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雪道を歩く4人のヒーロー

今日の出来事を振り返りながらベットに入る。

最近は寒くなってきたせいで足が冷えるなー。

冷え性になったのはいつからだったか。

指の先がかじかむのでモゾモゾしているとなかなか眠ることができない。これだから寒いのは嫌いだ。

指先が凍るように冷たくなるといつも思い出すことがある。

中学生の頃に大雪が降った日があった。

山に住んでいるわけではないのに平地にここまで雪が積もることがあるのかという驚きとともにワクワクで胸が踊った。

普段滅多に雪が積もることがない土地に住み続けていたので雪への耐性が全くなかった。純粋に雪景色を堪能していた。中学生ながら遠くの神社を見つめてこれは風情がありますな〜なんて言ってみたりして楽しんでいるとポケットに入れていた携帯が振動する。なんだよ雪に心を奪われている自分に酔いしれていたのに邪魔しやがってと思いイライラしながら耳元へ近づけるとアホみたいに陽気な声が聴こえてきた。ダニエルだ。

ダニエルという名前はニックネームで先輩が彼を見た時に思わずダニエルと言ってしまいそれが広まって浸透した。彼は純日本人で決してダニエル顔でもなんでもない。それが逆に面白くて人混みでダニエルと叫ぶと周りの人たちもダニエル?というように外国人顔を期待して反応する。恥ずかしがりながら登場する期待はずれのダニエルがたまらなく笑える。

「雪だ雪だ!こんな時に外で遊ばなかったらいつ遊ぶんだよ!集〜合〜!」
小学生のような無邪気なテンションにyesと答えざるおえなかった。

集合場所に到着するとダニエルとシバとかわけんの三人が雪を食べながら待っていた。シバはカマキリみたいに細長くて大根のように白い肌をしている。かわけんはいじられるのが嫌いだがいじるのが大好きというずるいポジションにいる。この三人とは小学生時代からの付き合いだ。想像力があって一緒に遊ぶと時間を忘れるくらい楽しめる。僕からしたらミッキーマウスやドナルドと一緒にいるみたいなまさに夢の国にいる時間を与えてくれる存在に思えた。

「さっそくですが今日はラウンドワンにボーリングしに行こうと思いまーす!」かわけんが威勢良く言い出した。まさかの雪遊びではなく室内でボーリングだと?!わざわざこんな大雪の時に10㎞ほど離れたところまで歩いてボーリングはやばいと今の自分なら反対するところだが当時の彼らは10㎞をマカロンくらい甘く見すぎていたのでみんな大賛成で出発した。休みの日になるとボーリングに行って遊ぶのが彼らの中で一大ブームになっていたのもあり皆ノリノリで雪の上を歩く。出発してから気づいたのだが、あまり道の整備はされておらず車のタイヤが通るラインしかアスファルトは見えていない。雪が靴に入ってきて冷たいからホームセンターに寄って長靴を買うことにした。中学生だったのでボーリングをやる為には一番安いペラッペラの長靴を買うしかなかった。この選択が運命の分かれ道だったのだろうと今は思うが。

最強のアイテム長靴を手に入れたことによりホームセンターから出てくる4人の姿はファンタスティックフォーを彷彿とさせるほどに自身に満ち溢れていた。それは自分達だけが思ってただけで周りの大人から見たらぺらぺらの長靴を貧相に履いた中学生だったのだろうけどこんなに胸張れるかってくらい胸を張ってた。

新たに気持ちをリセットすることができたので皆もテンションがあがりカップルがゲレンデでイチャイチャしているかのごとく女役と男役に分かれて雪合戦をした。男版宝塚を楽しんでいたところで人がちらほら見えた。雪かきをして汗を流している人の横で彼女役で汗を流しながら踊る自分に芸術を感じた。いまこの瞬間を絵に描きたいと思ったほどだ。

