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狼人間の挽歌 邂逅【詩】

仕事帰り
ふとした気まぐれから
通り道にある公園に立ち寄った

厳冬の深夜ともなれば
誰一人いないのは当然か
私は吐く息の白さを
街灯でたしかめながら頭上を仰ぐ

冴え冴えとした夜気の向こうで
煌々と照り輝く黄金の円盤は
いつもよりだいぶ大きいように見えた

冷気で澄み渡った空気のせいだろうかと
そんなことを思いながら
視線を前方にうつすと
いつのまに現れたものか
そこには
一人の狼人間が
同じように月を仰いでうっとりとしているのだった

私の視線を感じたのか
彼はこちらを向くと
今晩はと少々照れながら挨拶した
私も挨拶を返し
ついでに
いい月が出ていますねと
言葉をつないだ

まったくです
こんな美しい出来映えはそうそうないですよ
今夜の月を見ないとは
何とも不幸なことだ

嬉しそうにまるで我がことのように
月について話す狼人間に
私も嬉しくなって
そっと肩の力を抜いた

狂月が誘う
殺戮の夜ではない
今夜などは
彼らは古き善き隣人のごとき
人懐っこさを持ち合わせているようだった

私はおずおずと尋ねてみた
あなたの眷族は
何故に恐ろしい殺戮を繰り広げるのかと

彼は
少しだけ哀しそうな貌をすると
静かに静かに語り出した
狼人間の月にまつわる哀しい物語を

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