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対談企画 vol.4 漆器産地メーカー 大尾嘉漆器に学ぶ (全二回) 第2回『好奇心と実感で伝える器』


今回の対談企画は少し生産工程の川下に下り、私たちの木地師が作った器を土台に、多彩なアイデアと企画力で様々な商品を生み出す産地メーカー大尾嘉漆器さんとのお話です。

明治20年(1887年)創業の大尾嘉漆器さんは、私たち匠頭漆工が創業するもっともっと前から山中漆器を支え続けていらっしゃいます。今回は5代目代表取締役の大尾嘉孝(おおおか たかし)さんにお話を伺うことが出来ました。山中漆器の山あり谷ありの歴史を肌で感じてきた大尾嘉さんだからこそ伝えられる、機知に富んだ伝統工芸の在り方を存分に勉強させて頂きました。今回は第二回目の最終回!(第一回目はこちら>




"古典的な絵柄って全部意味があるから無茶苦茶面白い"


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-一つ一つの商品に高い熱量と想いを込めて解説をして下さる大尾嘉さん。話は拘りやアイデアがたっぷりつまった色や柄の話に。


久保出貴雄/匠頭漆工三代目(以下久保出):
大尾嘉漆器さんでは色や柄もバラエティに富んでますよね。

大尾嘉孝氏/有限会社大尾嘉漆器代表取締役(以下大尾嘉):
今までの漆のイメージって黒と朱色だったじゃないですか。その印象を変えたくて、季節感が出せる色や光沢の商品を色々作っています。例えば先ほど話した(第一回目参照)クールカップなんかは夏は海のイメージでブルー、秋は実りの秋でパープル。鮮やかな色彩展開で10色でやってますっていう部分を出すと、選ぶ楽しみがそこで生まれる。クールカップは更に清涼感も出したいのでツルっとした光沢のある表面にしました。逆に飲食店用のシックなものの表面はマット加工にしたり。他にも最近は鳥獣戯画のイラストでカップも作りました。普通の漆の光沢と合わせるときつくなっちゃうけど、マットに合わせるとすごくかわいい。あとうちで人気があるのは風神雷神ですね。風神雷神の屏風ってご覧になったことありますか? 片方に風神がおって、片方に雷神がおる。もともとは屏風の裏側に夏草の画が書いてある。風神の裏側にあるものはススキが風でたなびいているもの、雷神の裏側にあるやつは雨で濡れているものが描かれているんです。それをペアで描いて、このストーリーをつけてあげると面白いですよね。他にも瓢箪(ひょうたん)は縁起物で知られていますが、六つ描くと六瓢=無病っで無病息災となる。だから分かっている人には縁起がいいからすっごくうける!(ちなみに三つだと三拍(瓢)子揃って縁起よし!)ちなみに葡萄はなんだと思いますか?

久保出:
葡萄…なんやろ?

大尾嘉:
葡萄は粒が一杯付いてるから子孫繁栄、そして蔦の部分は縁が繋がるとか伝わるという意味があります。一つ一つがただの表面的なデザインじゃなくて、古典的な絵柄って何百通り何千通りってあって全部意味があるから無茶苦茶面白い。それにやっぱりしっかり後世に残していかなきゃって思うんです。こういう古典的な絵柄は現代風にアレンジするとすごくスタイリッシュになるしね。

久保出:
一つずつ調べたり勉強されたりするんですか?

大尾嘉:
お茶とか茶懐石とか文化から学ぶというのもありますね。こういう伝統的なものって作法とか、物の在り方、例えば絵柄の付き方も正面がこっち、お客さん側がこっち、この季節で使うものはこれって一つ一つに意味がある。何月に使う絵柄はこれっていうのも決まってたりするんですよね。一つ一つ意味や背景を理解して学ぶことが出来るんです。覚えておくといいと思います。特にお茶は絶対習っておいた方が良いと思うな。知っていてかつ理解していることで説明が出来るし、説得力に繋がるから。




“何が一番伝わるか、それは使って下さる方に実感をしてもらうことです。”


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久保出:
自社のオリジナルブランドを2018年からはじめて、今課題となっているのは、その自分たちが伝えたいメッセージをどう伝えられるかということですね。今回みたいに直接会ってお話が出来ると、その熱量とか想いが伝わるパーセンテージが高いと思うんですけど、例えば間に一軒二軒入ることで伝わり方や伝わること自体も変化してしまったり、弱まってしまったりするなと…中々難しいですね。

大尾嘉:
そうですね。だから私は展示会等で直接お話する機会を多く取ってますよ。それで、一番その説得力を出すことが出来る方法ってなんやと思います。それは『体験』です。展示会でも店頭でも限られた時間しかないじゃないですか。大勢の人、こんな風に一人ひとりずーっと話しているわけにもいかないし。じゃあ何が一番伝わるか、それは使って下さる方に実感をしてもらうことです。カップだったら実際に使って飲んでもらう、これが一番早い。飲んでみた飲み口が陶器やガラス、チタンなんかとも全然違うってことが感覚として分かって頂けるんです。売り場の販売員さんもそうですが、実感された方は売り方もガラッと変わりますよ。言葉に実感がこもっているので。うちのショールームに来ていただいた方にも試飲して頂いて、希望があったら家でも飲んでもらってます。だって洋服は試着できるし車は試着できるし、なんでこんな何万円もする器買うのに試飲も試食もさせてもらえないのって。だから売るの難しいって言ってる方々には、そこで飲ませって!っていつも言いますよ。飲ませて比較対象してみって。それで全然違うことを実感してもらう。中々皆さんめんどくさがってやんないから。一発で売れるわけないですよね。大体努力もせんでモノが売れるわけがない。

