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2020年:あなたにも観てほしい映画編Part1


趣味は映画鑑賞だというと、「なにか良い映画はないか」と聞かれることがある。
観てよかったなと思ったり、大好きな映画はたくさんあるが、オススメかと言われるとそうではない。
何より勧めた映画が「面白くなかった」と言われるのは辛い。

とはいえ、これは良かった!かつ、面白いか面白くないかはこの際どうでもいい!誰にでも勧められる!という映画もたくさんある。
個人的に 誰にでも勧められる映画というのは「(どちらかというと)良い話」「長すぎない」「地味すぎない」といった感じの、安心良作だと思っている。

そこで 以下、個人的に2020年に観た「あなたにも観てほしい映画」10選。

「薬の神じゃない!」2020年/中国/ウェン・ムーイエ/117分
「マルモイ ことばあつめ」2020年/韓国/オム・ユナ/135分
「キーパー ある兵士の奇跡」2020年/イギリス・ドイツ/マイルス・H・ローゼンミュラー/119分
「ハリエット」2020年/アメリカ/ケイシー・レモンズ/125分
「パブリック 図書館の奇跡」2020年/アメリカ/エミリオ・エステヴェス/119分
「1917 命をかけた伝令」2020年/アメリカ・イギリス/サム・メンデス/110分
「ブリット=マリーの幸せなひとりだち」2020年/スウェーデン/ツヴァ・ノヴォトニー/97分
「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」2020年/アメリカ/オリヴィア・ワイルド/102分
「彼の見つめる先に」2018年/ブラジル/ダニエル・ヒベイロ/96分
「パリのどこかであなたと」2020年/フランス/セドリック・クラピッシュ/111分
(順不同)

この中でも2020年は「実話ベース・実際の出来事から着想系の映画」がものすごく良い映画がたくさんあったなぁという印象。
「薬の神じゃない!」「ハリエット」「キーパー 」は史実を基にした映画。
「マルモイ」「パブリック」も実話着想の映画となっており、かなり熱い映画だった。
なので今回は、上記5本の記録をば。

「薬の神じゃない!」2020年/中国/ウェン・ムーイエ/117分

これ、映画のポスターがなんだかマフィア映画みたいで胡散臭い感じなのだが、観てみたらむちゃくちゃ胸熱の人間ドラマで映画館で普通に泣いた。
ストーリーは中国で実際にあった白血病の薬をめぐる話で、元々お金目的で薬の密売を行っていた主人公が、薬を求める人たちとの出会いで徐々にその目的が変わっていくという感じ。
王道っちゃ王道で、エンディングも泣かすように脚色されているとは思いつつ、でもこれはみんなにも観て欲しい。

登場人物も個性的で魅力的。それぞれのバックボーンまできちんと描かれていて、しっかり物語に入りこめるようになっていてよかったなぁと思います。
中国映画特有の濃い色味の映像で、しっかりアクションもあり、退屈する余地がなく見応え抜群。
また、コロナ禍におけるこのご時世、かなり響くテーマなのではないだろうか。
権力によって脅かされる命、そこに抗うことのリアルさが描かれていてグッときました。
余談ではあるが、中国の映画、ご飯がめちゃめちゃ美味しそうで、それだけで良い。


「マルモイ ことばあつめ」2020年/韓国/オム・ユナ/135分

同じアジア映画として、そして主人公がまたもおじさんなのだけど、そのおじさんが泣かせてくるんだなぁこれが。
ただ、いい映画だなぁとぼんやり観れる映画というわけではない。

ストーリーは日本統治下の韓国が舞台で、日本語を強要され、母国語の朝鮮語(韓国語)を守るために文字通り“戦った”人たちの話。
そもそも、韓国でこんなことが行われていたということを私は初めて知った。
というより、初めて実感した。
妹が韓国に留学していたこともあり、「韓国のご老人は日本語がわかる」というのを知っていたのだが、 それが日本から強要されていたことが理由だということに気づいた瞬間であった。
なんだか勝手に親日なのかなぁと思っていたことが恥ずかしい。

そもそも、自分が使っている言語を禁止されるという恐ろしさ。
ギャル語のような言葉でさえ「本来の日本語の美しさが失われている!」などと言い始めるような日本人は、この恐ろしさを強烈に実感できるのではないかだろうか。
また、特にことばに思い入れがない人であっても、「母国語」について考えるきっかけにはなると思う。なぜなら、主人公がそういう人であったからである。
映画を通して自分たちの「ことば」の尊さを実感していくことで、「ことばに命を懸けること」がどれだけ大切で、どれだけ辛いことで、どれだけの希望が詰まっているか考えさせられるかと思います。


