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おやすみエッセイ(1) ソテツの冬囲い

 凛とした冷たい空気の冬のある日。杉やヒノキは青々と葉を茂らせている。そんな中、わら蓑でぐるぐる巻きにされているソテツがあった。なんだか、不格好にも見える。ある人は「なんだあれは」と、笑うかもしれない。けれども僕は、なんだかいいなあ、と、思った。

 ソテツは冬が苦手だ。寒さに弱い。そのソテツに、「おおい、周りを見てごらんよ。他の木々は一生懸命青々と、頑張って生い茂っているんだから、お前も頑張らないとダメじゃないか。」とは、言わない。「寒いか。つらいか。それなら、あたたかいわら蓑でお前を包み込んであげよう。手間も暇もかかるけれど、お前は冬が苦手だから、仕方ない。急がなくていいよ。春になってから、それから葉を生い茂らせればいいじゃないか。」
 なんだか、冬囲いのわら蓑が、そんなあたたかさに感じられて、ソテツに冬囲いをした人はきっと、優しい人なんだろうなあと、想像する。
 
 外が怖い。家から出れない。仕事に行きたくない。

 人生にも、冬がある。周りを見れば、みんな、頑張っている。なんなく日々をこなしている人を見て、余計に自分が惨めになり、余計に外に出たくない気持ちがふくらむ。そんな自分がまた、嫌になる。そんな時には、自分にもそっと、冬囲いをしてみよう。冬が苦手なら、無理して頑張らなくてもいいかもしれない。春がいつ来るかわからないけれど、人はカッコ悪いと笑うかもしれないけれど、とにかく今は、ゆっくり、休んでもいいのかもしれない。

 わら蓑でぐるぐる巻きにされたソテツを自分と重ねて、あたたかく冬囲いした人のぬくもりを想像して、ほっこり心のあたたまった冬の一日でした。

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