久保出:
実際に体感するのは、本当に重要だと思います。特に繊細なものほど。

大尾嘉:
久保出さんのところで挽いてもらってるワイングラスもそう。うちではシャルドネという名前で色で表情を変えて商品展開してますが、普通ワインとかを嗜む方って中の色が見えないと絶対ダメっていうんですよ。ちょっと知識がある人っていうのは、「中見えないよね」「中見えないとワイングラスとして意味がないよね」言われる方が多いんです。ワインを飲むってなると世界各国の有名ガラスメーカーがいるのでワインに拘ってる方はそちらにいっちゃうんですが、自分がこの器を勧めるお客さんはワイングラスを超えて感動出来る方ですかね。ものとして想いを知ってもらってたり、何より実際に持つことでその軽さに驚いて、何よりステムの細さがヤバいって気づく。興味がない人はふーんって通り過ぎるけど、一回持った方はその瞬間から離したくなくなる。そういう方は、山中の轆轤技術ってここまで出来るんだって理解してくれる。だからワインだけじゃなくて日本酒にも使ってる方もいらっしゃいますね。うちのシャルドネのお客さんは実は8割がた日本酒用なんじゃないかな。で、この品質を量産って形が取れるのは、久保出さんところともう一軒だけだと思います。

久保出:
そうなんですか!

大尾嘉:
そうだから要するに、木工旋盤でこの技術は世界で2軒しかできないこと。それだけで買い求める側としてはすっごい感動するよね。だって世界で2軒ですよ!

久保出:
なるほど…そんな考え方したことなかったです。




“あくまで私たちは作り手やさかい、販売して使ってもらうっていうのが大事やね。”


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-現在山中漆器全体のリブランディングにも携わっている大尾嘉さん。山中漆器の今後についてもお伺いしてみました。


久保出:
長年携わっている大尾嘉さんから見て、山中漆器の産地としての今後の可能性はどう見えてらっしゃいますか?

大尾嘉:
現在、中部経済産業省とその補助金を活用して2019年の4月から五か年計画で産地ブランディングを行っていて、私もその構築メンバーの一員として参加しています。ただ山中漆器の特徴として近代漆器と伝統の木製漆器が織り交ざって存在しているので、正直すごく難しい。山中漆器としてのブランド構築していくために、傘かけは必要なんやけど全体に傘をかけるのか、近代漆器は近代漆器、木製漆器は木製漆器って二つかけるのかを考え中です。

山中近代漆器とは、昭和30年代頃から作られているプラスチック(合成樹脂)の素材にウレタンを塗装した近代漆器=合成漆器。量産型かつ使用面でも合理性、利便性が高いため飛躍的に生産数を伸ばした。

久保出:
参考にされている地域ブランディングのところはあるんですか?

大尾嘉:
今治タオルなんかは普段使いの安いものから最高級品まで展開していて成功例ですよね。ただ山中は山中で考えていかないと。

久保出:
木地師自体もだいぶ少なくなってきてます。そこもなんとか改善出来るように、私たちもオリジナルブランドを立ち上げて“木地師としての商品”を育てようと尽力しています。

大尾嘉:
どういう風にしたら若い担い手がこの山中漆器の業界というところを就職先として考える、視野に捉えてくれるかっていう部分のきっかけ作りになれればいいですよね。
既存にあるろくろ技術センターで、数年前から高校生へのワークショップや体験入学的なものっていうのは進めています。ただ昔からのイメージで、職人イコール3Kといわれる、きつい、汚い、危険、加えてそんなにお金にもならないだろうっていうイメージから未だに脱却できていないのかもしれない。そのせいか、安定を求め就職を選ぶ方はまだまだ多い印象です。ただ職人になったら生涯職人だし、やったぶんだけ結果が出る、ちゃんと稼げるっていうのも久保出さんも一国の主だから実感としてありますよね。
ただ、今現在我々の世代、その下の世代の中でも男女問わずモノを作るのが好きな人間が職人になり、昔ながらの漆器のイメージとまた違ったアプローチでモノ作りをし始めている流れも感じます。うちの作っている新しい商品群も今まで通りの漆器売り場において欲しくない。あくまでも木製品の特性を生かした漆器だけではない展開方法がまだまだあると思うんです。そういう挑戦をすることで、ひいては後継者育成であったり、入門編的な「知るきっかけ」になるんじゃないかなとは思っています。

久保出:
匠頭漆工としても文化そのものの底上げっていうのを、1年2年の話じゃなくて、やっぱりしていきたくて。その第一歩としそこに意見や対話が生まれ、想いが集ってくるようなプラットホームがいいだろうってことでHPを作りました。山中漆器のコミュニティになればいいなと思っています。それから派生すること、例えばここで今してる話もここだけだととっても勿体無いから、誰か呼んでトークイベントをやるとか、なんかそういう風にどんどん膨らませていきたいんです。

大尾嘉:
市とか町ぐるみで様々なことに取り組んでいる産地もたくさんあるよね。例えば、色んな産地でも〇〇祭であったりとか産地が中心になってお祭りやったり。久保出木目祭なんかももいいで(笑)
でも“モノ作り”という部分に関しては、美術品なのか商業ベースなのかってことをきちっと考える。あくまで私たちは作り手やさかい、販売して使ってもらうっていうのが大事やね。

久保出:
はい。また今後も色々考えていければと思います。
本日は誠にありがとうございました。

大尾嘉:
ありがとうございました。



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