冷静になるのはあっという間だった。ペラペラの長靴がここにきて足を引っ張ることになる。(長靴だけに)あまりの靴底の薄さに足が痛み出したのだ。まだ半分も歩いていないのに皆んなの表情から笑顔が消え始めた。さらにそこに畳み掛けるように雪という自然の猛威がファンタスティックフォーを絶望の淵へと追いやる。いつも自転車で通る近道をつかって向かうことにしたのだがそこは河川敷の上で細い道なのだ。当たり前だが道が整理されているはずもなく降った雪全てが綺麗に残されている。冷静になれば近道など考えなかったがこの時の彼らは疲労と寒さで早くボーリング場に着きたいという事しか頭になく冷静な判断をすることができなかった。正規のルートに戻る為にはまた2㎞以上歩かなければならないことを考えるとこの大雪道を歩くしか方法はない。膝下まで雪が積もっているので余計に体力が奪われる。宝塚をやっていた時のファンタスティックフォーはもうそこにはいなかった。「ぐぅおぉぉおおおぉぉおおおおぉお!足が!足が!」ダニエルが突然発狂した。長靴の中に雪が入りすぎて長靴の中が冷凍庫になっていた。
ダニエルの叫びを皮切りに全員が蓄積させていた身体中のあらゆる悪霊が飛び出してくるように発狂し始めた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおオィいいいいいいいいイィィイイイィィッィいいいいいいいイィッィイイィイ」
ここで「ママ〜!」なんて言って笑わせてくれるスネ夫みたいな奴もいるわけがなく、全員狼にでも育てられたのかと思うような雄叫びをあげている。全員がブスなサンに見えてきたので負けじと叫んだ。
叫べば叫ぶほど体力を消耗するのでむしろ逆効果だったが叫ばなければ意識を保っていられないほどに足がキンキンに冷えてやがる。カイジに差し出したら喜んで舐めていたと思うほどに冷え切っていた。
一歩踏み出すと中に入った雪が圧縮されてスケートリンクの上に足を滑らせているような感覚になる。じっとしているわけにも行かない。僕らは前に進まなければいけないのだから。
ついに大雪ルートを抜けることができたのだが凍傷になっているのではないかと思うほどに感覚がなく痛みもなくなっていた。体が冷え切って体力も消耗しすぎている。これは命の危険があると思い。撤退を提案するがかわけんがそれを拒んだ。どうしてもボーリングがしたいのだと言い張りいうことを聞こうとしない。彼は引退試合でクソみたいなスコアを叩き出してショック死したプロボウラーの悪霊に憑依されていたのだと思う。
説得しても無理なのでここからは別行動をとることになったのだがボーリング場に行くのはかわけん一人であった。
僕ら3人はかわけんの心配をしつつとりあえず暖かい場所を探し始めた。
丁度お腹も空いていたので飲食店に入る。キムチ鍋を食べたのだが今でもその味は忘れない。命をかけてたどり着いたその先で出される料理は食べ物のポテンシャルを最大限に引き出す起爆剤になるということを知ることができた。
食事を終えて一息つくが来た道を歩いて帰らなければならないという現実を目の当たりにして3人ともため息が漏れる。
再スタートをすると40分程歩いたところで連絡が入る。引退試合でクソみたいなスコアを叩き出してショック死したプロボウラーに憑依されたかわけんからだった。
「いまどこ?もうそっちに向かうから待っててくれない?」覇気のない声で呟いているがどうやら悪霊を成仏させることができたようだ。近くにコンビニがあったのでそこで待っていると伝えて電話を切ると同時にダニエルとシバと目をあわせて笑った。
立ち読みでもして待っていようということになりジャンプを読み始めた。
サンデー、マガジンと読み進めて少年を制覇できるのではないかと思ってニヤニヤしながら隣を見るとダニエルが週間文集を手にとってニヤニヤしていた。かなり時間が経過していたので心配してかわけんに電話をするが連絡がとれない状態がしばらく続いた。ちょっとずつダニエルの位置が右にずれていっているのに気づいた。普通の人なら気づかないであろう絶妙な距離感で成人向けコーナーに近づいているようだ。思春期真っ只中なのでそれは仕方のないことだが隣でエロ本を見られても恥ずかしかったのでかわけんの帰還をただただ願う時間が続いた。
いよいよダニエルがエロ本に手を出し始めた時に遠くからキラキラ光る物体が見えた。少しずつ近づいてくる発光体にスーパー思春期のダニエルでさえエロ本をそっと棚に戻し、それに釘付けだ。目を細めてよく見ると光る物体はかわけんだった。急いでかわけんのもとへと向かう。近くまで行くと光の正体が判明する。アルミホイルのようなものにくるまっていたのだ。笑いをとるために新しいファッションに身を包み登場したのかと思ったが真剣な顔におふざけで装っているものではないことが伝わってきた。ただ3人ともおもくそ笑ってしまったが本人はいたって真剣な表情を崩さないでいた。どうしてそんなファッションになったのか聞いてみると別行動の後にあまりの寒さと疲労でボウリング場につく前にうずくまってしまったらしい(この瞬間に悪霊が身の危険を感じ逃げたみたいだ)そこで近くで雪掻きをしていたおじさんが心配してこのアルミホイルをくれたのだと説明してくれた。当時はそのアルミホイルのことについて何も知らなかったのでふざけてるとしか思わなかったがあとで調べてみたら滅菌アルミシートと呼ばれる救急資器材だったようだ。銀色と金色が裏表になっていて銀色を表側にすると防暑、断熱の効果が得られ、金色を表にすると保温効果が得られるので体温を保持できるらしい。裏と表で効果が変わるすごい商品だ。「効果は分からないけどそんなアイテムを手に入れるなんてすごいなかわけん!さすがもってる男は違うね!」という皆からの声援を受け、みるみる内に表情が柔らかくなり、明るい口調に戻った。「ホントに死ぬかと思ったよ!もう雪の日にボーリングしたいなんて二度と言わないから早く帰ろうぜ!」そういうと胸を張って先頭を歩きだした。まさしくその勇敢に輝く後ろ姿はファンタスティックフォーそのものだった。人々の優しさを思い出すとともに助けてくれた人への感謝で胸がいっぱいになる素晴らしい思い出だ。

ちなみに本人は気づいていなかったが彼はずっと銀色に輝いていた。

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