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トランプ元大統領はなぜ支持を集めているのか?

2024年8月現在、アメリカでは大統領選挙に向けた選挙活動の真っ只中ですが、日本では「なぜトランプ氏があれだけの支持を集めているのかわからない」と考えている人も多いようです。

トランプ氏については、一般にはだいたい以下のように捉えている人が多いのではないかと思います。

  • 口が悪い。選挙の対立候補であった民主党のジョー・バイデン氏やカマラ・ハリス氏のことを揶揄するような発言も目立つ。

  • アメリカ第一主義を掲げ、国際協調を蔑ろにしている。(トランプ政権下では一度WHOを脱退している)

  • 大統領就任中は記者会見があればCNNやABC、CBSといった大手メディアの記者に対して「フェイクニュースばかり流しやがって」といつも口汚く罵っていた。

  • 環境問題に取り組む姿勢がない。世界がCO₂削減に向けて化石燃料から他のエネルギーへ転換しようとしている中、ガソリン車を推し、中国のEV車への関税引き上げを政策に掲げている。

  • 移民の流入を防ぐべく、メキシコとの国境に壁を設け、難民の受け入れも削減。また多くの不法移民が強制送還となっている。

  • 「男を女性のスポーツ競技から追い出す!」などと宣言しており、妊娠中絶にも否定的、LGBT排除の姿勢も見せており、保守的で時代に逆行しているかのようである。

こう並べると、全然良いとこなしな印象ですね。

私も2016年当時はこのように思っていて、当選が決まった時には、「こらまたえらい人が大統領になっちゃったなあ」と考えたものでした。有色人種への差別なんかも助長されるんじゃないかとか。
しかし同時にトランプ氏があのように過激で、かつある種非常に「単純化」した物言いをしていたり、わざわざ反発を呼ぶような言葉で保守の主張をしていたことに違和感も感じていました。

トランプ氏は非常に成功した実業家です。
不動産王と呼ばれ、推定資産は20億円以上とも。白人で長身で力強く、何というか「典型的なアメリカの白人エリート」に見えます。

かつてテレビ番組のホストを務めたこともあるくらいで、どのような言い方をすれば広くアメリカの一般市民に一番受けるのかくらい、誰よりもわかっている筈です。
アメリカは「Politically correct」か否かという点において非常に保守的ですから、寛容でリベラルな主張や表現をした方が、一般受けすると思われるのに。だから、あのようなパフォーマンスは意図的な演出だろうとは思っていました。

2016年に大統領に当選できた理由の一つ

トランプ氏がなぜ2016年当選できたのか。
いくつか理由はありますが、その一つはアメリカでは大手メディアが報じる内容を信じる人の割合が日本よりもずっと少ないということに関連しています。
これは1991年の湾岸戦争にまで遡ります。

湾岸戦争はイラクが隣国クウェートに侵攻したことを発端として、イラクに対し、当時ブッシュ政権であったアメリカを中心とした多国籍軍が攻撃を加えた戦争です。

本来無関係であった筈のアメリカをはじめとした西側各国がイラクへの攻撃を始めたのはなぜか。
覚えておられる人はいるでしょうか。クウェート侵攻から2か月ほど経った1990年10月のことです。「ナイラ」という名のクウェート人の15歳の少女がアメリカの議会で「イラク軍兵士がクウェートの病院から保育器に入った新生児を取り出して放置し、死に至らしめた」と涙ながらに語ったのです。
これにより国際的に反イラク感情が喚起され、多国籍軍が組織されることになりました。

ところがクウェート解放後に、なんと「ナイラ」なる人物は存在しなかったことが明らかになりました。議会で証言した少女の正体は、当時クウェート駐米大使の娘だったのです。

(ナイラを名乗る少女の議会での証言は)クウェートから業務として、アメリカ国内の反イラク感情を喚起させるように請け負った世界的PR会社ヒル・アンド・ノウルトンによる「仕込み」だったのである。

ロシアの“虐殺”に見える戦争プロパガンダ、平和ボケ日本人が見落としている現実

更に2003年。アメリカはイラクにアルカイダとの結びつきがあること、イラクが大量破壊兵器を所持していることを理由として、アメリカ主導の多国籍軍が結成され、国連安保理の決議もないままにイラクへの軍事介入を行いました。
イラク戦争です。
この戦争によって、イラクの国土は破壊され、多くの血が流されました。
イラク人だけではない。アメリカ兵も多数亡くなり、負傷し、被爆し、帰国しても障害が残って社会生活を送れなくなった兵士もたくさん出た。