「キーパー ある兵士の奇跡」2020年/イギリス・ドイツ/マイルス・H・ローゼンミュラー/119分

一方、「マルモイ」と同じ1940年代のイギリス。
ナチスの兵士が戦地で捕虜となり、敵国のイギリスでサッカー選手として国民的ヒーローとなったバート・トラウトマンの実話映画。
サッカーというか、スポーツは全般に興味がなく、もちろんこの人のことは知らなかったのだけど、これが実在の人物だと思うと、ほんとに凄いなと思った。

タイトルの通り映画の主人公はサッカーのゴールキーパーでなのだが、選手としての功績もしっかりと見せつつ、スポーツに関心のない自分でも、胸が熱くなるシーンもたくさんあった。
そして この映画、実はカテゴリー的には恋愛映画である。
タイトルやポスターからは恋愛映画だと個人的には気づきにくいのではないかと思うのだが、観ている最中 心の中で(愛…!)と何度唱えただろうか。素敵なシーンがいっぱいです。

さらに、よくある逆境を乗り越えてヒーローになりました!めでたしめでたし!で終わらないのが、この映画が良かったなぁと思うところ。
情けないながら「あの映画、ラストどうなったっけ?」となってしまうことが大半なのであるが、この映画は割と衝撃的な終わり方をするので印象深い。
戦争がもたらした暗い影も重すぎず明るすぎない絶妙な温度感で構成されていていながら、メンタル的には一喜一憂。人が生きるということは単純な話ではないのだと実感させられます。

話の内容と関係ないのですが、この主人公の俳優さん、実際にドイツ人のダフィット・クロスという俳優さんなのだけど、個人的にはむちゃくちゃ好みのタイプ(顔が)である。
映画見ながら話を追いつつも、この俳優さんずっと見てられるなぁなどと脳の片隅ではそのようなことを思っておりました。


「ハリエット」2020年/アメリカ/ケイシー・レモンズ/125分

実在の人物の伝記映画とすると、この「ハリエット」も良かった。
これはアカデミー賞で結構話題になっていたり、主演のシンシア・エリヴォが来日したりしていたので、公開されるかなり前から楽しみにしていた映画の一つ。
また、日本での公開が2020年だったということもかなり大きい。

というのも、昨年「Black Lives Matter」が大きく知られるようになり、私自身も今まで知らなかった黒人の歴史に触れる機会が増えたことがかなり影響している。
アメリカを始め 世界で何が起こっているのか、気になってこの活動の歴史を辿っていくと、アメリカにおける奴隷制度というものに必ず行き当たる。
いろいろネットで調べたりはするものの、ただやはり百聞は一見にしかず。
実録の映像ではないにしろその片鱗を映像で見るということは、「マルモイ 」のときと同様に、実感という点で貴重な体験であると思う。

ストーリーとしては、黒人奴隷として生まれたハリエット(ミンティ)が奴隷先から脱出し、その後奴隷解放運動のための秘密結社「地下鉄道」の「車掌」として、数多くの奴隷たちの逃亡を手助けしたという話。
結構、こんなことあるのか?とさえ思ってしまうような奇跡がいくつも起こるのだが、ラストまで観るとなきにしもあらずなのか…と納得させられるような人物であることがわかります。
ハリエットが南北戦争が始まるくらいまでの話に対し、同時期に公開されていた「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」は南北戦争時代という絶妙に時代が被っている映画を立て続けに観たため、その対比も個人的には結構印象深かった。
そもそも映像の質感が全く違うので、生活環境の違いが如実に現れるのは当たり前なのだけど、逆にそれほどまでの違いが実際にあったのではないだろうかと感じるような映画体験だったなぁと思います。
ちなみにこのハリエット、今度アメリカの20ドル紙幣の肖像として使用される計画が進んでいるよう。
これを機に、一度観てみてはいかがでしょうか。


