最近の記事

刑事事件を原因とする損害賠償が抱える課題

先日このような記事を目にしました。 この記事に、 と書かれていますが、この数字が何の割合を示しているのか気になりました。つまり、全額支払われた件数の割合なのか、一部でも支払われた件数の割合なのか、あるいは賠償金の総額のうち支払われた割合なのか、ということです。 その答えを知るためにネットで調べたところ、刑事事件を原因とする損害賠償が抱える課題についての理解が深まりましたので、この課題に関心を持った方々が参照できるようにここに書き残しておこうと思います。 なお初めに断っ

有料
100
    • 自分で調べる(読書メモ)

      Bellingcatの創設者であるEliot Higginsさんによる「We Are Bellingcat」を読んだ。本書は日本語にも翻訳されており、邦題は「ベリングキャット ─デジタルハンター、国家の嘘を暴く」である。訳は安原和見さん。 Bellingcatは調査報道を行っている集団で、ネット上にある誰でも自由に閲覧できる情報を主要な情報源としていることが大きな特徴だ。例えばYouTubeにアップロードされた動画に写っている建物の影の角度から撮影された時刻を割り出し、問題

      • 超翻訳(読書メモ)

        ゲーム翻訳者の羽無エラーさん(Twitter、ブログ)による「レトロゲーム超翻訳セレクト」および「レトロゲーム超翻訳セレクトⅡ」を読んだ。 ゲームのローカライズに際して行われた台詞回しや説明文の変更の事例が著者による愉快な解説付きで紹介されている。文化に合わせた配慮や、翻訳者が独自に付け足したジョークなど、ゲーム翻訳の創意工夫が見られる非常に面白い本だった。 羽無エラーさんのブログの中の「ゲーム翻訳 」カテゴリでは、翻訳の現場でどのような作業が行われ、どのような点に注意し

        • 生殖補助医療技術と法と倫理(読書メモ)

          Dov Foxによる「Birth Rights and Wrongs: How Medicine and Technology Are Remaking Reproduction and the Law」という本についての覚え書き。 この本では、生殖補助医療や不妊手術などの生殖に関連する医療における過誤について、法的な解釈および倫理的な解釈を行っている。私に法律や医療についての知識がないこと、そして初めて見る単語や言い回しやフレーズで溢れていたため、内容の半分も理解できた自

        刑事事件を原因とする損害賠償が抱える課題

          不可能な会話(読書メモ)

          「How to Have Impossible Conversations: A Very Practical Guide」という本を読んだ。作者は哲学者の Peter Boghossian と作家の James Lindsay である。 この本では、意見が食い違う相手とどのように会話をするのが良いか、といったことが書かれている。相手の気分を害さないために気をつけるべき点、相手が頑なに意見を曲げない場合の対処法など、参考になる情報が多くて面白かった。「それでも会話が成立しな

          不可能な会話(読書メモ)

          思ったこと(2021年1月23日)

          このようなツイートを目にした。 たしかに今まで大変な思いをして学生ローンを返済してきて、自分が返済し終えた後に学生ローン帳消しの議論が出てくるのを不公平に感じるのは理解できる。ただ、皆が等しく苦労するという状態は果たして望ましい平等なのかどうかは問われる必要があるように思う。(だからといって「deeply diseased」と非難してつるし上げるのはどうかと思うが。。。) では苦労して返済してきた人たちの不公平感を解消するにはどうすればよいのか。残念ながら今の私には具体策

          思ったこと(2021年1月23日)

          専門知とか(読書メモ)

          「The Death of Expertise」という本を読んだ。作者は、現在アメリカ海軍大学校で国家安全保障問題の教授をしているTom Nichols。日本語にも翻訳されており、邦題は「専門知は、もういらないのか」(訳:高里ひろ)。 この本では「知った気になってる人が増えて、専門家が尊重されなくなっている」ということが、近年の研究や作者自身の経験をもとに書かれている。米国の現状をベースに書かれているので理解できなかったり共感できなかった部分もあるが、日本にも専門家でもない

