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僕のおとうと

弟の平太が生まれたのは、僕が小学1年生のときだった。
みんなが「かわいい赤ちゃんだね」と言うけど、僕の感想は一言。

「……恐竜じゃん。」

目はママそっくりだし、鼻はパパにそっくり。でも体はウロコに覆われていて、尻尾まで生えてる。
僕はびっくりしすぎて何も言えなかったけど、ママとパパは「この子も家族だよ」とにっこり笑ってた。

平太と暮らし始めてわかったのは、彼がただの弟じゃないってこと。
たとえば、普通の赤ちゃん用の服なんて着れないから、ママが夜なべして特大サイズのベビー服を作った。靴は結局あきらめて、裸足で過ごしてたっけ。

小学校に上がった平太は、僕と一緒に通学するようになった。僕がランドセル、平太は特製バックパック。でも彼の通学姿は、近所でちょっとした観光名所になっちゃった。

平太は朝ごはんも特別メニュー。僕がご飯と味噌汁を食べてる横で、平太はステーキを平らげる。肉がないとエネルギー不足で倒れちゃうから仕方ないんだって。

学校では、とにかく目立つ。運動会のリレーでは無敵だけど、全力疾走するとゴールラインを突き破っちゃう。
給食の時間は先生の一番の悩み。平太の食欲に学校の給食室は悲鳴をあげてるらしい。

でも、いちばんの問題はケンカだ。
ある日、平太が6年生の番長にいじめられて泣いていたのを見つけた僕は、「力で負けないんだからやり返しちゃえ!」って平太を応援した。

そして事件は起きた。

次の日、平太は番長を…食べちゃったんだ。
「だってお腹が空いてたんだもん!」って平太は言ったけど、学校中が大騒ぎ。結局、平太は「特別保護施設」に送られることになった。


僕の家は平太がいなくなってから静かになったけど、寂しくて仕方なかった。
でも数ヶ月後、夜中に何かが窓を叩く音がして目を覚ました。そこにいたのは、巨大化した平太だった。

「脱走しちゃった!」と嬉しそうに言う平太。僕は思わず笑っちゃったけど、追跡してきたヘリコプターの音が近づいてきて、平太は再び姿を消した。

それからというもの、僕は秘密の森で平太と会うようになった。お弁当を持って、彼のお気に入りのおもちゃも一緒に。

「大人になったら、きっとまた一緒に暮らせるよ。」

そう言って、平太はにっこり笑う。その笑顔を見るたびに、僕は思う。どんなに変わった弟でも、平太は僕の大事な家族だ。

そして、僕はいつか彼を守れる強い兄になるんだって、心に決めたんだ。

(おわり)

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