしつつまりがおかに着き、海の音を頼りに歩き出した瞬間、なんと原付バイクの黒づくめ男にリュックをひったくられてしまう。
そこへ偶然通りかかった窪田正孝に「大丈夫ですか」と声をかけられるが、大丈夫なわけはない。財布もスマホもリュックの中。何よりマリコからの手紙が全部入っている。走って黒づくめ男を追いかけるシイノ。
バイク相手に追いつけるはずもなく戻ってくると、窪田正孝が遺灰の箱を見張ってくれていた。ありがとうございます。しかも財布を取られたシイノにお金まで貸してくれた。ありがとうございます。お金を返すため名前と連絡先を聞いたシイノだったが、「名乗るほどの者じゃございません」と言って去っていく窪田正孝。しかし肩から下げたクーラーボックスにめちゃめちゃでかく名前が書いてあった。“ナリタ商店 マキオ”と。太マジックで。
4.そうだよ(便乗)
借りた金でビールを飲むシイノ。酔っ払った彼女はマリコの幻を見る。マリコは「あの人かっこよかったね。結婚するならああいう人がいいな。でもあたしのことを好きになってくれるんなら、どんな人でも我慢するよ」と言った。「あんたにはあたしがいたでしょうが!(金八)」とシイノは叫んだ。
翌朝ボートの上で目覚めたシイノ。そこへマキオが現れて、「歯磨き、好きなんですよ」と言って歯ブラシをくれた。そして自殺をしにきたと思われて「ご自分のこと大事になさってください」と言われる。
大人になったマリコは、次々とろくでもない男と付き合っていた。ある時はシイノが間に入ったこともあった。暴力モラハラ当たり前。それがマリコの人生だった。
5.大丈夫論争
まりがおか岬を訪れたシイノは、幻のマリコと抱きしめあった。
だったら何であたしを置いてった。せめて一緒に死んでくれって、何で言ってくれなかったんだ。まだ言いたいことがこんなにあるのに。
死んでちゃわかんないだろ、とマリコの遺灰に向かって叫ぶシイノ。
「腹立ってきた。お前はあたしが飛び降りるのを指くわえて見てろ」と言って崖に向かって歩き出す彼女を、こっそりついてきていたマキオが慌てて止める。二人でわちゃわちゃなってる時に、「助けて!」と声がした。あの時の可愛い女子高生が黒づくめひったくり野郎に襲われている!ここで会ったが百年目、野郎の頭をヘルメットごと骨壷でドーン!
空に舞った遺灰をつかもうとして、シイノは海に落ちてしまう。
「けっこう死ねないんですよ、ここ」
砂浜に打ち上げられたシイノにマキオは言った。マキオも半年前ここから飛び降りたらしい。
翌日警察署の人から、助けた可愛い女子高生からの手紙を受け取る。
「このご恩は一生忘れません」と書いてある。キュン。まりがおかを出る駅のホームで、マキオからの差し入れをもらう。
電車に乗るなり速攻で食べる。
自宅に帰ってきたシイノ。
職場には退職届を持参したが、鬼ブラック企業なので辞めさせてもらえなかった。松葉杖をつきながら営業を回り、伏黒甚爾の中華料理屋でビールを飲んだ。ある日家に帰ると、ドアに紙袋が下げられていた。中には革靴と、封筒が一枚。差出人は、タムラキョウコ。マリコの親父の再婚相手だ。
封筒を開け便箋を取り出すと、中からまた小さな封筒が出てきた。
「シイちゃんへ」と書いてあった。
シイノは手紙を読み、笑い、そして泣いた。
感想
遺灰を撒く旅のあれやこれと、マリコとシイノの今までのあれやそれを交互にお送りするシンプル構成。台詞回しの妙とマリコ&シイノの平和な会話がとんでもなく尊いので良し。「大丈夫に見えますよ」も女子高生の手紙もかなりポイントが高い。尊ポイント。
全体を通して永野芽郁の口が悪い。キャピキャピ元気なJKか眉間に皺よせて半分口開いてるJKの永野芽郁しか知らなかったので泡食いました。
奈緒の演技が上手すぎてもうそういう子にしか見えない。お昼の番組で見た時幸せそうに何か食べてて胸がキュッてなりました。よかったね、マリコ。
全体的にレベルの高い映画だけど「このシーンが特にいい」とか「この台詞が印象的」とか取り立てて書くほどの部分がないのがちょっと残念なところ。
ちなみに原作は表紙しか知らなくて、勝手に魚喃キリコとかそっち系のレディコミなのかと思ってたら全然違いました。絵のタッチもどっちかって言ったらコミカル寄りでした。
あ、そういえば最後の手紙の内容、明かされないのよね。結局。
果たして内容が本当にあるのかどうかは知らんけど。
あそこで「ご想像にお任せします」ってすると、結構個人的には凡作になりがち。あの手紙に印象的な言葉が一個でもあれば名作になったのになー。
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