「パブリック 図書館の奇跡」2020年/アメリカ/エミリオ・エステベス/119分

これも同じアメリカの話で、時代は現代に移ります。
「公共図書館が実質的にホームレスの避難所になっている」という実際の出来事を綴ったエッセイに着想を経て、完成までに11年もかかった作品とのこと。
というか、今改めて調べて知ったのだが、主役のエミリオ・エステベスが脚本・監督・制作なんですね。
ポスターを見るにポップなグラフィックで、なにやらドタバタコメディかなと思わせるのだが、伝わりづらいジョークが混じった意外と地味なトーンで進む感じの映画だったなぁという印象。
でもシリアスになりすぎず、そんなに構えて観る必要もない不思議な仕上がりとなっていたように思う。

話の大筋は、ある寒波の夜、避難シェルターに入りきらなかったホームレスたちが、命を守るために図書館に立てこもるというもの。
ただ、なぜ「立てこもる」ことになったのか、というのが話のミソで、いろいろな要素が重なり合っていて、自分がどの立場にいようと「他人事ではない」と感じることができるような良い映画だったなぁと思う。
私はこれまでアメリカに行ったことはなく、アメリカのホームレス事情を知るのは映画を通してのみであるし、ましてや日本のホームレスの事情だって全く知らないに近い。というより、見て見ぬ振りをしてしまっているのが現状である。
最近、ホームレスの女性が襲われて亡くなった事件があったことも記憶に新しいかと思うが、社会の中に存在する命の守り方を考えさせられる映画であった。
そして何より、エンディングでのまさかの複線回収は、観たもの誰もが忘れられないのではないだろうか。

別の映画の話になるが、立てこもり系でいうと「ストックホルムケース」も面白かった。そういえば、これも実際の事件着想の映画だったな。
「ストックホルム症候群」って聞いたことありますかね?誘拐事件などの被害者が犯人に好意を持ってしまう現象なんですが、これの語源となった事件を題材にした映画となっています。
主役のイーサン・ホークが憎めない感じで、まぁなんかしょうがないなぁと思ってしまって上手いなぁと。
ただこれはこれで面白かったのだけど、普通にスウェーデンで映画化すればいいのになと思った次第である。スウェーデン映画のあの独特なシュールさとほっこりさ、合ってると思う。


さて、話が逸れつつ10選のうちの半分をざっくりまとめてみたのだが、思いの外 長丁場になってしまったので、前半「実話ベース編」として、一旦切ります。後半は「これぞハッピーエンド編」になるかと思います。
「実話ベース編」はやはり映画にしてしまうくらいの出来事なので、真面目になってしまった…。
別にいつもこんなクソ真面目に考え事しながら観ている訳ではないので、あしからず。

余談
「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」という映画も実際の事件から着想したという映画があるのだが、多分一生、人に勧めることはない…。
面白くなかった訳ではなくて、なんならずっと間抜けな感じが面白いし、無駄に緊張するところもあって最後まで観ていられる。
そして「なぜ死んだのか」が最後にちゃんと明らかになるのだが、理由が判明した瞬間もう白目。しかも、そこが実話という点がもう理解不能である。
その理由を回想するような映像描写はなく、というか全体的にグロいシーンもなかったと思うのだが、オチがエグすぎて映画館で白目。
今、思い出しても白目。

ただ、オチにばかり目がいってしまいそうなのだが、社会的にマイノリティーというか“異質”と捉えられるような存在が、ナチュラルにその場に存在しているという、意外とすごいことを普通にやってのけていて全体的には興味深い。
ダニエル・シャイナートという監督さんで、前作「スイス・アーミー・マン」もむちゃくちゃ変な映画。
主演のダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッターね)はなぜこの映画に出ようと思ったのだろう…みたいな感じだったのだが、よくよく考えると、人間と死体がナチュラルに存在(共存?)していて、面白いなぁと思った次第である。

ちなみに、この監督、昨年狂気の旋風を巻き起こした「ミッドサマー」に対し、「奇妙な展開に驚き、永遠に笑い続けた」と言っており、またエンディングで虚しく響くNICKELBACKの「How You Remind Me」の起用が、内容と合っていたからという理由以外に「自分の最も嫌いなバンドの曲をあえて使った、映画を見た後に聴くと良く聞こえる」とか言っている。
↓ そのインタビュー
https://theriver.jp/dicklong-nickelback/
ただ狂っているのか、むちゃくちゃ頭がいいかといった感じの変わった人である。
そして「ディック・ロング」として劇中で死ぬのも彼である。
A24の映画なので、面白いのは明らかなので、白目覚悟で観たい人は観てみても良いかと思います。(結局薦める)


またA24の映画についても、今後まとめてみたいと思います。
それでは、また。

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