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【現場の声】小林化工 睡眠導入剤混入事件は何故起こったのか

こんばんは。久々の記事投稿です。

今回は製薬業界で大きな話題となっている小林化工で発生した抗真菌薬であるイトラコナゾール(商品名MEEK)に睡眠導入剤の主成分リルマザホン塩酸塩水和物が混入した事件について、おそらくニュースをみても現場の人間以外にはいまいちピンと来ないのではと思い、製薬の生産現場に携わる人間として皆様にわかるように解説をしていきたいと思います。(当事者ではないので推測も入ります。)

⬇️ニュースリンクはこちら

まず最初に一言言わせて頂くと、『あまりにもひどすぎる!!!!』

今回の事件で様々なニュースで特筆されているのは主に以下の2点です。

① イトラコナゾールと睡眠導入剤成分の原料を取り違えた。
② 混入は厚生労働省の承認を得ていない工程で発生した。

①については、人間のやることですから百歩譲って皆様も理解できるかと思います。(それでも棚卸し等のことを考えると、7月から気付かないことはありえないと思いますが、、)

②について、なぜこんなことが起こってしまったか。次から詳しく説明していきたいと思います。

<1番の問題は会社の体質及び、GMPに対する意識の低さ>

そもそも医薬品というのは、人々の健康や生命に直結する為、用法用量だけでなく製造手順に至るまで厚生労働省に承認を得て、それに従い製造しなければなりません。

その際に最も重要となるのがGMPです。
これは簡単に言うと適切な品質の医薬品を製造するためのシステム(手順や記録を含む)のことで、基本的な考え方として、人の手による誤りを最小限に抑えることを目的としています。

今回の小林化工の事件では、GMPが適切に管理されていない状況であったと考えられます。

<そもそもなぜ手順に定められていない工程を行なったのか>

出典元の記事を読むと以下のように書かれています。

同錠剤を作る過程で、機械への付着などで目減りする原料を継ぎ足す際に、主成分と睡眠導入剤成分「リルマザホン塩酸塩水和物」の容器を取り違え混入した。

ここだけ読むとなんとなく意味は理解できるかと思います。
錠剤を製造する際は、主に原料を均質にしたり、粉末を固めやすくするために主成分を含む原料に前処理と呼ばれる工程を行います。この前処理は、機械の中で行われるので次の工程へ持ち運ぶ際に、収容する容器への移し替えの操作が必要になります。この移し替えの際にどうしても多少は粉末が機械や容器に残ってしまい工程ロスとなることで、工程の収率が低下する要因となります。

通常どこの工場でも、収率や歩留まり向上が求められています。本来ならこの歩留まり向上や工程改善こそが、医薬品製造技術者としての本懐でありますが、人手不足や工程過多により手が回らないという状況も多くみられます。

さらに収率が一定の割合を下回ると、異常として報告書や改善予防策の提出といった追加の業務が担当者に降り掛かります。(だいたいどこの会社もGMPにより、厳しい期限が定められています。)

小林化工の工程担当者はおそらくこの業務負荷増大を避けるために収率を操作しようと、本来ならば原料を追加しないこのタイミングで継ぎ足しを行ったのでしょう。(かつてジェネリック医薬品が粗悪品と呼ばれていた時代は、収率がよかった製造ロットの医薬品をプールして、収率が悪い製造ロットに水増ししていたといった噂はよくききます。)

〈医薬品の混入を止める手はなかったのか?他の会社の薬は大丈夫なのか?〉

今回は別の有効成分が混入してしまった薬が市場に出回ってしまいましたが、本当にこれを止める手はなかったのでしょうか。

前述した通り、GMPの基本的な考え方は人の手による誤りを最小限に抑えることです。

人は間違えるものという前提の元、製造された医薬品は出荷される前に試験をして品質の確認をしています。小林化工の場合も品質試験をした結果について、以下のコメントを残しています。

品質試験による確認を精査すると、(混入に気付くことができた)可能性がある。厳密なチェックができていなかった

ひどいですね。。。

この結果の確認は、試験担当者だけでなく照査やGMPの管理を担当する部門でも確認し、結果を承認した上で製品が出荷されます。

もちろん製造現場で手順にない原料の継ぎ足しをした作業者に大きな非があるのは間違いありませんが、GMPではそれを患者さんに届ける前に気付けるような仕組みを構築しています。

今回の事件で小林化工の全社的なGMP意識の低さが垣間見えました。

〈さいごに〉

今回、医薬品に別の薬の有効成分が混入してしまい、それが市場に出回るという最悪な事態が発生してしまいましたが、医薬品製造技術者の大多数は自分たちの作った薬に大きな責任が伴うということを自覚して、誠実に作業を行なっています。

また製薬会社は患者さんに安心して、薬を使ってもらえるように日夜工夫を施しています。小林化工の件で製薬業界への不安や疑念はでてきてしまうかもしれませんが、今回の件についても既に各社に通達が届いて対応が始まっています。

これを機に製薬各社のGMP意識が高まって二度とこういった薬害が起こらないことを一技術者として、心より願うと共に私自身も新たなシステムづくりに力を入れていきたいと思います。

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