このような多大な犠牲があったにもかかわらず、結局イラクとアルカイダとの結びつきは立証されず、また肝要の大量破壊兵器も発見されませんでした。
このようなことがあり、多くのアメリカ人が大手マスメディアを信用しなくなった訳です。
株式会社アメリカの日本解体計画』(堤未果, 2021, 株式会社経営科学出版)には、トランプ氏に投票したある女性の言葉(投票した理由)が紹介されています。

「それはね、イラク戦争のせい。イラク戦争のとき、彼らは『大量破壊兵器がある』と言って、嘘をついて戦争を始めたの。
(中略)
大量破壊兵器がなかったとわかった時も、ニューヨーク・タイムズはまともな謝罪さえしなかった。それも、新聞の1面ではなくて8ページ目に、その記事を小さく載せただけ。
 覚えておくといいわ、マスコミは戦争を始める、でも絶対に責任は取らない。
 だから私たちは気を付けなければならないの。
 トランプ候補はね、『マスコミの言うことなんか信用するな、私が全部、ツイッターで教えるから。直接国民に何が起こっているのかを教えるから』といったのよ」

『株式会社アメリカの日本解体計画』pp. 99-101

トランプ候補は、アメリカ国民のマスコミ不信をきちんとすくい取って、それを見事に逆利用して票につなげたのです。

『株式会社アメリカの日本解体計画』p. 102

トランプ氏が大手マスコミ各社を声高に批判し、TwitterをはじめとしたSNSで発信していた理由、支持を集めた理由にはこのような社会的背景があった訳です。
これは陰謀論でも何でもない。
検索すれば普通に大手マスコミの運営するサイトや学術論文でも説明されている、誰でも確認可能な情報です。

トランプ氏は単なる「横暴な独裁者」なのか?

トランプ氏が就任後、1年半くらい経った頃に発表されたJETROのレポートを見ると、確実に公約を実行しており、経済運営は一定評価されていることがわかります。失業率も半世紀ぶりの低い水準にまで下がったそうです。(失業率の改善については、当時の社会全体の流れもあったようですが)

経済運営については、世論調査(リアルクリアポリティクス2018年1月3日)で支持(47%)が不支持(45%)を上回る。低迷する大統領支持率に比べて、経済分野では政権のかじ取りが冷静に評価されている。全米製造業協会(NAM)が2017年12月11日に発表した会員企業の経済見通し(第4四半期)では、先行きをポジティブに評価する比率が94.6%と過去20年にわたる調査で最高水準を記録した。税制改革をはじめとする経済分野の取り組みを評価するビジネス界や経済学者の声も目立つ。在ワシントンの製造業団体の主任エコノミストは「減税策をはじめとする同政権の政策によって米国経済は引き続き成長が続く」と強気に見通す。

トランプ政権の1年を振り返る

また経団連の記事では、どちらかというとあまり良い評価はしていないもののこのように述べられていました。

現在、トランプ大統領の支持率は、共和党支持者に限れば83%にも上る。政権が抱える課題は多いが、アメリカ経済は好調であり、共和党議員の多くは、11月の中間選挙の勝利を確実視している。

「就任後500日のトランプ政権の成果と課題」

日本のテレビや新聞では、トランプ氏についてはこれまでの大統領には見られなかったSNSからの発信や政権幹部の頻繁な入れ替えといった過激でセンセーショナルな報道ばかりが目立ち、こういう実際の政策やその実績については大きく報じられることはありません。
それゆえ知られてないのは仕方ないかもしれませんが、しかし一国の、しかも世界に強大な影響力を持つアメリカ合衆国の大統領に関する報道って、もっとちゃんとすべきではないのでしょうか。

トランプ氏が掲げている政策

トランプ氏が掲げている政策について、ちゃんと読んだり聞いたりしたことのある人は日本にどれくらいいるでしょう?
日本のテレビでは、トランプ氏の映像といえば怖い顔をして「America, first!」と断言している1場面だけを見たことがある程度かもしれません。

