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最後が言葉である必要はない

2024/3/8

漫画好きの私からすれば、鳥山明先生の訃報は今年一の出来事だった。
悲しいというか、ショックというか...。
ただのいちファンの私にとって先生は当然、赤の他人で、親族がいなくなるというショックさとは違う。

2度とこの人から素晴らしい作品が生まれる悲しみと、世界から何か大事なピースが欠けてしまったかのような喪失感におそわれている。

ただこうして勝手に書き残していることも含めてだが、私はこうして故人に対して何かを語ることがあまり好きではない。
というのも、死人に口なしというだけあってその人がどう思っていて欲しいかを今後私たちは知り得ることがないからだ。
私が悲しむこと、ショックを受けること、喪失感に襲われることは私のエゴ以外のなにものでもない。
本当は笑顔で作品を読み返してほしいと思っているかもしれないし、本人は全てを出し切ったと思っているかもしれない。

叶うならば、私はその思いにできるだけ寄り添いたいと思っている。
まあ、それ自体もエゴなんだけど...。

まあ、さすがに私にとってのビッグニュースだけあって、今日一日は全く仕事が手につかなかった。
在宅ワークということもあるが、他の漫画家さんのツイートやコメントなどを漁らずにはいられなかった。
中でも、桂正和先生のメッセージには思わず涙してしまった。

「メールをくれた後、なんで電話しなかったのか、それが、すごく後悔です。」

「私の、また連絡くださいとのメールの返事に、軽くOKって書いてあったのが最後なんて、ダメです。」

特にこの2文に胸が打たれた。
常々考えてたことなのだが、死が悲しいのはあくまでも残された側のことで、もちろん無念とかはあれど当人はすでにいないのだからその想いはない。
そう思うと、「何かを残してほしい人」と「何かを残しておきたい人」とはいつが最後でも悔いがないようにしておきたい。
人はいついなくなってしまうかわからないのだから...。

最後にしっかり話したのはいつか、どんな言葉を交わしたか、どうやって心を通わせたかだけはしっかり覚えておきたい。
そう思っていた。去年までは。

去年の年末、もしかしたら祖父が長くないかもしれないと連絡が入り、急遽会いにいった。
幸い、祖父はまだ存命だが、今でもいつどうなるかはわからない。
でも、その日が私にとっては祖父との「最後の日になっても後悔のない日」になった。

元々、寡黙な人で、親戚で集まっていても皆がしゃべっているのを聞きながらニュースとか相撲を見ているような人だった。
あまり喋らないだけで話はしっかり聞いてくれて、私のことを考えてくれているのがわかる優しい人だ。
小学生のころ、いとこと一緒に公園に遊びにいくと伝えるといつも私たちに公園で買うジュース代をこっそり握らせてくれたその手が本当に懐かしい。


そんな祖父が病床に伏せて、祖母いわく、お見舞いに行っても体力の低下と半身の麻痺、元々の寡黙さから「もう全然しゃべってくれない」と言っていた。
母や父が行っても特に話さず、一方的に近況報告をしていたと聞いた。
それでも一目会っておきたいからと、私といとこは日程を合わせてお見舞いに向かった。

実際に寝ている祖父を見て、これが最後かと思うと何も言葉がでてこなかった。
その時は、コロナが流行っていたこともあって病室には10分しかいれないのに、何も言えなかった。いとこも同じような感じで、元気なわけないのに1分おきに「大丈夫か?」「元気か?」と声をかけていた。

残り時間が半分になったころだっただろうか。
ずっと目を瞑ったままだった祖父が薄目を開けて、震える麻痺した方の手をマスクをした口元に動かした。
最初は何をしようとしているのかわからなかったが、「マスクとるか?」と聞くと、小さく頷いたのでマスクを顎元までずらしてあげた。
すると、何かを言いたげに口をパクパクさせていた。

世代的にも周りの人に話にくいことを察されたくないというプライドがあり、口を閉ざしていた祖父。

そんな祖父が、「何かを言いたそうにしていた」その事実だけが私にとっては十分だった。
誰にも話そうとしなかったのに、孫には何かを残してくれようとした祖父、その聞こえないはずの「言葉」に私は泣きそうになった。
なんとかその場は、耐えたが帰りの車でいとことひっそり泣いた。

そんなこともあって、心に残る何かは、言葉じゃなくてといいんだとぼんやりと思うようになった。

今回の鳥山明先生でいえば、私にとっては今でも染み付いているドラゴンボールを初めて読んだ時のキラキラした感情がソレなんだと思う。

まあ、でもどんだけ格好つけようと悲しいものは悲しくて、悔しいものは悔しい。
だから、漫画界において神様とも呼ばれる鳥山明先生を失ったことは本当に悲しくて、2度と新作が出ないことを思うと残念でならない。

復活してもらうために、ドラゴンボールを集める旅にでも出ようか。

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