          専門知とか(読書メモ)

          左利きは病気か(読書メモ)

          最初に本を2冊紹介し、最後に頭をよぎったことを少し書こうと思う。 まずはJulie K. Noremによる「The Positive Power Of Negative Thinking」という本について。 こちらは防衛的悲観主義という概念についての本である。防衛的悲観主義とは、不安を感じやすい一部の人たちが、最悪の事態を想定した上で準備をしたり、結果にあまり期待しないようにしたり、といった戦略をとることを指す。本書の著者であるJulie K. Noremらの研究によると

          左利きは病気か(読書メモ)

          人々はどのようにして倫理的な意思決定をするのか(読書メモ)

          この本についての読書メモ。 Making Moral Judgments: Psychological Perspectives on Morality, Ethics, and Decision-Making by Donelson Forsyth https://doi.org/10.4324/9780429352621 人々がどのように倫理的・道徳的な意思決定をするのかを心理学の知見から紐解く本。作者は社会心理学者のDonelson R. Forsyth。本書の内容

          人々はどのようにして倫理的な意思決定をするのか(読書メモ)

          トロッコ問題における選択の文化的差異

          トロッコ問題についての面白い論文があったので紹介。 2020年1月21日に公開された、「Universals and variations in moral decisions made in 42 countries by 70,000 participants」という論文では、10の言語、42ヶ国から得られた70,000の回答をもとに、人々がトロッコ問題に対してどのように答えるかの異文化間比較を行っている。(ちなみに私はこの論文についてはVoxのこの記事で知った。)

          トロッコ問題における選択の文化的差異

          "The Knowledge Illusion" についての読書メモ

          「The Knowledge Illusion: Why We Never Think Alone」という本を読んだ。「知ってるつもり -- 無知の科学」というタイトルで土方奈美さんによる翻訳本も出版されている。 本の内容は、 個人一人ひとりはあまりにも複雑なこの世界を理解しきれないため、ある程度抽象化された、それぞれの「錯覚」の中に生きている。この無知を自覚して、集団としてお互いの知識を補正し合うことの重要性に気づくことで人はより賢くなれる。 といった感じ。冗談を交え

          "The Knowledge Illusion" についての読書メモ

          運と不平等 ーー「教育格差」を読んで

          松岡亮二さんの「教育格差」を読んだ。 この本の存在は著者の松岡さんによる現代ビジネスの記事で知った。こちらも面白く、本のエッセンスが凝縮されているのでご一読することをおすすめする。 「教育格差」では、近年の研究で明らかになった定量的、定性的エビデンスをもとに、親が大卒であるかどうか、首都圏に住んでいるかどうか、といった「生まれ」によって最終学歴がどう左右されるということが書かれている。特に定量的なデータとその分析は、どうしても身の回りの事例からなんとなく抱く主観的なイメー

          運と不平等 ーー「教育格差」を読んで

          ニコラス・シャンフォールの最期の言葉

          ニコラス・シャンフォールの「Maximes, Pensées, Caractères et Anecdotes」の前半部分に当たる「Maximes et Pensées 」の英訳版 (Complete Maxims and Thoughts (The Works of Sébastien-Roch Nicolas Chamfort Book 1, Translated by Tim Siniscalchi)) を読み終えた。 主に当時の社会を皮肉まじりに批評しているのだが、

          ニコラス・シャンフォールの最期の言葉

          「ジョーカー」のジョークと雑感

          セリフはこのサイトから抜粋、編集して使っている。 ネタバレがあるので未視聴の方はご注意を。 アーサーの日記に書いてあった文章 I just hope my death makes more cents than my life. 発音の似ている cents と sense を掛けたジョーク。"I just hope my death makes more sense than my life." では、「生きてることよりも死ぬことの方が納得いくもの (理解できるもの) で

          「ジョーカー」のジョークと雑感