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流浪の月(ネタバレ)


公開 2022年

監督 李相日

出演 広瀬すず
   松坂桃李
   横浜流星
   多部未華子

凪良ゆうの同名小説の映画化。監督は「フラガール」「悪人」の李相日。
小説が有名な本作ですけど、Netflix配信始まったので観ました。すずちゃんってこんな演技うまかったんだ。
凪良ゆうって元々BL小説で有名な人らしいです。この「流浪の月」も、元々あったBL小説をベースに書いたとのこと。以下ネタバレ。



忙しい人のためのあらすじ(ネタバレ)

19歳の大学生が9歳の少女を誘拐した事件。犯人逮捕から15年後、大人になった元少女の更紗は、偶然犯人の元青年の文と再会する。悪いのは性的虐待をしていた更紗の従兄で、文は悪くなかった。でも世間は見たいように彼らを見たので、二人は流浪人になるしかなかったでござる。


忙しい人のための感想

・すずちゃん演技うま〜
・文くんかわいそう
・バッドエンドじゃなくてよかった本当に


登場人物

家内更紗(広瀬すず)
本作の主人公。24歳。15年前の誘拐事件の被害者少女。

佐伯文(松坂桃李)
準主人公。誘拐事件の犯人とされる男。現在はカフェを経営している。

中瀬亮(横浜流星)
更紗の彼氏。社会人。

谷あゆみ(多部未華子)
文の彼女。


概要

15年前の誘拐事件

昔々、公園で「赤毛のアン」を読む少女(白鳥玉季)がいた。
急に雨が降ってきたが、とある事情で家に帰りたくなかった少女は気にせず本を読み続けた。そこへ、青年・佐伯文(さえき・ふみ/松坂桃李)がやってきて傘を差し出した。
雨を気にしないタイプの子供は普通に心配なので「大丈夫?帰らないの?」と青年は声をかけたが、
「帰りたくない」と少女は言った。「うち来る?」と文は言った。
飲み会の帰りならば単なるお持ち帰り案件であるが、当時の少女は9歳、
文は19歳である。別の意味で案件になってしまう。

それから、二人は青年の家で生活を共にする。
冒頭の少女の感じから一転、憑き物がとれたようにおてんばフリーダム娘へと変貌した少女は、夕食の献立にアイスを要求したり、家の浴槽で水泳したり、口の周りをケチャップまみれにしながら食事したりした。雨を気にしないタイプの子供とは思えない陽気さだ。
一緒に食事をし、一緒に映画を見て、一緒に本を読み、一緒にコストコのバカみたいにデカいアイスを食べ、そんなこんなで二人は絆を深めていく。
「ずっとここにいていい?」という少女に、文は「いいよ」と返した。
(ベーコンエッグにケチャップを死ぬほどかけて食べる少女に引いてるシーン、その後の「試してみる?」「いい(即答)」っていうやりとり含め、池袋ウエストゲートパークのマコトとカナを彷彿とさせましたね)

しかしそんなラノベのような日々も長くは続かない。
二人の生活を知る由もない少女の親族たちはもちろん警察に届けを出し、彼女の失踪は大々的に知られることになった。
ほどなくして、二人は湖で身柄を確保された。

少女の父は少女がもっと少女の頃に病気で亡くなり、母は恋人とどっかに行ったので、少女は伯母の家で暮らすことになった。伯母には息子がいて、この息子が夜な夜な少女の体を触りに来るのだという。だから「帰りたくない」と彼女は言ったのだ。

しかーしそんなこと当人以外は誰も知らない。
少女が誘拐事件の被害者として世間に知られたように、文は少女誘拐事件の犯人として世間に知られることになった。


家内更紗(少女)

15年後、24歳になった少女・家内更紗(かない・さらさ)広瀬すずになり、飲食店でバイトをしていた。イケメンの彼氏(横浜流星)もできたし、結婚の話も出てる。幸福な人生そのもの。顔は広瀬すずだし。

ある日、バイトの飲み会の二次会で行ったカフェで、店長をしていた文(松坂桃李)に再会。その目を疑う。そんなことある?
それ以来更紗はそのカフェに通うようになる。

もちろん自分が家内更紗であることを明かさず普通の客に擬態していたわけだが、突然現れた彼氏が「更紗」と名前を呼んだことによって、多分バレてしまう。文はノーリアクションだったが、更紗なんて名前他にいるわけがない。しかも過去に自分が(世間的には)誘拐した少女の名前である。元カノとはわけが違う。
バレてしまったと思った更紗は、店の前で文を待ち伏せる。雨の中傘もささずに。雨を気にしないタイプの人に戻ってしまったのだ。
店から出てきた文は女性(多部未華子)と一緒だった。暇だったのでついていったら、同じマンションに帰っていったので、どうやら恋人のようだ。
なんとも言えない気分で帰ったら彼氏のおばあちゃんが倒れたというので、一緒に里帰りすることに。そこで親戚の若い女の子に、あいつはDV癖があるという話を聞く。心当たりしかない更紗。
案の定、現在の文の情報をネットに流したことを更紗が責めると、逆上した流星は彼女の顔面を殴打、平手で何度か叩いた後、我に帰ったように「更紗、更紗」と言いながら体を求めるという、典型的なDV男のそれであった。