しかしよく考えてみましょう。
たとえば移民政策。
日本ではあまり知られていませんが、米国でも欧州でも、移民政策は失敗していると言えます。
移民として入国した人々は、欧州で長年暮らすうちに自由民主主義的価値観になじみ、その価値観や習慣を受容するだろうと想定していたが、実際はそうではなかったそうです。そして雇用や治安の悪化も問題となってきました。そして「Chain migration(血縁や職業の人間関係を伴った人口移動、連鎖移住)」で増えた外国人へのケアに多額の税金が使用されています。
(参考:欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ―これから日本にも「同じこと」が起きる

英国での反移民暴動や、リシ・スナク前首相による「ルワンダの安全法案」(不法移民の強制移送を可能とする法案)、欧州各国の右派の台頭等にはこういった背景があるのです。

そしてそれはアメリカでも同様です。
だからトランプ氏は、不法移民の流入を防ぐ為に壁を設けるとか移民の受け入れを厳しくすると言っているのです。
しかし「合法的なプロセスを経てアメリカ市民になった人のことを言っているのではない」と演説では述べています。何もトランプ氏が勝手な自説と人種差別で有色人種は入ってくるな、みたいなことを言っている訳ではない。

あるいはアメリカ第一主義。
前回2016年から始まったトランプ政権の公約では、米国第一主義に基づく通商協定の締結。(TPPからの離脱、NAFTA再交渉)また中国による為替操作、米国製品の市場アクセスの妨害、知的財産の侵害の是正等を進めました。
2024年の大統領選で共和党の政策綱領に示された政策でも、米国を世界有数のエネルギー生産国にする、アウトソーシングをやめ、米国を製造大国にするといったことが掲げられています。

これ、そんなにひどいこと言ってますか?
アメリカの大統領がアメリカ国民の雇用創出の為に国内に工場を移すとか、エネルギーを国内で賄おうとするとか、自国の知財を守るために他国に是正を求めるとかって、当たり前のことではないのでしょうか。

逆に日本の政治家を見てください。
もうちょっと日本人を守る為のことをやってくれよと思いませんか?

日本には天然資源がないと言いますが、ならば日本と同じ火山帯国であるアイスランドで実施している地熱発電になぜもっと積極的に踏み込まないのでしょう。
日本の食糧需給率が低いと言われているのに、なぜ減反政策を続ける一方、カリフォルニア米の輸入が進められているの?
また、日本の被災地はほぼほったらかしで、海外への多額の援助を行うのでしょう。
2024年4月現在で日本政府による能登半島の被災地支援への総額は約4,100億円。(朝日新聞
その一方で2022年1年間でウクライナへの支援総額は1兆円を超えています。

日本人もそろそろ目を覚ますべき時が来ている

トランプ氏が本当に無茶苦茶なことを言っているのか、検証し直すと同時に、我々日本人ももうそろそろ目を覚まして、大手マスコミから発信される情報だけを受動的に受け入れるだけの状態をやめていかないと、既に欧米で起きている問題がそのままもたらされることになるでしょう。

私も普通に日経新聞を読み、テレビもちょこちょこ観ます。
別にそういった情報を締め出せと言っているのではなく、大手メディアの発信する内容は客観的でも何でもない、非常に一面的なものであり、それ以外の情報も能動的に取りに行くことをしないと、既得権益を握っている人たちに何をされるかわからない、という姿勢は持っておく必要があると言っているのです。

外国人の問題に関しては、オーバーツーリズム(観光公害)も実は同様のことが欧州で起きています。
ベネツィアで入域料を徴収するのは有名でしょうが、フランスやスペインでも大きな問題になっています。これは普通の新聞にも情報が出ていますが、どれくらいの人の記憶に残っているのでしょうか。

マスコミは如何にもリベラルな言葉を上手に使います。
耳障りの良い「グローバリズム」「サステナビリティ」といった言葉の裏で、権力者が何をしようとしているのか。

一方で、このようなこと言ったら、マスコミは何でもかんでも「陰謀論」という言葉で片付けようとします。
逆にマスコミが「陰謀論」というレッテルを貼って葬り去ろうとしている事柄に対しては、ちょっと注意をして見ておいた方が良いのかもしれません。

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