どれだけ文がつらい思いしてきたか!
自分のやってることわかってる?
やっと文が手に入れた幸せなのに!
何で?おかしいよ

犯されそうになったところをなんとか逃げ出した更紗は、15年前文が警察に逮捕される直前、更紗にかけた言葉を思い出していた。

更紗は更紗だけのものだ
誰にも好きにさせちゃいけない

そう言って、文は更紗の手を強く握ったのだ。


佐伯文(青年)

15年後、34歳になった佐伯文は、カフェのマスターをしていた。
19歳の夏、公園で雨の中傘もささずに本を読んでいる少女がいたので、声をかけた。帰りたくないというので家に置いた。帰りたくなったらいつでも帰っていいと言ったが、少女は帰らなかった。ずっとここにいたいと言った。文は拒まなかった。
数ヶ月後、湖で遊んでいるところを警察に見つかり逮捕された。
もちろんその間、更紗には一度たりとも危害を加えていない。写真や動画を撮ったりもしていない。それでも逮捕され、文は少年院に送られた。

少年院から出て家に戻ると、文専用の離れが用意されていた。
外に出ることは許されず、食事だけが運ばれてきた。そうして、文はしばらくの間引きこもりを余儀なくされた。


中瀬亮と谷あゆみ

更紗の彼氏のイケメンサラリーマン。更紗に亮くんと呼ばれる。
亮くん的には婚約者らしいが、果たして本当に婚約を結んでいたのかはわからない。

初登場時から怪しさはあったものの、
文と再会した更紗の心の微妙な変化に気づいたのか、彼女の職場に電話してシフトを聞く、“口答え”という言葉を使うなど、徐々に本性を現していく。
佐伯文の存在にも早々に気づいており、更紗と引き離すべく文の情報を悪意ある形でネットに流した。

彼女を殴って即出ていかれてからは、ショックで会社にも行かなくなり引きこもりになった。
最後は訪ねてきた更紗に「お前といると自分が嫌になる」と呟く。そのわりには、彼女が去るとわかると手首を切ってまで引き止めようとして未練がすごい。
担架で運ばれていく亮を、更紗は見捨てられなかった。
しかし亮は「もう、いいから」と諦めたように手を振り払った。
彼が見せた最後の優しさだった。彼もまた、抗いようのない自らの本性と闘いながら生きていたのかもしれない。

親族からは好かれていたようだが、彼の本性は周知の事実であった。恋人に対し異常な支配欲があり、これまでにも更紗のように居場所のない女性ばかりと付き合っては、暴力を振るっていたようである。

文の恋人だった谷あゆみ(多部未華子)は、文の過去を一切知らずに彼と交際。
文から求められることはなく、昼下がりに椅子に座っている文に後ろから抱きしめてキスをするなど彼女の方から変なきっかけを作ることも多かったが、ついに最後まで性行為に至ることはなかった。

文と更紗の関係をひと足遅く知った彼女は
「吐きそうになったし、そんな人を好きになった自分にゾッとした」と発言。しかしどちらかといえば、文がはじめから自分は恋愛対象でないと知っていたことに憤りを感じていたようだ。文自身も「僕は幼い女の子しか愛せない。大人の女性も愛せるかどうか試してみたかった」と言っている。

更紗も同じだ。
更紗は、自分を好きになってくれた亮に感謝こそすれ、恋愛感情を抱いてはいなかった。
二人とも、誰かを愛すことに難しさを感じていたのだ。


15年後のふたり

亮に殴られ家を出た更紗が向かったのは、文のカフェだった。
裸足で座り込む更紗に、文は大丈夫か、と声をかける。見た目ほどすごくないから、と彼女は答えた。
15年ぶりの会話だ。カフェのマスターと客としてではなく、家内更紗と佐伯文として。

更紗は、この15年間、文の人生を壊してしまった罪悪感に苛まれていたと語った。事件直後の取り調べで、文には何もされていないと話しても誰も信じてくれなかったこと、従兄の虐待をどうしても話せなかったことを打ち明ける。


更紗、今でも夕飯の時アイス食べる?

ーもう子供じゃないから

更紗は文の住むマンションの隣の部屋に引っ越した(ドン)

文「自分が住みたいところに住めばいいよ(ニッコリ)」

スワンボートに乗りながらセックスが嫌いな話(ドドン)

バイト先の同僚が最近できた彼氏と沖縄に行くので、その間同僚の娘・梨花を預かることになった更紗。
そんなわけで、更紗&文&少女のラノベみたいな日々、リスタート!!


流浪の月

世間は、現在の更紗と文を良くは思わなかった。
亮くんが流した彼女たちの情報は瞬く間に広がり、住むマンションもバレて、文の店の扉に落書きされ、「」と週刊誌にまで載る始末。

手首を切った亮の件で更紗が警察に行ったことで、
てか、誘拐事件の犯人の性的倒錯者とまた一緒にいるみたいだけど、大丈夫そう?と高圧的な警察。
しかもさあ、また女の子一緒だよね?
文は何もしてないと今回も訴える更紗だったが、15年前と同じく、誰も聞く耳を持たない。文と梨花のもとへ警察が向かう。

更紗から預かった梨花が連れていかれてしまう。
梨花は文と離れるのを嫌がり、彼の名前を叫んでいる。
15年前と同じ。

離して…離せ!
もうやめてくれ!
文は叫んだ。数人の刑事たちに体を抑えつけられながら。
しかし抵抗もむなしく、梨花は警察に保護された。


                    ・・・
文がまだ幼かった頃、庭に植えた木が貧弱ではずれだと言って、文の母はその木を抜いてしまった。
文はその木と自分を重ねていた。
半ば文を見捨てた母親に、文は尋ねた。
「やっぱり僕は、はずれですか?」


荒れた店内の隅でうずくまる文に、更紗は語りかける。
自分のせいで文を傷つけて、文の人生を壊しても、それでも文と一緒にいたかったのだと。湖で繋いでくれた手の感触を頼りに、これまで生きてきたのだと。

すると、文はおもむろにシャツのボタンを外しはじめた。
そして一枚ずつゆっくりと、震えながらすべての服を脱いだ。

長い手足と痩せた体。
そして、幼いままの陰茎。

   ・・・
「俺ははずれだから」

更紗に知ってほしかったとむせび泣く文を、更紗は抱きしめた。


「いいの? 俺といたら、どこにいても…」

「そしたらまた、どこかに流れていけばいいよ」

〜fin〜


感想

広瀬すずはアイドル女優はではなく超演技派女優であるということを思い知らされるいい映画でした。
ま〜じで演技うまかったな、広瀬すずと松坂桃李。

すずちゃんは文のカフェに亮くんが乱入してきて「更紗が飲んでるのは?」って名前を言っちゃった時に、
“あーバレた絶対バレた”っていう戸惑いの表情と、視線を上げずに笑顔のまま「1番」って答える演技がえぐかった。
(ちなみに、カフェの名前calicoは、スペイン語で更紗(インド発祥の木綿布)という意味らしい)

桃李君はどっからどう見ても佐伯文。
梨花ちゃんが連れていかれる時の「もうやめてくれ」は痺れたなあ。
文って本当に何もしてないんだもんなあ。

映画の中では文の最後に見せた未発達の体について、詳しく説明はなかったけど、原作では第二次性徴が来ない病気と記述がありました。
ネットで調べると、性腺機能低下症、クラインフェルター症候群、小陰茎症…とか色々出てきます。
思春期を過ぎ、周りが心身ともに大人になっていくに従って、自分だけが取り残されているという劣等感が生まれ、自分と同じように未発達な幼い女の子としか普通に接すことができなくなってしまったって感じなのかな。
ロリコンとは似て非なるものではあるけど、消去法で結果的にロリコンと言われる存在になってしまったと。

でもマジで、考えうる中で一番いい終わり方だった気がするので、それは救われました。
小説では二人の関係が愛とか恋とかそういうのじゃないとハッキリ書かれてたけど、映画では明言されてないのも個人的に好きです。
できれば最終的には結婚してほしいです。

あ、てか、少女時代の更紗役の子めっちゃ良かったね。白鳥玉季ちゃん。
「凪のお暇」で吉田羊の娘役やってた子なんだけど、
この子もむっちゃ演技上手な。文の家でめっちゃ寝て最初に目覚めた時の「じっと見られてると怖いよ」って台詞の声のトーンがかなり将来有望だった。

なんか最近演技のうまい若手の俳優増えてないですかあ?
最近邦画が面白いわ。これから「怪物の木こり」観ます。


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